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92)11歳 23月4日 処女航海

 今なら海の風もそんなに酷くないし行くなら今だなってことでブロガンの家で二泊してから港に行くことになりました。それまでは暇なので俺は久しぶりの王子港をアヴィンとぶらぶらした。芸人も沢山いた。良かったなヤマト。アヴィンも律儀にちゃんとおひねりと投げ入れていた。しかしなヤマト、これなんだ、あれなんだって俺に聞いてもな、俺もここに住んでないから知らんよ。


 その中でもヤマトの反応が一番すごかったのは豹人を見たときだったな。まあ、あれは豹でなくて、猫っぽかったな。でも「ケモミミだ」ってジッと見てたよ。て言うか俺がジッと見てることになるから辞めさせたが。あと他には猿人もいたな。最初に見た相手は「アラブっぽい」って言って、その後、飲み屋の前で何人かいたがその時は「白人だ」とか言ってた。猿人なんてみんな一緒だろうが。馬人は見なかったな。


 あと歩いてる道は相変わらず臭いけど、あの裏門の辺りを離れたら臭さはそこまでではないな。特に商人とかお金持ちの住んでいる辺りは馬糞や牛糞を拾う人がいるらしくてそんなに道に落ちてない。ヤマトが叫んでたよ、あっちでうんち拾ってんならなんで食べ物を売っている市場で馬糞と牛糞を拾ってないんだって。あれは多分しょうがないんだろうな。だって、ひっきりなしに市場には物が荷馬車や牛車で運ばれてくるんだから。こういう状況なので市場の近くの屋台で買い食いするのは断念したよ。


 結局この旅では俺たちはほとんど休まず毎日一日中歩いてた。アヴィンは旅に慣れてるのか大丈夫っぽい。俺も体力に自信あるけど、なんか疲れたぞ。


 で、朝の港です。朝ごはんも食べずにつれて来られた。港はスゴイなこんな朝早くから仕事してる。俺よか早起きだわ。巨大な船もあれば変な物もある。ヤマトも驚いてたわ、クレーンだって。でっかい船が接舷してて、そのとなりに高い台があってその上にクレーンが乗ってる。そしてそのクレーンが巨大な石を船から下ろしてるのを見たわ。でもヤマトの知ってるクレーンには巨大な水車みたいな車輪はついてないってさ。車輪をよく見たら中で人が歩いてる。そしてアヴィンがあれを見て、俺を見て一言。


「ペリカンだな」


 どう言う意味だ? って感じでアヴィンをみたら。


「だってあの長くて突き出てるのはくちばしと首だろ、であの車輪は羽じゃん。そんで重い荷物を上げたり下げたり、だからそう呼ばれてる」


 おうクレーンは英語で鶴って意味でもあるのか。ヤマトの世界でもこっちでも考えることは一緒だな。なんか俺も納得してた。


 そしてブロガンの船のところまで従業員に連れられてきた。ブロガンは自分の船は河も航行できる小型の船だっていってたけど、俺からすれば十分でかいわ。ただまああの巨大な船を見たあとだとブロガンの言ってることがわかる。で、なんとコイツ船に馬を二頭載せたよ。いいのか? まあ、普通に甲板に乗ってるよな。この馬たち慣れてるのか? で、昨日集めた積み荷を従業員に指示してガンガン載せてる。なんだろうと思ってたらどぶろくだわ。まあお酒は重いし船で運ぶならこれだよな。


「これで一気に借金を返済できるかもしれない」


「へ、お前借金なんてしてたのか?」


「実は、この船はあの店の前の主人のものなんだよ。俺と取引をし始めて事業拡大を狙って船を借金して買ったんだ」


「またこの話か」


 アヴィンは知ってそうだな。


「で、前の主人のダレンさんが腰痛で倒れたときに店が潰れそうになったんだよ。薄情なことに古い従業員も逃げたしな。だから俺が借金を肩代わりして事業も引き継ぐからこの店をくれっていったら」


「だから辞めろと言ったのに」


「息子たちも一人立ちしてるからいいよってな。ハハハ、でここに今いるってわけだ」


「じゃあダレンさんはどこに?」


「店の三階にいるぞ」


「だから辞めろと言ったのに」


 うおおい、だからアヴィンも反対してたのか、地雷物件だな。


「あれ、じゃあ隔壁は?」


「んなもんないよ」


 おいいい!


「だから辞めろと言ったのに」


 アヴィンが同じ言葉を繰り返しい言うのもわかるわ~。


「だからノックスがあの浮きを持ってきたときに、ああこれなら沢山すぐ作れるし従業員みんなに配れるからやってみるかと思ったんだ」


 ブロガンめ、このことについてはアヴィンを無視するんだな。


「じゃあ、船に穴が開いたら」


「すぐ沈むよ」


「なんでそんな晴れ晴れとした顔でお前はそんなことが言えるんだよ!」


「だってもうそろそろ勝負に出ないと首が回らないしな。でも浮きがあったら死なないだろ?」


「まあそれはそうかも」


「なんもしなかったら借金が膨らんで破滅。船が沈んで借金が残っても死にはしない、破滅するだけ。だったら船が沈まないことに賭けて借金返済をするしかないだろ」


 俺も水の無いところに住むとか人生を賭けたけどコイツも大概だな。


 このあとブロガンとアヴィンが二人にとっては何度目かの言い争いをしてた。俺もアヴィンと一緒で普通に荷馬車で色々運べばいいじゃんと思ってたが、ヤマトとブロガンが荷馬車と船じゃ積載量が全然違うと力説してた。なんか馬で運ぶと馬が食べる分のご飯と飲む水も絶対に積まないといけないから長距離を移動すると馬で運べる量は少なくなるし、エサ代が馬鹿にならないという事だと。で、船だとそういう問題は一切ないからやはり船の方がいいとさ。でも船って沈んだら死ぬだろ。怖いだろうが。


 で、出航したよ。不安しかないわ。だからテメシスとセヴリナの落書きした救命胴衣をずっと着てたわ。アヴィンも着てたし、従業員も着てる人がそこそこいた。ブロガンは着てなかったな。落書きについてちょっと言われたけど、案外好評だった。


 船は早い。信じられないことに陸路百キロを一日で行ったわ。朝早く出てちょうど暗くなってきたころマギー兄さんのところに着いた。ちなみに俺は船で飯が食えなかった、朝ごはんは船で食べたけど吐いちゃったよ。


 なんでマギー兄さんのところかと言うとあそこならプロガンも子供のころ遊んで知ってるからだと。確かに岩もない遠浅だからな、船を乗り付けても大丈夫だろうな。あとまあマギー兄さんだからな。急に船で来てもそんなには怒らないと思う。


 浜について、傾いた船から長い板を下ろして馬が下りて行った。全然怖がらないのでなんでかって聞いたらこの馬たちはたまに船を河上に引っ張ることもあるらしい。よくはわからないが風が無い時とかは河岸に馬を下ろしてロープを使って船を引っ張ると。だからあんまり怖がらないんだな。


 馬を下ろしたあと俺たちはマギー兄さんに挨拶に行ったよ。滅茶苦茶驚いてたわ。俺だって家の前に船が泊ってたら驚くわ。で、状況を説明したらすんなり納得してくれた。ただ家の隣の小道を馬が通ったら花とかが踏み潰されるかもしれないからちょっと浜のほうからは迂回して村への道に出てくれと言われた。


 そうしてマギー兄さんと話している間に従業員たちは組み立て式の荷馬車のパーツを下ろし、荷馬車を浜で組み立ててた。それが終わったら船に積んであるどぶろくを全部マギー兄さんの敷地に置いてから船に戻った。かがり火を焚きながらこれをやってた。働き者たちだな。彼らはここで一泊か二泊するらしい。まあ、船が流されても困るしな。


 ブロガンはマギー兄さんのところで泊まる。俺とアヴィンは俺の家に帰ったよ。


 妻には滅茶苦茶驚かれた。だって王子港に行くと言って家を出たのが四十日で救命胴衣を着て帰ってきたのが四日の夜だよ。早すぎるわ。わかったわかった、ヤマトが船スゴイって言うのもわかった。


 この後ブロガンは狙いどり大量のどぶろくを清酒にしてから王子港に戻っていった。多分あれで借金の返済が一気に進むんだろうな。なんでも荷馬車なら一回二十個酒樽を運べるらしい、でも船で来たから一回で百十個運べたって。だからマギー兄さんには酒樽を一つ、親父と飲み仲間たちにも酒樽を九個、お礼に渡したらしい。しかも今回は運び賃じゃなくて差額が全部儲けになるってさ。商人は逞しいな。


 サヒットにはこの次ブロガンが来たときにはブロガンの船に隔壁を付けろって言った。サヒットも絶対に付けるって息巻いてだな。プロガンはこの話を聞いたときには借金がまた出来るのか、とか文句を言ってたが沈没するよかマシだろうが。


 ただな俺は家に帰って数日して気付いたよ。これって俺か親父か誰かがブロガンにどぶろくを清酒にする方法を教えれば村までわざわざ来る必要ないんじゃね、って。あまりにも色々なことが起こりすぎて失念してたわ。でもブロガンが知らないってことは親父も親父の飲み仲間もブロガンにはわざと教えてないんだろうな。


 どうしよう。


 結局隔壁を絶対に付けることを条件にブロガンに清酒の作り方を教えたよ。人って本当にがっくしって手と膝を地面についたりするんだな。まあ頑張れ。これからは違うものを運んでくれ。


クレーンは古代ギリシャの時代からずっと連綿と使われ続けられています。そして古代のころから首の長い鳥を連想されて命名されたようです。

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