９４）１２歳 ２４月４０日 年終わりの記録
そして次の年は順調だった。結局一町分の棚田で取れるコメの収穫量はなんと十五人分が一年食べる分だった。税金として七人分を引き、家族が食べる分として四人分を引いても四人分が余った。なので風呂や水の樽のある屋根の下に高床式倉庫を作り、そこに二人分の玄米を貯蔵し、将来に備えた。残りの二人分のコメは特大の樽を購入するのに使ったのと、馬をもう一頭買うのに使った。やはりアヴィンには俺のお古をやるのは申し訳なったからな。
アヴィンはまだ主に家で住んでるがたまに自分の敷地に来て数日過ごしてから帰ってる。なんでも妹たちの世話をするのが好きだとさ。ヤバイな、あいつの浮いた話を聞かない。もう十二歳だぞ。早く結婚しろよ、と言いたいがそれを言ったら多分ケンカになるので言わない。気長に待つしかないのか。
ボウアはフライングシャトルをいつのまにか作っていた。糸と板を使って片手でシャトルを行き来させてる。ピンポンみたいだってヤマトが言ってた。あれがあると滅茶苦茶織るのが早い。というか織るのが早すぎて糸が完全に足りない。俺が田んぼの畔で作る綿なんかじゃ全然足りないから今じゃ菜園を広げてそこでも作ってる。そしてそれでも足りないんだ。綿じゃなくて糸を作るのが時間が掛かるのかとも思った。が、アヴィンとエイディーンが作った糸車が結構普及したのにも関わらず糸が足りない。ヤマトがスピニングジェニーとか言って糸車を何台も合わせたような水力で動く機械があると言ってるが、本人も作り方がわからないのでしょうがない。糸不足の解消のために将来だれがが考え付くかもしれないな。
機械と言えばアヴィンに頼んでドラムカーディングの機械を作ってもらった。これで子供でも綿を簡単に一方向に梳くことできる。普段はじっとできないテメシスがこれだけは出来る。なんでだ？ セヴリナは糸車で糸を紡いでるな。だからウチでは女三人で沢山織ってる。テメシスが綿の繊維をそろえて、セヴリナが糸を紡ぎ、それをボウアが織る。織物の売り上げがどのくらいなのかは俺はわからない。秘密だって言って教えてくれないんだよ。
とにかく糸が足りないなので最近ブロガンが船で持って来てるのが綿だ。村長も村に船がこれたほうがいいと思ったのか職人たちを動員してマギー兄さんの南隣の敷地にすんでるデルマさんのとこに簡単な桟橋と波止場を一年かけて作った。まあブロガンの持ってる船のサイズくらいしか泊まれないがね。で、村の大工たちがボウアの使ってるような横に置くタイプの機織り機や糸車を沢山作って、ケーバさんも少数精鋭よりも即戦力を育てる方針で弟子を取ってはすぐ卒業させてる。アヴィンとコーラさんはドラムカーディングの機械だな。これって絶対にヤマトの言う産業革命の初期のような気がするんだがどうなるんだ？ ケーシーさんにも聞いたけど石炭が無いからな。
話はかわるが、ティルガン親方が俺のとこに一回愚痴りに来たと言うめずらしいことがあった。なんでも本当はサヒットに次代の親方になって欲しいらしいんだが、サヒットとアヴィンが新しいものをポンポン作るのと、サヒットが俺はまだ未熟だから弟子を取れないとか言ってるせいで後を継がせられないと。まあそうだよな親方の言いたいこともわかるよ。弟子取らないやつを後継者にはできないよな。「俺ももう二十三だぞ、本来なら去年引退してるんだがお前らのせいでできないんだよ、サヒットをなんとか説得しろ」だってさ。あれ、お前らに俺も含まれてるよな。去年俺はサヒットにこれ作ろうとか言って新しいことを持ち掛けてないよな？
あとはそうだな、親父たちの酒と同じものをブロガンが作ってるので、親父たちが怒った。で、そんな秘密はいつかバレるんだから怒ってる暇があったらなんか改良でもしてプロガンの鼻をあかせてやれと煽ったら、なんか飲み仲間たちが一致団結して色々と研究してるらしい。らしいだぞ、実態はただ集まって飲んでるだけかもしれない。村長は村長で異例の長期政権だわ。あの人もう二十八くらいだよ。あとニーヴもブロガンの紹介で結婚したな。今はアスダラの町にいる。
おお、忘れちゃならん、ノーラ義姉さんとお義母さんがケンカして一時サヒットの家に住んでたんだよ。そしたら案の定、ガヴィンとガレンとイーヴがケンカした。サヒットは自分の工房兼小屋に逃げ込むし、イーヴもイーヴで小さな子達を連れてウチに入り浸るし、一時どうなるかと思ったわ。が、今はノーラ義姉さんとマギー兄さんの中が急進展してるからマギー兄さん本当に義兄さんになるかも知れん。マギー兄さん男だわ。ハハハ。妻が唖然としてたね。
あとイーヴとサヒットは双子の男の子たちを授かった。
