その159 私語厳禁
色々と苦労させられている身からしたら温情と言うのは受け入れがたい話ではあるのだけど、同時に、その言葉の意味が分かる自分もいた。
「『真実の魔法』をかけられても生きていくことそのものは可能じゃからな。本当に酷い呪いは、年を越せないものじゃ」
「そういう意味では嘘が付けなくなる程度ではお優しいと言うことですか……」
そう、今現在も私がそれなりに元気に過ごせているように、『真実の魔法』は苦難ではあるけれど、困難ではあるけれど、多難ではあるけれど、至難ならぬ死難ではないのだ。
悪役令嬢に大抵降りかかる処刑という憂き目に比べれば、実際かなりお優しい。
「まあ、そうは言っても嫌なもんは嫌じゃから。それはそれとしてこの魔法はクソじゃと思うが」
「つまり、クロウムさんと仲良くすることに問題はないということでしょうか?」
「いや、問題はアリアリなんじゃが、利用できるうちは利用しておくべきじゃろうな! 便利なやつじゃし!」
「確かに何でも出来そうな感じで、便利そうではありましたが……!」
ナナっさんと同類な万能染みた便利さが感じられはした。
というか、大魔法使い全般が何でもありなところがある。
でもだからと言ってそんなお得なアイテムみたいな言い方しなくても!
「しかしじゃな、やつの問題程度、これからラウラウに降りかかる問題に比べればおやつみたいなものじゃよ」
「えっ、私に何か降りかかるんですか!?」
常に何事かが降りかかってはいるのだけど、これ以上何かが!?
既にキャパオーバーなところはあるのですが!?
「それはじゃな──」
ナナっさんは私の目の前までフヨフヨとやってきて、少し溜めるように言葉を続ける。
うっ、なんだろう。世界の終りの次は宇宙の終焉とかかな?
「──ラウラウの授業の問題じゃ!」
「すっごく日常的です!」
覚悟していた問題は世界でも宇宙でもなく、もっともっと小さな学院の中の教室の中の出来事のことだった。
宇宙に比べれば大抵のことは些細な問題だけれど、これは流石に些細過ぎない!?
確かに新学期も迫りくる今日この頃、すっかり忘れられていた学院生活にも花開く頃合いなので、授業のことも意識しなければならないとは思いますが、一応、優等生様ですよ私は。
授業に付いていけないなんてことは流石にないとは思う。
多少うるさくても勉強だけは出来るこの私の、一体何が問題だというのか!
「『真実の魔法』がかけられたままに授業するとじゃな、こう……うるさいじゃろ?」
「あっ、なるほど……!」
うるささの問題だったー!
そりゃあそうだよ! 多少、勉強出来てもうるさいやつは嫌だよ!
そ、そっかー、そんな問題があったのかー……。
「授業中は私語厳禁じゃからな~」
「心の声が漏れまくると厄介ですね!」
隣で授業中にずっと喋っている奴がいたら嫌すぎるもんね。
そもそも明らかな授業妨害であり、即刻教室から締め出されるだろう。
「この間、イブンと一緒に授業を受けたじゃろ? あれは実は確認の意味もあったんじゃよ」
「あれってそういう意味合いだったんですか!?」
「結果としては黙ることもギリギリ可能かもしれないが、やはり喋るときは喋るというものじゃった」
イブンの受験対策として横で一緒に授業を受けた私だけれど、確かにあの時は横から口を挟みまくりだった。
あれが平常の授業で起きると思うとなるほど、なかなかの問題かもしれない。
せ、世界の危機を考える前に授業の危機を考えないとかぁ……。
「でも、前よりはかなり収まったんですよ?」
「うむ、そこは日々魔力の強い者と過ごすという弱体化作戦が上手くいっておるんじゃろうな。ただ、授業中は静寂が大事じゃから、きっちり黙っておくほうが良い」
「それはそうですよねぇ……」
うーん、猿ぐつわでも口に巻いて授業を受けようかな。
光景は異様になるし、結局、ガフガフいってうるさいから意味ないかもだけど。
「そこで儂は1つの秘策を思いついた」
「さすがナナっさん! 既に解決策を見つけているんですね!」




