その157 恋愛の話は慎重に
それにしてもジェーンは非常に私と仲良くしてくれているけれど、これには大きな問題がある。
いや、待遇としては良すぎるくらいで、そこに不満を持つのは高慢極まる行いだとは分かっているし、私もジェーンのそばにいるだけで幸多からん人生なのだけど、このままでは世界が滅んじゃいかねないのだ。
ジェーンは愛すべき人がいると魔法の力が増す人なので、恋をすると世界がグッと救われる可能性が高まったりする。
ので、ジェーンには私に構わず愛に生きて欲しいのだ。
むしろオタク的には当て馬になるくらいが良い人生というものだからね。
推しの踏み台になれるなんて素敵すぎる……。
推しに踏み台昇降されて健康の一助となりたい!
「そんなわけで世界の為に恋しなきゃダメなんだよ! 面白新語を作っている場合じゃない!」
「せ、世界ですか!?」
「黙っていられる口でもないから話しちゃうんだけどね──」
なるべくなら内緒でことを進めたかったのだけど、そんなのはそもそも私には不可能な話だった。
そんなわけでジェーンの恋と世界平和の関連性について、ニムエさんから聞いたとおりに私は話す。
何もこんな空中で話すようなことでもないと思うし、むしろ動揺された結果として墜落!メーデー!なんてことになったら目も当てられないのだけど、意外にもジェーンは冷静な態度で話を聞いてくれた。
そして話の終わりには、ジェーンは少し笑顔を見せる。
「なるほど、得心が行きました」
「えっ、何か分かったの?」
「はい、その、ラウラ様としては私が恋愛に興味がないことがご不満なのでしょうが、大丈夫です」
だ、大丈夫?
大丈夫とは!?
大丈夫って色々意味があって個人的にとっても怖いんだよね……!
ま、まあ確かに恋愛に興味がなくても何も問題ではないし、大丈夫ではあるだろうけれど、そういうことですか!?
改めて考えてみれば、私、結構失礼なこと言っているかもしれない。
だって恋愛について人から口出しされるのって、最高にムカつかれる行為な気が……。
秋の陽ざしのように急激に落ち込んでいく私の不安な気持ちは、言葉として吐露される。
私のお口は何時でも開きっぱなしで、トロトロなのだった。
「も、勿論ジェーンの立場からすると恋愛は強制されるようなことでもないし、私のような恋愛クソ雑魚星人が、ジェーンのような恋愛聖人君子の心配をするのも烏滸がましい話だとは思うのだけど……そもそも恋愛が至上みたいな考え方そのものが反感を生みそうだしね? でも、愛で強くなるというジェーンの素敵体質だけは事実だから、刻一刻と迫りくる未曽有の巨悪への対抗手段の一つとして前向きにご一考していただけますと、私共といたしましては大変にありがたいと言いますか……」
「あっ、そんな『私の中では大丈夫なんですけど?』みたいな意味ではなく!」
「本当に? 『うっせぇですわ』とか言わない?」
「言いません言いません!」
慌てて首を横に振るジェーンの姿を見て、私は胸を撫で下ろす。
よ、良かった……凡庸なお前じゃ分からないだろとか言われなくて……。
「そうではなくて、その、私にも大切な存在や愛すべきものはあって、れ、恋愛にも……恋愛にも、ちょっとは……いや、それなりに……すごく……興味は……興味はあります!!!!!!!!!!!」
それはジェーン至上最大級に大きな声で叫ばれた言葉だった。
顔を真っ赤にして言うものだから、つられて私も顔も空に広がる夕日のように赤くなっていく。
そ、そっか……恋愛に興味あったんだ……。
そもそも恋愛に興味がない人の方が珍しいので、当然の話ではあるのだけど、完全に興味を失っていたと勘違いしてた……!
「そ、そうなんだね……ごめん言いにくいこと言わせて……」
「いえ……」




