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妹to漫才  作者: 瀬戸くろず
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「にゃ〜ん」


「……おっ、猫の鳴き声」


 金曜日の午後5時、日中のうだるような暑さも少しは鳴りを潜め、ほんのわずかな涼を感じるべく、俺こと美津留はコップに注いだ麦茶片手に家の一階にあるウッドデッキへと足を伸ばした時のことだった。


 しかし、猫の姿はどこにも見当たらない。……空耳だったのか? ……まぁいいか。そのまましばらく麦茶を飲みつつ、ウッドデッキの椅子に腰を落ち着かせていると──。


「兄さん、兄さん、こんなところで何をしているんですか?」


「ん、ああ、京華か……」


 庭の入り口の方から、ひょっこりと現れたのは妹の京華だ。セーラー服を着ていたので、どうやら学校帰りらしい。

 妹はそのまま俺の方まで寄ってきて、隣の椅子に座った。鞄は椅子の側に立てかけている。


「ところで兄さん、私気になることがあるのですが……」


「……なんだよ、気になることって」


 ……まぁ、聞くだけはタダだし。


「私の分の麦茶がありませんよ?」


「──いや!? 自分で用意しろよ!?」


「……兄さん? 今のは妹憲法第222条に抵触する恐れがあります」


「──なんだよ、妹憲法って!? しかも第222条まであるとかやばっ!? 日本の憲法超えちゃってるよ!?」


「現在、妹憲法は第2266条まであります」


「22倍じゃん!? 日本の憲法の22倍の多さじゃん!? てかっ、そんな法律があってたまるかっ!!」


「兄さん、お願いです。私の分の麦茶も用意してください」


 京華は俺にしなだれて上目遣いでお願いする。……くそぅ、こういうことをされると兄としてはどうも弱い。


 俺は椅子から立ち上がると、冷蔵庫に向かう。


「……わかったよ。持ってくるからちょっとまってろ」 


「40秒で用意してね、兄さん!」


「──お前はピンク髪のツインテールおばさんかっ! すぐに用意するから大人しく待ってろ!」

 

「はーい」


 ……ったく昨日の借りたDVDの影響だな全く。

 俺はすぐに冷蔵庫から冷えた麦茶を用意する。コップに注ぐとベランダへと戻った。


「……ほら、お望みの麦茶だ。ありがたく飲め」


「わーい、ありがとう兄さん。この恩は一生忘れないよ!」


「……いや、麦茶ごときで大袈裟な」


「わかった、ならもう忘れる事にするね!」


「──お前は0か100でしか物事が見れない奴か!!」


「麦茶おいしーい!」


「──人の話を聞け!!?」


 京華は美味しそうに麦茶を飲んでいた。……ったく都合が悪くなるといっつもこれだ。


「あっ! そうだ兄さん。私兄さんに聞きたい事があるんだったよ」


「……何だよ、聞きたいことって」


「学校でさあ、犬か猫、買うならどっち? みたいな話を友達としていたんだけど……あっ」


「……どうした?」


 京華が急にやべえみたいな顔をしていた。何なんだこいつ。


 ……しかしまあ、よくある話だな。学校で友達と話す話題ランキングトップ10入りしているといっても過言ではないな。


「……ごめんなさい兄さん、私無神経だったよね」


「……? 一体何の話をしているんだ?」


「え? だって兄さん、学校に友達いないのに私つい友達のことを思い出させるようなこといっちゃったから……」


「──いや! 友達くらいいるわ!! どちらかといえばお前が俺に対してそう思っていたことの方が俺は嫌だよ!!」


 こいつ俺のことを何だと思ってやがるんだ。


「あ、そうなの? なら話進めるね」


「……この切り替えの速さよ」


「それでね、私は絶対に猫派なんだけど、友達はね、犬派だって言うんだよ? 兄さんどう思う?」


「……どうでもいいと思う」


「──もう! 兄さん、私は真剣に悩んでいるんだよ!」


 ぷんぷんと可愛く怒る京華。


「いや、真剣に悩んでいるっていっても、ただ単に犬か猫、どっちがいいって話だろ? そんなの一個人の嗜好の問題だからな。俺がとやかく言ってもしょうがないだろ」


「なら、兄さんはどっち派なの?」


「俺はそうだな、猫、かな」


「──私と一緒だね、さすがは兄さん! 一生を誓い合った仲だね!」


「……いや、それじゃあ俺をお前が結婚することみたいになってるじゃねえかよ……」


「──ええ!? 兄さん、私の事をそんな目で見ていたの!?」


 ガタッと椅子から立ち上がり、大袈裟に驚いて見せる京華。


「……あくまでも、そう見えるって言っただけだ。本気にとらえるなよ」


「……で、でも兄さんがもし本気なら……」


「おーい、京華」


「……まずはお父さんとお母さんにどう説明したら……」


「京華、帰ってこーい」


「──はっ、そうだ! まずは法律を変えるところから!」


「──京華!」


「え? 何、兄さん。どうしたの?」


 俺の声にやっと反応した京華。キョトンとしている。


「……どうしたのじゃないだろ、妄想するのは一人の時にしてくれ……」


「一人の時の私の妄想はこの程度じゃすみませんよ!」


「──何を偉そうに自慢してんの!? 全然自慢できるような内容じゃないから!」


 ドドーンっと胸を張って不遜な態度で椅子に座る京華。


「ところで兄さん」


「……ん? どうした」


「猫の鳴き真似ってできますか?」


「……猫の鳴き真似? まあできないこともないが……それがどうかしたのか?」


「私とどっちがうまいか勝負しましょう」


「勝負?」


「はい、それで負けたほうが勝った方の言うことを何でも聞くと言うことでどうですか?」


「……いやまあ、別にいいけど」


「では、まずは兄さんからどうぞ!」


「……俺からかよ……まあいいか。えっと、に、にゃ、ああー。……ほらどうだ」


「ただに兄さんのひしゃげた声でした」


「──俺のひしゃげた声ってなに!?」


「兄さんはまだまだですね! それでは次は私の番です! いきますよ〜」


 椅子に座ったまま背筋を伸ばし、息を吸うと京華は声を出した。


「にゃ〜ん」


「──さっきの猫の声はお前だったのかよ!!」


「えへへ〜、ばれちゃいましたか」


 これが俺達兄妹のくだらない日常だ。


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