その166 空の旅旅
「吾輩が伝手を紹介してやってもいいぞ? 封印されて長いが未だに吾輩に逆らえん奴は多いからな。一筆書けば大抵の場所で働かせてやれる」
「至れり尽くせりでありがたい限りなのですが、おじ様の紹介する職場は危険と混沌の二毛作な気配がするので、ひとまず自分で探してみます!」
「それも良いだろう。本当に困ったら家を頼れば良い」
「確かにおじ様の口添えがあればメーリアン家も金を出すとは思いますが……」
出すとは思うのだけどあまり家に頼りたくはない。
というか、実家に頼るのも『真実の魔法』をかけられた現在では非常に微妙な感じだ。
ただ、まあ、そうは言ってもいつかは帰らないといけないのだけど……その時はどうしようかなぁ。
「なるべく自力で解決しようとする考え方は好感が持てる。今後も応援しているぞ」
「はい、頑張ります!」
「大した役に立たなくてすまなかったな」
「いえ、あの、私がビビりなだけなので……」
クロウムさんの言う通りにしていれば、恐らく大抵の問題は解決している。
しかし、あまりにデンジャラスすぎた……!
これについてはクロウムさんが悪いと言うより、私に問題を解決するには穏便なやり方では間に合わないという現実があるのだろう。
「それと……今、封印の外にいる少女のことであるが」
「ジェーンですか? 一人待ちぼうけを喰らっていて心苦しいですよね」
「それはやや可哀想ではあるが、そうではなく、ジェーンはどうやら相当な魔力を秘めているようだな」
「ああ、はい、天才なんです」
クロウムさんの目から見てもジェーンの魔法の才能と言うのはとんでもないようで、少し驚いている様子だった。
私としては待たせていることが本当に不憫でならないのだけども。
どうにかして一緒に封印の中に入れたらいいのだけどなぁ。
「仲良くするといい。友達は便利だからな」
「便利かそうでないかの判断基準で友達を作りたくはないのですが!」
「不便よりは良かろう。長く続く関係の構築に置いては割と重要なことだ」
「そうかもしれませんが……!」
相互の理解と助け合いこそが友情を長く続けるコツ、的な意味なのは分かりますけど言い方ァ!
「ではそんな友人を長々と待たせるわけにもいくまい。帰還させてやろう」
「はい! ……いや、ちょっと待ってください! 確かこの帰還方法ってあの巨大ハンマーによる射出ですよね!?」
「そうだが?」
「そうだが?じゃありませんよ! あんなことを続けていたら私のギャグ補正が尽きた時に死にます!!!!! もっと穏便に! 穏便にお願います!」
「ふむ、可愛いラウラの頼みであるし、なるべく希望に沿うとしよう」
ハンマーにぶん殴られて飛んでいくという脱出方法は流石に無さすぎる。
あんなことしていたらただでさえ低い私の身長が更に縮むこと請け合いだ。
そんな悲劇だけは流石に回避しなければならない……! 今以上に縮んだら蟻になっちゃうよ!
果たして私の意思がどれくらい伝わったのか分からないが、拝み倒す私の目の前に、クロウムさんが指をパチンと鳴らして召喚したのは──巨大な大砲だった。
ハンマー同様に黒光りしていて、その見た目は非常に重厚である。
わー、立派だなぁ……じゃなくて!
「悪化してませんか!?」
「ハンマーは射出装置としてやや不相応であったことは吾輩も認めよう。故に普通に吹っ飛ばすことにする」
「無理ですって! 大砲で飛べるのはマリオの世界だけですって!」
「安心しろ、その大砲は全て自動でやってくれる」
「己の技術を心配しているのではなくてですね……うわっ、なんか大砲が大きな口を開けて迫ってきます! ホラー! ホラーすぎますよ! 自動って大砲の中に入るところまで自動って意味ですか!? でもこれはもう捕食ぅ……」
目の前に迫って来るのはその口を広げて近付いてくる大砲くんである。
逃げる能力も普通ないので食われてしまい、私の視界は真っ黒に染まる。
こ、これは今、大砲の中ってこと!?
「打ち上げ5秒前、4・3・2……」
「既にカウントダウンが始まっている!」
私の意思とは関係なく、無情にも大砲の火蓋は切られ、轟音と共に私は空の彼方へと吹っ飛ばされていく。
「のわあああああああああああああああああああああああ!」
「ナタにもよろしく伝えておいてくれー」
こうして私は史上最低な空の旅を味わい、こう思った。
ジェーンとの空の旅は最高級のファーストクラスだったと。
きゃ、キャビンアテンダントも最高だったからね!?




