その163 人肌脱ぎましょう
「というか、私も新学期からは魔法を鍛えないとなんだよね……全然出来る気がしない!」
世界の危機、金、『真実の魔法』、魔法習得、私の眼前にそびえる未来は問題だらけだった。
だからこそ、過去に救いを求め始めているのかもしれないな……。
いや、こんな考え方ではいけない! 推しの未来の為にも明日を生きないと!
「ご協力しますよ! ラウラ様の魔法は本当にすごいんですから」
「実感がゼロ過ぎる……!」
「私なんてすぐに越されちゃいそうですが、ラウラ様に負けないように頑張りますね」
「なんかプレッシャーかけてない!?」
「ふふふっ」
ジェーンは屈託のない笑みで私をからかう。
その花開く蕾のような表情を見ていると、なんだか色々な不安が吹き飛んでいくような気持ちにさせられた。
なんって健康的な笑顔! 或いは麻薬的な魅力!
世界の危機も、『真実の魔法』も、魔法を習得するという苦難も、その全てがなんとなる気がしてきた!
「よーし! お姉さん、バリバリ魔法覚えちゃうぞー!」
「その調子です! 共に頑張りましょう! おー!」
★
「いや、ラウラが魔法を覚えるのはかなり難しいだろうな」
「即落ち!?」
ところ変わって封印内部、本当にすんなりと中に入ることが出来てしまった私は、クロウムさんと前回同様向き合って話していた。
前回と違うところは新たにソファーが設置されていたことだろうか。
フワッフワでラベンダー色のそれはどうやら私のものらしく、やや遠慮しつつも腰かける。
「そもそも本当に魔法が使えるなら今までも多少は使えるはずだろうに、まるで使えなかったということは容易ならざる問題がそこに介在しているからに決まっているであろう」
「新学期に向けて夢いっぱいの私に何故冷や水を滝のようにかけるのですか! メンタル滝行はお断りしております!」
「魔法に関しては嘘が付けないものでな。愛するお前に優しくしてやれなくてすまない」
「くっ……言う事がいちいちかっこいい……」
クロウムさんは相変わらずの性格で相変わらず私のツボを押さえていた。
しれっと砂糖をぶち込んでくるんだよね。貴方は私の心を贅肉塗まみれにするつもりですか。
「前世のラウラの記憶が強力なストッパーとなっているのだろうな。そうでなければメーリアン家の者が魔法を苦手などあり得ない話であるし」
「家名の恥さらしで申し訳ありません……!」
「当家に恥などと言う概念はないので安心しろ」
「まあ、そうじゃないと悪評まみれにはなりませんけども、堂々と言う事ですかね?」
メーリアン家は先祖代々恥知らずな家系らしい。
なかなか最低な家系だな……。
倫理観もあんまり知らないしな……。
「名より実を取る家なのである!!!!! 名声などいずれは崩れ落ちるもの、最後に生き残るは実力のある者たちだと思わんか!?」
「実力があるっていうか、メーリアン家は虚実があるって感じですが……」
「それも良い。虚々実々も重要な力であろうとも」
総括するに、とにかく怪しいメーリアン家なのだった。
嗚呼、我が家ながら筋金入りの暗黒屋敷……。
「そして私の魔法習得も暗黒的で絶望的なのですね……」
「なに、月のない夜のように絶望的ではあるが希望がゼロなわけではない。大事なのは工夫すること、そして裏をつくことだ」
「何か方法があるのですかおじ様!」
私が嬉々として、或いは縋るようにクロウムさんに詰め寄ると、彼は相変わらずの不気味な笑みを頬に刻む。
「はっはっは! 可愛い可愛いラウラのためだ、吾輩が一肌脱いでやろう! くだらない人間性などという倫理観を、社会性動物の持つ善とやらを、虚飾に満ちたヒューマニズムを、脱ぎ捨ててやろうではないか!」
「おじ様、それは一肌じゃなくて人肌です! 脱いじゃ駄目なやつです!」




