その164 ethics/zero
それを脱ぎ捨てられると本当にラスボスになってしまいますからー!
クロウムさんはなんか魔法で変身して化物とかになれそうな感じがあるし、割と本格的な危機がそこにはあった。
「では比較的ぬるい解決方法から行くか。まず、記憶が問題なら記憶を消せばいいという解決方法は一度通ったようだが、しかし、そこで諦めるのは良くないな。何度でもやるべきだ」
「も、もう一度記憶を消せってことですか?」
「それが最もお手軽な方法である。戦う時だけ記憶を消せば良いではないか!」
めちゃくちゃごもっともな意見ではあるのだけど、しかし、やはりやや人道にかけている面があった。
いや、これは私の個人的事情が大きいのだけどね?
「記憶を消すと推しが大層悲しむそうなんです……別の方法はありませんか?」
「ふむ、まあ、そうでなくとも、この案は記憶を何度も消すと人格に歪みが生じる危険性があったので止めた方がいいだろうな」
「そんな案を提案しないでくれます!?」
「危険だからと言ってその案を教えないことこそが不誠実だと吾輩は思っているのでな! では次の案だ」
さも当たり前のようにとんでもないことを言うクロウムさんに、私は一瞬めまいがした。
や、やっぱりこの人怖い……。
怖いけれど、それ故に惹かれる怖くて蠱惑的な魅力もあって、それが更に怖い!
そして自分のオタクっぷりが怖い!
「前世の固定観念が問題になっていると言うのなら、その固定観念を壊せばいい」
「私の常識をぶっ壊すと言うことですか?」
「現在、魔法を使えないとラウラは思い込んでいる状態なのである。なら、そのコリコリに凝り固まった認識を変えなければならないだろう」
「な、なるほど……」
実に真っ当な意見に逆に驚く。
まともなことも言えるじゃないですか! クロウムさん!
確かに私は魔法を使えない、いやさ、自分などが魔法を使えるわけがないという認識を持っている気がする。
その考え方そのものが大きな障害になっているということか……。
「それで、えっと、どう変えるんですか?」
「もっとも簡易的な方法は催眠、もしくは洗脳であろうな」
一瞬でも安心した私が馬鹿だった!!!!!!
「おじ様はいちいち物騒すぎます!!!!!!!」
「何故だ!? 最も効率的だと言うのに!」
催眠とか洗脳とかを真面目な話で聞いたのは初めてですよ!
エッチな同人誌でのみ存在する概念じゃなかったんですか!?
「非効率でもいいので、もっと穏便にお願いします……」
「ふーむ、では常識が壊れるほどの体験をするのが良いだろう」
「常識が壊れるほどの体験とは……?」
味わおうと思って簡単に味わえるような体験にはとても思えないのだけれど……。
しかし、クロウムさんはそうは思わないらしく、無邪気で邪悪な笑顔で話を続ける。
「方法は色々とあるが、もっとも簡易的なのは戦場に行くことであるな! 今までの常識がまるで通じない場所でもあるし、危機的状況での開花も期待できる。そして己の感情のピークも体感できるぞ! 少々危険だが、なぁに、護衛を付ければ大きな問題にはならない。それに、ある程度の怪我なら吾輩手ずから直してやろうではないか!」
「まずおじ様の常識が壊れすぎている気がします!」
「おお! それは言えているな! そうか、常識が壊れたものが常識の壊し方を教えようとすると過剰になるのか。勉強になったな!」
気付きを得て嬉しそうにするクロウムさんだが、私はもう顔面蒼白である。
危うく戦場に送られかけている……!
私のようなスライムを戦場に送ったら一秒後はただの液体になってるよ!
「じゃあもうなんか新しい環境に身を置けば良いのではないか? 異国に行くとか」
「急に適当になりましたね!?」
「過剰でない方法で常識を壊すのは難しくてな。あー、山籠もりとかどうだ?」
「山籠もりはまあまあ有りな気はします」
要求レベルが優しくなってほっと一息つく私だが、同時に違和感を覚える。
…………いや、本当に有りかなぁ!?
山籠もりって結構すごいことじゃない!?!?
な、なんか認識がどんどんズラされている気がする!
これはまさか最初に無理難題を言ってからその後の少し緩い意見言って通そうとする交渉術!?




