その167 なかったことにならないでしょうか
★
クロウムさんのアドヴァイスも受けたところで、私は今回の得た知見と、行うべきタスクを見直すことにした。
しかし、私一人の頭脳ではまとまるものもまとまらない。
優秀な頭脳が必要だった。
そして頼りがいのある頭脳と言えばヘンリーである。
生徒会の一員として日々を忙しく過ごす彼に……特にこの新学期直前という事で更に忙しくしている彼に迷惑をかけるのはオタクとして望むところではないのだけれど、一つ気になることもあって、私は生徒会室に向うことにした。
なんというか、最近のヘンリー……滅茶苦茶暗いのである!
あれほどまでに輝いていたヘンリーが、ここ最近はくすんだ宝石のような有様になっており、
多忙さも合わさってそのケアもできていないのか、日に日にそのくすみは大きくなっていた。
推しには常に笑顔でいて欲しい私としては、この事態は看過できない。
早急に理由を探り、問題解決に動きたい。
そんなわけで、様子伺いも兼ねた訪問だったのだけど……その日のヘンリーもやはり少々様子が変だった。
と言うのも、ここまでの私の話を聞いたヘンリー、その第一声が──
「愛とはなんでしょうね……」
──なんだもの!
そんなイケメン過ぎる独り言あります!?
「へ、ヘンリー? 大丈夫ですか?」
「ああ、いえ、割と大丈夫な方です。なるほど、ご先祖様がそんな面白い人物だったとは」
「面白いと言うか恐ろしいと言うか……」
「しかし、その話、こちらとしてはかなり希望のある話でしたね」
「そうなんですか?」
色々と解決策と言えるものは教えて頂いたけれど、しかしながらどれもヒントみたいなものであり希望と言えるかはまだまだこれからな気がする。
いや、そういうのを希望と言うのかな?
「ええ、クロウムさんは『記憶をもう一度消せばいい』という話をしていたそうですが、それは中々面白い話です。勿論、全てを忘れてしまった貴女を見るのは避けたいところですが、一考の価値はあります」
「まあ、確かにそれはそうなんですよね」
前世の記憶が消え次第、圧倒的な魔法を手に入れることが出来る私である。
いわばそれは変身のようなものであり、お手軽に強くなる方法があるのに、それを捨てるのはやや勿体ない話かもしれない。
とはいえ、記憶を何度も失うと人格に歪みが出るみたいなことをクロウムさんは言っていたしなぁ……。
「色々と問題はあるようですが、しかし一部分だけならどうでしょう?」
「い、一部分だけですか?」
「はい、要するに記憶の全てを消す必要はないわけです。魔法を阻害している記憶、その部分だけを消すことが出来れば、負担も少ないのではないかと」
「なるほどー! それならみんなとの記憶も残りますしね!」
私個人として問題視しているのは、私の記憶が消えることにより推し一同の優しい心にダメージが入ることである。
それも一部分だけなら、さほど私も変わらないだろうし、恐らくきっと問題ない!
…………いや、問題あるかも。
考え直してみると阻害となる記憶は前世の記憶全体なので、この部分の記憶を失うとやはりかなりの記憶喪失となってしまう。
なにせ人生一個分だからね。これではもはや一部分とは言えない。
「……まあ、これは個人的な願望込みの提案なのでやめた方が無難だとは思います。そもそも記憶を消すだけでも高度な魔法なのに、その一部分となると相当な難易度です」
「あっ、そうなんですか……ん? 個人的願望とは?」
「それは秘密です」
「滅茶苦茶怖いんですが!」
大変怪しげに微笑んで見せるヘンリーだった。
な、なにかの記憶の一部を消したいの?
一体なんの!?




