90)11歳 21月39日 祭りとモリガン様
大雨おかしい。なんなんだ。あんだけ樽があるのにそれでも昨日の雨で樽から水があふれ出した。一応ウチには四つもあのでかいのがあるんだぞ。直径四メートルの大三つに直径五メートルの特大一つだぞ。百二十四トンも水があるんだぞ。どんだけ降るんだ。これを年々無駄にしていたのか俺たちは。と言うかこれなら風呂の水を大の樽から取れば五十四トンあるから、風呂も乾季に入れるな。あれ、ここは呆れるとこじゃなくてタラン様に感謝する所だ。タラン様、ありがとうございます。
さて、大雨の終わりの祭りの日、俺たち家族はサヒットとイーヴと一緒に六人で村に行った。そして、着いたらなんと今年の祭りの会場はウチだとさ。うわあ、ウチに人が一杯いる。もみくちゃになる前に、酔っぱらう前にさっさとあの野郎を見つけないと。
おうアヴィンがいたよ。まあ実家だからな。しかも、もうすでにちょっと酔ってる。で、話を聞くと今回は親父が抽選に名乗り出たらしい。アヴィンも俺たちを驚かそうと俺たちに黙ってた。
「死ぬ前に一回は抽選に名を入れたかったんだとよ」
例のごとくボウアと娘たちは女衆の方に行ったわ。
「そうだったのか、驚きだわ」
今まで親父はそう言う話はしなかったからな。
「今年の田んぼで出た儲けは牛さんになったから、もしモリガン様がその牛さんを選んでもそれは村のためになるし、選ばなかったらこれからのウチのためになるから、これがいいんだってさ」
「あー、まーな」
なんとなくわかるな。いいことがあったらそれは独り占めするよか皆で分かち合ったほうがいいってのは俺もわかる。ヤマトはもう少しわかれや。
「おーい連れて来たぞ」
あ、サヒットがブロガンを連れて来た。よし今日の目的はコイツだ。
「おうこの野郎、まずはおめでとうだ」
「うえーい、ハハハ、笑いが止まらん、ありがとうな。ほれお前の分の酒だ」
プロガンめ王子港に店を構えて結婚をしやがったよ。宣言どおりだ。
「おお、すまんな。しかし悪かったな結婚式に出られなくて」
清酒はやはり旨いな。
「ああ、俺とアヴィンならいけるかもと思ったが村での仕事が思ってたよりも多くなった」
サヒットもぐびぐび飲んでるな。
「そっちはいいんだよ、もともとノックスは無理だろうとは思ってたぜ。がなあ、お前らはなあ、職人になったんだろ。休みを取れや」
「何言ってんだ、お前もあれをみたろ、次の乾季にあれをもう一個作るんだぞ、俺もサヒットもそれに協力させられてるんだ」
え、それは俺も初耳だ。水車を三個も作るのか? てか村の資金大丈夫なのか?
「ああ、見たけどよ、なんで水車がそんなに必要なんだよ」
まあ、水車小屋の中を見てなかったらそう思うかもな。
「あっちのほうの水車は村長は乗り気じゃなかったんだよ、でも村の南の方の人たちが自分達も出来るだけ協力するから絶対に作れって迫ってさ」
「ああ、そうだ。アヴィンの言う通りだ。俺なんか通いで毎日二時間近く歩く嵌めになるんだぞ」
そんなことがあったんだ。よく知ってたなアヴィン。
「おい、だからなんでそんな水車が欲しいんだよ」
「ああそれはおそらく洗濯と精米だな」
「まあそうだろうな」
「それ以外にないよな」
ブロガンの質問に対する俺の答えにサヒットもアヴィンも賛同する。
「うーん、この祭りが終わったら、帰る前にどんなものか見に行くか」
って言ってからブロガンが帰りそうになったから。
「あ、おい、こら、今お前をここにサヒットに連れて来させたのはお前が酔っぱらう前に話をしたかったからだ」
「おう、なんだよ」
「船はどうした」
なんだブロガンだけじゃなくてお前らまで嫌な顔して。
「いや、俺はあんまり船には乗りたくないんだよ」
「俺もその気持ちはわかるぞ」
なんでここでサヒットがブロガンの側に付くんだ、説得がやっかいになるだろうが。ちょっと見たらそっぽを向きやがった。まあ、今はお前は酒を飲んでろ。まずはブロガンだ。
「けどよ船があったほうが絶対に商品の輸送には便利だろ?」
ヤマトがこの話題になると必ず言うからな。
「いや、それはわかってるけどよ」
「で、アヴィンに船の隔壁とその模型も見せてもらったろ」
「まあ、そうなんだが。でもよ乗るのは俺なんだぞ、お前じゃないだろ」
「おし、わかった、俺とアヴィンが船乗りのいう処女航海ってやつに乗ってやる」
まあ、サヒットはいいよ、ノーランドの件があるからな。でもこれやらないとアヴィンが引っ越しできないだろ。うん、なんでアヴィンも嫌そうな顔してんだ。
「俺を巻き込むなよ兄貴、って言いたいところだけどこれは逆だな。はあ、俺も腹をくくったほうがいいか」
とまあ、なんか今年は不思議な感じの祭りだった。俺は抽選を見て、ブロガンと話して、酒と料理を楽しんでから家族で帰るだけのつもりが、いつのまにか王子港にまで行って、船に乗ることになってた。抽選も親父が当たったわ。モリガン様がここに来てるな。
で、乾季になる前から早速俺は短い旅に出る準備をした。まずは王子港までの旅の食料。まあ、厳密にはそんなに必要はない。村から隣町までは歩いて半日、そこからアスダラの町までさらに半日。そこで一泊して、そこから王子港まで歩いて約一日だ。ここは朝滅茶苦茶早く家を出るか、先に実家に行ってそこで一泊してから行くかどっちかだな。四日分の干し肉とか干し魚さえあれば、あとは現地でコメさえ手に入れれば、なんとかなるだろう。まあ、俺に現金はあまりないがここは一旦アヴィンに頼ろう。何言ってんだヤマト、旅路の行き二日に帰りの二日で四日だ。これで十分だろ。ああ、王子港にいる間は当然ブロガンにたかるわ。
あとはアスダラで安い宿に一拍するから簡単な寝具、というか暖かい布を一枚だな。幸いこの乾季は暖かい乾季だからここは助かったな。そして乾季だから帽子は必要でも雨合羽はいらんな。で、歩く時に使う杖兼護身用の棒だな。ヤマトの言ってるリュックサックは実用的だとは思うが今は皆が忙しいからそれをボウアに作ってもらうことは出来ないぞ。なので普通に旅の荷物を二つに振り分けてそれを幅広の紐で結ぶ。これで荷物の重さが身体の前と後ろで分散される。
あとは革の足袋に草鞋だな、草鞋はすぐ擦り切れるから行き用と帰り用の二足だな。ああ、そうそうシーラもこういうのを履いてただろ。うるさいなあ、シーラは革のサンダルだったかもしれないけど、俺は草鞋でいいんだよ。すぐ作れるし、タダだし。よっしゃ。え、これを付けるとズボンの太ももが盛り上がって乗馬ズボンみたい? うーん、俺にはよくわからん。あ、でもこの太もものところにポケットとかを付けるのか、便利だな、これはやってもらおう。て、おいお前も乗馬したことないじゃんか。なんで知ったかぶりをするんだ、ああ、テレビとか絵では見てるから知ったかぶりではないか。はいはい。
よし、最後にブロガンに持っていく土産か。この土産は持って行くのにはかさばるんだが絶対に必要だな。
実用的な物の方が喜ばれるだろうと思って、ヤマトと一緒に考えた結果、救命胴衣みたいなのを持って行くことにした。いったいどんな素材なのかヤマトもわからないのでとりあえず浮けばいいだろうということで自作。まずはサヒットの所に行って廃棄予定のコルクを沢山もらう。次にそれらをボウアが簡単に織った目の粗い布の袋に入れるる。そしてこの布の袋を二枚の薄く軽い板で挟む。日本のサンドイッチみたいだな、え、あれは日本の食べ物じゃないの? ま、いいか。最後にこの二つの板の端の適当な所に穴をいくつか空けて、紐を通す。この紐は長めにしておけば身体に括り付ける紐にもなると。これでサンドイッチ型救命胴衣の完成だな。重ねて置けるし、なんかあった場合には身体に引っ掛けて浮きになるだろ。
ちなみにここまでしたらボウアも俺が船に乗るのを反対しなくなった。でも船に乗ってるときはこれをずっと背負っていてくれと頼まれた。どうしよう、やっぱりするべきなのかな。でもなあこれの板には両面にテメシスとセヴリナが落書きを沢山してあるんだよなあ。野良仕事してる時に居間に放っておくんじゃなかった。
まあ、とりあえず落書き一杯の救命胴衣は俺用で、落書きのないやつをさらに三つ作った。一個はアヴィン用であとの二個はブロガンへのお土産用だな。
仏様の話の次は神様の話ですね。
シーラの使っていた革製のサンダルの裏にはスパイクみたいな鋲が打ってあり革が摩耗するのを防ぎ、でこぼこの道でもしっかりと歩くことができます。ノックスや農民はわらがそこら辺にふんだんにあるので使い捨ての草鞋や草履をはきます。わらで出来ているので3-5日くらいで潰れます。