その108 変態かそうじゃないかと聞かれると…
なんだか私と言う存在に更なる疑念を抱きつつも、やって来たのは生徒会室。
イケメンたちの中でも一際強く輝いていた金髪王子のヘンリーは、基本的にいつもこの部屋で雑務に励んでいるらしい。
……しかし、一応は冬休み中だというのに、いつも生徒会室にいるのは仕事熱心を通り越してワーカーホリックな気配を感じる。
それとも案外、誰も見ていないところでは、生徒会室内にいてもリラックスしているとか?
そっちの方が気が楽だからと言う理由で、休日に仕事場に来る人と言うのは一定数いると聞く……いや、一体誰に聞いたの私?
私の知識、なんか変な偏り方してるんだよね……どういう人生を歩んでいたのやら。
「ラウラ・メーリアン(記憶喪失の姿)です!」
「ラウラですか。どうぞ入ってください」
ノックして素性を告げると、中からそれだけでイケメンだと分かるヘンリーの透き通った声が聞こえてくる。
大変緊張しながらもドアを開け、部屋の中を窺うと、光をまとい揺れるカーテンを背に、一人涼しげな顔で机に向かうヘンリーの姿があった。
こ、神々しい!
まるで一枚の絵! ステンドグラスに描かれていても不思議じゃない神聖さ!
ドア一枚隔てたら急に教会についてしまうなんて、まるでどこでもドア!
……どこでもドアとは!?
「どうしたんですか? そこに座って貰って大丈夫ですよ?」
「あっ、す、すいません……あまりに美しい光景に見惚れてしまって……!」
「ふふっ、記憶を失っても貴女は変わりませんね」
ヘンリーは呆れたように、或いは何処か嬉しそうに口元を緩ませている。
前の私もこんな感じだったということは……つまりまあまあ怪しい奴だったということでは!?
自分で言うのもなんだけど、今の私も相当変だよ!?
「失礼します……」
なんだか恥ずかしくなって、私は赤い顔のままに椅子に座るのだけど、ほ、本題切り出すのも緊張するなぁ!
あの、私のことどう思います?
なんて聞くのは、やっぱりなんだか自意識過剰っぽくて大変言い出しにくい。
上手く言い換えられないものだろうか……。
「その後、何かおかしなことはありませんでしたか?」
「あっ、大丈夫です! おかしなのは私だけなので!」
「……『真実の魔法』本当に解けていますか?」
「あれ!? 何か変ですか!?」
変なことを言ったのかと慌てる私を尻目に、ヘンリーはジッとこちらの方を見て、何事かを考えていた。
そんなに見られると物理的に溶けそうなので勘弁してほしい。
「ふむ、そもそも素直な性格なのかもしれませんね。というか、なるほど、無口な人は素直かそうじゃないかが、普通にしていると分からないものですか」
私の言動に何やら考察を深めるヘンリー。
彼が言うには私は生来素直な性質だが、人と接していなかったためにそれが露見してこなかったということらしい。
そうなると記憶を失う前の私もまた、魔法関係なく素直という事になるわけで、これもまた私を知る一助となるだろう。
ヘンリーは聡明かつ人を良く観察している……と言うのはナナっさんからこっそり教えてもらったことなのだけど、少し話しただけでもそのことは良く伝わってきた。
これはもっと話を聞かなければ!
「あの、私ってどんな子でしたか!」
「面白い子でしたね。貴女のおかげで毎日が楽しいです」
「そ、それは良かったです……」
「次から次に事件を起こすので、良い娯楽ですね」
「娯楽扱い!?」
もしくはおもちゃ扱い!?
「記憶を取り戻すかどうかを、自分探しの中で決めようと言う感じでしょうか? なかなか面白い考えですね」
「とんでもない極悪人だったら困るので!」
「はっはっは!」
私の言葉を聞いて高らかな笑い声をあげるヘンリー。
自分を極悪人扱いしたら超楽しそうに笑われてしまった!
「悪人と疑われて『真実の魔法』を掛けられた貴女が今度は自分を疑うなんて、なんとも因果な話で、ふふ、笑えます」
「そ、そんなにおかしいですか?」
「ラウラが自分を極悪人なんて言っている姿は、威嚇する小動物のようですね」
「からかわれていますか!?」
明らかにこちらを面白がるようなこの素振り。
そして心底楽しそうな彼の表情!
あれ? 優しそうなイケメンだと思っていたら、なんかちょっと違うぞ!?
よく見たら背後に黒いオーラが見える……。
このオーラ……まさかドS王子か!
くっ、油断していた!
まさかこんな人の良さそうな金髪で笑顔の貴公子が……貴公子が……いやいや、そういうのこそドSなんだよ!
そうかー、ヘンリーはドSさんだったのかー。
き、嫌いじゃないなぁ……なんでだろう……むしろ超好きだ……。
そしてそんなヘンリーのドS攻撃を受けて何処か嬉しくなっている自分に私は気付く。
ほ、本格的な変態だ私!
変態なの!? 変態だったのラウラ・メーリアン!?




