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その111 タイマン張ったらダチ!


 ヘンリーの可愛さと私の記憶喪失によってすべてが有耶無耶になったものの、冷静になってみると告白されてしまったわけで……。

 それを思うと心臓がドクドクどころかドッカンドッカン跳ね上がり、騒がしくて仕方ないのだけど、そんなやかましい心臓に拳を入れながら、私は先を急ぐ。

 忘れろと言われたのだし、しっかり忘れなければ!

 私の口が滑る前に!


 それにしても『真実の魔法』が残っていたら、告白されたことをベラベラ話してしまって大変なことになっていたかもしれない。

そう思うと、あ、危なかったかも!?

 ……いや、それも考慮した上で『真実の魔法』が掛かっていないからこそ、秘密も守れるだろうと思い告白してきたのかもしれない。

 口では勢いと言いつつも、やはり細かなところで深謀遠慮なヘンリーなのだった。


 さて、ここまで来たら全員に話を聞きたいので、グレンからもラウラの印象を尋ねたい。

よって、彼のいる場所まで赴きたいのだけど……。

 困ったことに、グレンには所定の居場所と言うものがないらしい。

 私が早朝に走っているとエンカウントするという、ランニング友達みたいな関係らしいのだけど、今日の朝はいつものランニングルートとは違う道を私が通ってしまったのか、彼と出会うことはなかった。

 

 うーん、どうしたものだろう。

 お兄様とは夕方以降に会う予定なので、それまでに結論を出しておきたいし、後回しにするわけにもいかないのだけど……。

 

 どうしたものかと悩んでいると、ふっと頭の中にある発想が浮かんでくる。

 き、木の上にいる気がする!

 木の上にいる気がする!?


 自分で自分の発想に驚いてしまうほど、それは突拍子のない発想だった。

 そんなお猿さんじゃあるいまいしとも思うのだけど、どうにも木の上にいる気がしてならない。

 イケメンは木の上が似合うし、グレンのワイルドキャラならあり得る気がする……!


 どうして記憶がないのにそんなことが分かるのか我ながら不思議すぎるのだけど……私の記憶喪失はエピソード記憶、つまり体験が、感情が、イベントが消えていることに理由が隠されているのかもしれない。

 私はグレンが木の上にいることを体験として知ったのではなく、学習し知識として得たということ……?

 そんなことってある!?

 あるとしても、私が不審者すぎるような……ストーカーかなにか?


 そもそも、私の記憶にはあまりにもノイズが多すぎるきらいがあった。

 なんというか……存在しない物の知識も混じっているような、そんな気がする。

 それくらい私が妄想過多で脳内お花畑だったということだろうか?


 う、うーん……考えれば考えるほど、記憶を失う前の私の謎が深まっていく。

 未だにラウラへの、自分への警戒心を強まっていくばかりだが、一時保留し、私はグレンがいる気のする木の場所まで急ぐ。

 気のせいだった方が嬉しいかもなんて思いながら。

 木のせいだけに!





「ほ、本当にいた……」

「人の顔を見て驚いてんじゃねぇよ!」


空を見上げながらキョロキョロと歩いていたところ、木々の中に本当にグレンはいた。

いや、結構衝撃的な光景だよこれ!?

なかなか頭上に人間を見つけることないからね!


「何故そんな場所に!?」

「風が気持ちいいだろ? それに人間っていうのは頭上の注意が薄いから、バレにくいしな」

「意図的に隠れてたんですか?」

「孤独が好きなんだよ」

「く、クール! かっこいいです!」

「へっ、まあな!」


 自慢げに鼻の下を指でこするグレン。

 格好つけることには一家言あるらしい。

 というか、その動作を実際にする人、私は初めて見た気がするよ!

 良くお似合いですけども!


「それでなんかようか、記憶失ってるのにあんまり動かねぇ方がいいと思うんだが」

「ごもっともな意見ですが、えっと、どうしても知りたいことがあるもので」


 お優しいグレンはこちらのことも気づかってくれて、本当にありがたい限りなのだけど、今は何より情報が欲しい私だった。

 本当の本当に優しさは嬉しいんだけどね!

 もうなんか……好き!

 素で木に登るところが良い……略して素木!


「ふーん、何が知りたいのか分からねぇが、実は俺もお前に聞きたいことがある」

「何でも聞いてください!」

「聞くと言っても言葉で尋ねるって言うより、体に聞くって感じだが」

「体で!?」

「変な意味じゃねぇよ!」


 思わず身を抱きしめてしまったが、いやらしい意味ではなかったらしい。

 当たり前だけどね?

 むしろこの場面でいやらしい方向だと思う私の脳内がピンクすぎる!

 ラウラ・メーリアンはやはり変態……!


「今のお前、めちゃくちゃ強いんだろ?」

「恐らく」

「全然強そうに見えないのにな」

「ええ、むしろウサギより弱そうです」

「小動物に負けるのか……」

「余裕で負ける自信があります!」


 猫にもウサギにも、何なら赤子にも負けそうなほど弱弱しい私である。

 まるで強そうに見えないのはまったくもってその通りで、未だにチート級を手にしたなんて信じられない気持ちでいっぱいだ。

 けれど、事実として私はグラウンドをぶっ飛ばしてしまっている。

 大怪獣ラウラメリゴンとして……!


「マイナス方面の自信がすげぇのは置いておいてだな、俺はお前の強さに用があるんだよ」

「まあ、弱さに用がある人なんていませんよね」

「要するにだ」


 ひょいっと木の上から飛び降り、芝生の上に華麗に着地するグレン。

 その姿は最高にイケメンで、最強にかっこよくて、何故だか懐かしい光景だった。

 そしてグレンは拳を固めると、私に前に突き出して、こう言った。


「俺とタイマン張ろうぜ」


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