その160 金は友情を容易く破壊する
私の解決策という言葉を聞いてナナっさんはフルフルと顔を横に振る。
揺れる頬の波が、世界一可愛らしい大海原を生んでいました。
「あまり期待はしてくれるでない。解決とまではいかない上に、我ながらかなーり雑な方法じゃ」
「ナナっさんにそう言われると、とんでもない雑さな気がして冷や冷やします……」
なにせ『真実の魔法』をかけられている私ほどじゃないにせよ、ナナっさんは大変素直な人なので、その言葉に嘘偽りはあまりないのだ。
その上、素の性格が雑なところがあるので、そんな人にすら雑と言われる策とはどれほどまでに雑なのか、逆に気になってしまうくらいだった。
「雑さで言うと、料理をフライパンのままに食うくらい雑じゃ」
「想定以上に雑です!!!!!!!」
「或いは足で扉を閉めるくらいには雑じゃな」
「もはや失礼でさえあります!」
流石の流石にそれは雑過ぎる!
それはもう秘策は秘策でも、秘密の策と言うより秘密にしていたい策じゃないですかー!
「と言うのも、少々不格好になるんじゃよ」
「不格好ですか? いえ、それは最初から不格好なので気になりませんが!」
「自己評価が低すぎるのもどうかと思うんじゃが、まあよい。儂の秘策と言うのは──これじゃー!」
ナナっさんが何処からともなく取り出したるは、なんと真っ黒なマスクだった。
ただし、一つおかしな点として大きなバッテンマークが刻まれている。
この芸人さんが付けそうな、如何にも喋ってはいけませんよ的なマスクは一体……?
「それは『沈黙ゴールデン』という装備でじゃな、付けていると沈黙効果を得て喋れなくなるのじゃ!」
「なるほど、バッドステータスを付与するアイテムですか」
それは見た目通りの効果を持つマスクだった。
喋れなくなる、というのは一見軽い効果に思えるけれど、魔法の詠唱という重要な役目を口が備えているこの世界では、実はかなーり重いバッドステータスだったりする。
故に普通なら何が何でも身に着けたくはないところなのだけど……私は別である。
そもそも魔法使えないしね!
「これを装着しておけば静かに授業が受けられるじゃろう」
「ナイスアイデアすぎますよナナっさん! 通常なら不利な効果を完璧に有効に働かせています!」
「ただ、このマスクには三つの問題点がある」
「多くないですか!?」
三つもあったらそれはもう問題点って言うか仕様になってしまう。
もしくは常態的なバグ。
「第一に見た目が悪い」
「確かにファッショナブルとは言い難いものがありますが、私は気にしませんよ」
「むしろ少しは気にして欲しいくらいなんじゃが……第二にマスクじゃから息が詰まる」
「あっ、大丈夫です! 慣れていますから!」
この世界ではあまり見かけるものではないけれど、なにせ前世は絶賛コロナ禍だったのでマスク生活など当たり前だったのだ。
もしかすると、このマスク耐性こそが現代人としての最大の能力かもしれない!
私のチート能力はマスクにこそあったんだ!
「そして第三に一日置きの使い捨てじゃから金がかかる」
「こ、ここに来てお金の問題ですか!?」
なんと現実的な壁だろうか。私の前に立ちふさがったのはなんとお金の壁だった。
……実際に見てみたいものだけどね? お金の壁。
「勿論、儂としては援助してやりたいものなのじゃが、実はじゃな……儂は貧乏なんじゃ!」
「学院長なのに!?」
「学院長じゃからじゃ! 結構私財を投資しているんじゃよ? その上、個人で使う気が無いから割と寄付しがちでのう……」
「手持ちはないと」
そもそも立場ある人からお金を受け取り続けることそのものに問題があるので、お金があってもナナっさんから貰いすぎるのはあまり良くない気がする。
生徒と学院長の健全な関係が崩れると、そこに待ち受けるのは再びの悪評である。
これ以上の悪評はちょっと……!
「まあ、ローザにでも金を出させれば良いとも思うんじゃが」
「友達からお金を貰うと友情が壊れちゃうので! 却下です!」
「その考え方は立派じゃがのう」




