その107 何が嘘で何が本当か
「すいませんラウラ様、ローザは『素直の魔法』を掛けられていまして、正直者になっているんです!」
「あっ、そ、そういうこと!?」
「私は大罪を犯したものですから……そんな私に許しを与えたラウラ様は慈悲深いとしか言いようがありませんわ」
赤くした顔にハタハタと風を送りながら、ローザは俯いて、重苦しくそう口にする。
その姿からは罪の意識がありありと感じられた。
ローザは私に『真実の魔法』を掛けた張本人だという。
今は一時的に解除されている為、私にはその魔法の恐ろしさが実際のところは分からないのだけど、嘘がつけないなんて人生に置いてデメリットしかないのは間違いない。
ただ生きていくだけでも、相当な不利益を被るはず。
そんな魔法をかけたローザを寛大に許す私の姿は確かに優しすぎるほど優しい。
まあ、今の私も制裁を与える度胸なんてないので、結局許しちゃうだろうけれど……。
誰かに罰を与えるほどの勇気も私にはないのである。
ではラウラもそんな心積もりでローザに許しを与えたのだろうか?
何となくだけど、それは違う気がする。
ラウラはもっと積極的に、ポジティブに許しに行っていると思う──それは何故?
……ローザのことが好きだったとかかなぁ。
しかも並みの好きではなく、愛の部類!
つまり……私って同性愛者!?
お、思い当たるふしは多い!
なんか美少女も美少年もどちらも同じ視線で見ている気がするし、彼・彼女らの美しい姿に興奮しているし!
あれ、むしろ両性愛者の方かな!?
「ええっと、じぇ、ジェーンの方はどうかな?」
己のヤバい思考から逃避するように、今度はジェーンに話を振ってみる。
すると彼女は欠片も悩むそぶりを見せずにこう言った。
「全ての物に愛を持って接する方でした。私の憧れです」
「そんな聖母みたいな人だったの私!?」
もはや宗教の旗印じゃん!
偶像じゃん!
お、おかしいな……良い人か悪い人かを知りたかったのに、話のレベルが三段階くらい高いぞ。
気のいい人を想像していたら救世主が来たみたいな。
或いは面白い人がいるよって聞いて見てみたら芸人だったみたいな……。
ただ、一つだけ言えることがある。
それは私がそんな偉人なわけがないということ!
つまり、間違いなくみんな騙されている!
……でも嘘がつけないんだよなぁ、ラウラ・メーリアン。
嘘がつけないのにどうやって人を騙すというのか。
うーん、もはやラウラを認めるしかないのか……。
……いや、嘘がつけないことそのものが嘘だとしたらどうだろう?
これなら、嘘がつけないという身分を利用して好き勝手に生きることが出来るので、『真実の魔法』を掛けられているにも関わらず、平然と楽しく毎日を過ごしていた理由も分かるし、ローザを積極的に許しに行くのも納得がいく。
嘘がつけないことそのものが嘘!
この理屈なら様々な疑問が氷解する!
ついにラウラ・メーリアン巨悪説に一つの希望が差し込んだ。
……差し込んだけれど、我ながらさすがに疑いすぎかなぁ。
『真実の魔法』という前提まで疑い出すのはなぁ……。
いやいや! 自分を見極めるためにはどこまでも疑っていかないと駄目だ!
私は自分の気合を入れなおすように、拳を固める。
入念に、そして執拗に疑念を掛けてこそ、私がいい子だった時の証明にもなるはずだ。
「私、ラウラ様とお友達になれたことが、人生最良の出来事だったと思っています」
「お世辞にしても言い過ぎだよ!?」
「私はラウラ様に嘘はつきません! 本当にそう思っているんです!」
「うっ、強い目……!」
ジェーンの瞳は強い意志を秘めていて、まるで黄金のように輝いている。
その目を見ているだけで、彼女が嘘をついていないことが一発で理解させられた。
ら、ラウラ・メーリアン慕われすぎている……!
そのラウラを疑っている私の胸がなんだか痛い!
自分のことなのに! 自分のことなのにー!
「じゃ、じゃあ、ジェーンはやっぱり私に記憶を取り戻して欲しいのかな」
「それは…………それは私が決めることではありませんから」
そういってその強い目を逸らし、少し悲しげに瞳を閉ざすジェーン。
その視線を見るだけで、本当は私に記憶を取り戻して欲しいことが、ありありと伝わってくる。
まあ、友達が記憶喪失になったら元に戻って欲しいのが普通だよね。
けど、私はまだその判断を下すわけにはいかないんだ……!
私に厳しくありたい私なのです!
ただ、目の前の少女の悲しい顔を見たくないから、そんな理由で記憶を取り戻すのもありなのかなと、少し思った。
それくらい、ジェーンの私を憂う姿は……悲しいものだったから。




