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91)11歳 23月1日 王子港へ

 暦の上では乾季に入った。前の日に実家に泊まることにして、この日は日が出ると朝食を取ってすぐにアヴィンと歩き出した。村の中を歩いたがやはりあの水車小屋が目立つな。今までなかったからどうしてもあそこに目が行く。で、村を出る前、中心から南へ三十分以上歩いた辺りで遠くの川の方で工事をしているのが見えた。三個目の水車か。うーん、考えると村って案外広いな。端から端まで歩いて二時間だよ。確かに南の方の人たちからすれば三十分から一時間歩いて、洗濯機を使って、また時間をかけて歩いて帰るってのはないな。そんだけ時間があったら自分で手でしたほうが早いわ。あれ家の近くにあると便利なんだよ、俺なんか最近はイーヴかシヴォーンさんに任せて、自分はその間野良仕事してるからな。


 歩きながらアヴィンと話してたら、お昼前に隣町に着いた。なので早速屋台でコメのご飯とかを安く買って食べた。このとき大道芸人の一座がいてヤマトがもっと見たいと言っていたが、時間がない。王子港に行ったら多分沢山いるからその時見よう。


 食べてすぐアスダラの町へ向けて出発だ。この道中は楽しかった。アヴィンが昔この辺でサソリが出た、この辺で蛇が出たとか物騒な話ばっかりするんだ。でもそれを面白く話すし、昔のことだし、同じ間違いはしてないと言われたからか不思議と大丈夫だったな。道中昼に食べなかった干し肉を少し食べながら、テクテク、テクテク、歩いていったな。


 で、アスダラには夕暮れについた。俺は宿に泊まるかと言ったら、アイツは師匠に挨拶に行くからちょっとここで待ってろと言った。だからここで待ってるんだが全然来ない。なにやってんだ。町は嫌いなんだよ。ここはそこまでじゃないがそれでも牛糞と馬糞は道中にごろごろと落ちてるし、くさいんだよ。隣町はそんなに長居しなかったし、町の規模も村に毛が生えた程度だから大丈夫だったけど、アスダラくらいの規模になると臭いがしっかりとあるし、大道芸人でもいれば暇つぶしになるが暗いからもういない。だからヤマトが文句たらたらで頭の中がうるさい。


「兄貴~」


 おう、ようやく帰って来たか。


「師匠の家に行かないとだめだ、宿じゃない」


「え、なんで」


 というか師匠の娘さんと昔付き合ってたんだろ。いいのか?


「弟子がこの町に泊まるんだ、師匠の俺のとこで泊まるのが当然だ、だってさ。何言ってももうそれだけ」


 鍛冶師は皆頑固なのか?


「俺たち手紙も何も出してないのに急に来ても困るだけだろ?」


「もう何言っても無駄だよ」


 まあ、ありがたく泊まらせてもらった。良い家だったよ。アヴィンの鍛冶の師匠は気さくでいい人だった。若々しい人だったな。奥さんもいい人でなんとこの人は母さんのことを知っていた。まあ、母さんもこの町出身だからおかしくはないか。あと昔アヴィンと付き合ってた娘さんはもう結婚したそうだ。そりゃそうだよな、アヴィンやプロガンより一歳しか年下じゃないんだ。さっさと結婚するわな。あと仕事場はこの近くではないらしい。アヴィンも最初家に行ったんだけどいなかったから鍛冶場まで行ってから帰って来たから時間がかかったのか。


 そして次の日の朝早く王子港に向かって出発した。今回は水筒に水を沢山入れていったよ。アヴィンが家を出る前に水筒は二個持ってけって言った意味がわかった。乾季にたくさん歩くとのどが渇くな。ヤマトが言わなくてもいいだろ。なんで当たり前のことに気が付かないんだろう。あの干し肉を食べたのがよくなかったのかな。


 今日のお昼は道端で干し魚を食べた。しょうがないだろ、それしかないんだから。まあ、お昼を食べないで我慢してもよかったけど、腹も減ってたし、休むにはちょうど良かったんだよ。


 で王子港に着いたわ。ヤマトが驚いてる。俺もちっとびっくりしてる。まあ、ヤマトが驚いてるのはこの都市を囲む壁だよな。土を盛り上げて固めただけなのに威圧感たっぷりだわ。あ、これ泥レンガの応用か。で、俺がびっくりしてるのは子供の時に一回だけ来たことがあるんだが、あの時はこの壁が天まで届くのかって思ってたんだよな。これ大きいけど、そこまでは大きくないな。


「おい何見てるんだ兄貴、さっさと行くぞ」


「ああ、悪い」


 で、門の前で並んでる人達の後ろに並ぶ。結構列が動くの早いな。


「名前と出身と仕事」


 衛兵がアヴィンに問う


「アヴィン、セージ村、鍛冶師、こっちは俺の兄だ」


「アヴィン、セージ、兄、名前は?」


「ノックス」


 俺が答える。


「あいよ、通ってよし」


 うん、なんだヤマト? え、通行税? ああ、王子港は無いよ。商業の町だから人の行き来をなるべく妨げないようにしてるからここはないぞ。さっきの衛兵の隣で書き込んでいたろ、誰が入って来たか記録してるだけだよ。ああ、どこまで記録してるのかは俺も知らんわ。名前まではしてないんじゃないかな、聞かれたのは身元確認ってとこかな。うーん、通行税は各都市によるんじゃねえか?


 で、門をくぐり少し歩くとヤマトが騒ぎ出した。ああ、うるさい。だから言ったろ。都市は臭いって。


「なあ、アヴィンこれ子供の時から思ってたが何の臭いだ? 堆肥とか馬の糞の臭いだけじゃないよな」


「ああ、これは石鹸とか革とか作るときにでる臭いとか肉屋が生き物を絞める時に出る臭いだな。血の匂いが混ざってるだろ。こっちから入る門はまあ、裏門に近いから臭い仕事がこの辺に集まってるんだ」


 ああ、そうか王子港の正門は王都側だもんな。セージ村に行く方の門は裏門になるのか。血の匂いか、道理でヤマトが苦手なわけだ。そして道端に落ちている牛糞と馬糞をよけながら狭い道を進み、大通りに出てから少し歩いて、また横道に入るとブロガンの店兼家はあった。


「ここだな」


「良く知っていたな」


「まあ、ここはブロガンが以前から欲しいって言ってたし、俺も一緒に来たことがあるからな」


 ああ、これは立派な建物だな。一階が店で二階、三階もあるのか。屋根裏も恐らく使えるな。でも大通りにあるわけでないので本来なら「井」の字の形の家の内右側一つの列しかない。左側二つもそれぞれ店になってるな。


「こんにちは~、おーい、ブローガーン」


 アヴィンが呼んでる。なんだ、ヤマト? ああ、まあ店だからな。道に面した表は客が来るところだから、その逆の一番裏が土間だろ。ふむ、村の物品が色々あるな、清酒に色々な農作物に動物の毛皮や鹿の角か。ああ織物とかロウ板と蛇口もあるな。うーん、このロウ板の装飾は見事だな、木の色が二色に角の色を使った三色の風景画か。あ、木彫りの馬もある。これもサヒットの作ったやつか? あとそれ以外にも村では作ってなさそうなものも沢山あるな。え、値札がない? あれ、確かにないな。


「おう良く来たな、そんなに大きな声を出さないでくれ」


 奥の部屋からブロガンが来た。ああ、そうだな、なんかチャラくないな。仕事場だからか?


「いや、二階か三階にいるかもと思ってな」


 とアヴィンがすこし詫びるが、別に詫びる必要はないだろ。お土産を持って来たんだから。


「よう、元気そうだな。これは土産だ」


「なんだこりゃ、まあ上がれ上がれ」


 とまあ、お土産を渡しながら中に案内された。扉を開けっ放しにしてあるから、居間の奥に土間が見える。多分店の裏に隣と共用の井戸とかがあるんだろうな。そして居間の角にまるいらせん階段も見える。で、やはり店だな、この部屋は居間じゃないな。ちゃぶ台ではなく四角い机みたいなのが置いてあるし、紙も木片もあるしかなり大きいロウ板もある。


 ブロガンの嫁さんはすでに妊娠中で今二階で昼寝してるそうだ。なんかさっきアヴィンが大きな声を出したのが悪い気がしてきたぞ。ん? なんだデキ婚って? ああ、出来ちゃったから結婚ね。それよか妊婦がらせん階段を上り下りしてるのか、ちょっと怖いな。まあいいや。話を戻そう。


 驚いたことに船はすでにあるらしい。しかも船を使って一回王都にまで行ったことがあると。おい、なんで海が怖いって言ったんだよって思ったが、どうやら船でセヴル河を遡り、大湖沼地帯の湖まで行き、そこから運河を通ってテメス河へ行き、テメス河を下って王都へ行って、その逆のルートで帰って来たと。やっぱり海は怖いのか。


 だからこの救命胴衣をちゃんと説明した。そして納得したのか、それとももうすでに決意してたのか、早速船で王子港からセージ村まで行くことになった。


 なんでだ。


 俺は普通に海の沖まで行って王子港に帰ってくるつもりだったんだぞ。なんでセージ村にまで船で行くんだよ。


挿絵(By みてみん)


『みてみん』様にも旅の道筋を描いた地図を投稿しました。

https://33111.mitemin.net/i473334/

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