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89)11歳 17月1日―19月39日 南無阿弥陀仏

 特大の樽が来てからは兎用の小屋と敷地を整備した。サヒットの小屋から使わなくなった小さい樽たちをえっちらおっちら三往復して一セット持ってきたよ。妻に蔑んだ目で見られたよ。兎のためにここまでしてるなんてって感じだな。しょうがないだろ! これは全部ヤマトが悪いんだ!


 でもまあこれでほぼ終わり。兎たちもこれでこの広い敷地で遊べる。最近増えてきたからな。


 あ、そうだお前がたまに言ってる南無阿弥陀仏ってなんの意味だ? へ、わからない? なんだそりゃ、おまじない? なんでそんな意味の無いことをしてるんだ。あ、意味が無いってわけじゃないのか。ほう、説明してみ。


 なるほど。仏様ってのがいるのか。でも仏のお釈迦様は人なのか。え、神様じゃないの? なんで様を付けるの? ほー、さとりってのを開いた、のか。でそのさとりってなんだ? なんで知らないんだよ? ああ、興味がなかったのか。まあ、俺も詳しくこっちの宗教を説明しろって言われてもなあ。俺の知ってるのは神様たちのお話だしな。まあ、お互い様だな。


 え、阿弥陀様はお釈迦様じゃないの?じゃあ、人なの? え、神様に近い?わからなくなって来たってお前なあ。阿弥陀様は神様に近いのか。まあ、いいや。うん、てことは仏様ってたくさんいるのか。じゃあやっぱり神様たちなんじゃないの? うーん、ヤマトの答えにも自信が無くなってきたな。そうか神様とか仏様とか名称にこだわらないほうがいいのか。


 でなんで南無阿弥陀仏って言うんだよ。ふーん、死んだ人が成仏できるようにか。おい、この言葉、変だぞ。なんで死んだあとに仏に成るって言うんだよ? わからない? 本当にこの件に関しては知らないんだな。あ、でも、そうか。そこは納得できるわ。死んだら転生するのね。輪廻転生か。生き物は死んでも魂は違う生き物に入って生まれ変わる、か。まあ、これはお前がいるから俺も信じるな。で、この話を繋げると兎が死んだら仏様になれるように祈ってるってわけか。じゃあ、兎も死んだら仏様っていう神様みたいなのになれるのか?


 わからない? まあそれはそうか、お前は人だったもんな。あ、でも兎から人に生まれ変わることもある可能性があるか。そこからなら仏様になれるのか? わからないのか。転生って一回だけじゃないわけか。まあそうだな、だってお前にも前世があったはずだからな。ハハハ、お前の前世は兎だったかもよ。ハハハ。でもこの話はいいな。救いがあるぞ。死んでもそこで終わりじゃない。そして最終的には仏様になれるのならいいじゃないか。で、仏様になるとどうなるんだ? そこもわからないか。え、さとりを開く? あーまあ、そういうことになるのか。このさとりってのが全然わからないな。でもいいことなんだろうな、お前の世界でそんなに尊敬されて神様と同列に扱われているのなら。これでなんかすっきりしたわ。よし、明々後日からの田植えも頑張ろう。


 でサヒットの休みの日にまた俺とボウアと娘たちの四人と親父とアヴィンとサヒットとイーヴを呼んだ。人数が前回と比べて少ないな。


「今回は人数が少ないので二日に分けて田植えをしようと思います!」


 いやーな顔してサヒットとイーヴがこっちを見てる。おいお前の妹の田んぼだろが! 快く手伝えよ!


「なんかもうなにも言う気がなくなった」


「気にすんな」


 アヴィンがサヒットの肩を叩いてる。あ、イーヴももうボウアと話してる。


「よしやるぞノックス!」


 おお、親父がやる気を出してる。親父のとこも収穫量多かったからな。やる気でるよな!


 そして全部で恐らく三十一枚分ある田んぼの内十六枚が最初に終わり、予定通りに二日目で全部終わった。ちゃんとこっちでも美味しい料理を用意したよ。


 兎たちよ、南無阿弥陀仏。


 雨季も始まって、水も豊富に貯まって来たのでついに風呂桶を設置した。風呂桶の本体は鉄の大きなたらいだが、むき出しの鉄だと娘たちが焼けどするかもしれないので周りを簡単に竹で囲んだ。ヤマトがゴエモン風呂だなとか言ってた。ゴエモンって誰だ? 鉄の風呂桶はコーラさん作でアヒル三十六羽でなんとかなった。なんか最近村でも親父やお義父さんがアヒルを飼いだして、それからはアヒルが欲しい人も増えたそうなので今は鶏よりもこっちの方がいいそうだ。竹で作ったのは家の周りに竹がなんかしらんが沢山増えたからな。西の丘もあの食べかけのドーナッツを作ってからは長い乾季の間も青々としていたわ。


 しかしぬかったな。ちょっと風呂を端の方に作りすぎた。家の外の特大樽の蛇口から水は雨どいのような竹で洗い場にまで持ってこれるが、ここに一旦水を小さな桶とかに貯めてそれを風呂の中に入れないといけないのが結構な重労働だ。


 でもな、それが吹っ飛ぶくらい風呂ってのは気持ちいい。なんだろう、ちょっと涼しくなった夕方とかに風呂に入って海を眺めてると身体がとろけるように気持ちいい。妻もふにゃ~となってる。あったかい水ってのはいいもんなんだな。いままでは冷たい水浴びも気持ちいいと思っていたが、これらは別物だな。


 娘たちはヤマトの言うカラスの行水。パッと入ってすぐに出て、洗い場の水で二人であそんでる。とくにテメシスは風呂でじっとできない。セヴリナも基本はそうだが、たまに入ったら風呂の中で水と遊んでる。まあ四人も入ったら狭いな。娘たちが昼寝しない時は早くに寝るので、その時はたまにそのあと夜にボウアと二人で風呂に入る。妻と入る夜空の見える風呂もいいわ。ヤマトもこれについては感謝してると言って、一切茶化さないわ。でもなあこれ乾季になったらできないだろうな。週一回だけの風呂で今はギリギリだよ。まあ、もしかしたら大雨が降ったあとの短い乾季の間はなんとかなるかもな。


 あと一つ誤算があった。風呂が出来てから少ししてサヒットとイーヴがこのことを聞きつけた。そうしたらアイツらも風呂に入りに来たよ。おい、お前の所は水がふんだんにあるんだから自分のとこに作れや。なんだよこっちの方が景色がいいし、水は無駄にしたくないって。お前の所も木に囲まれていいところじゃねえか、海が見たかったら家の前の木を少し切ればいいだけだろうが。


 でもまあ、イーヴとボウアはさらに仲良くなったし、娘たちもイーヴになついてるからな。うーん。でもなんで水がもったいなからと言って俺がサヒットと一緒に風呂に入らなきゃならないんだ。だめだ納得できん。


 コメの収穫量はすごかった。今回は十人も集まったので気合を入れて二日で終わらせた。娘たちには刃物はまだ危険なので刈った稲を運んでもらうという重要な役どころを頑張ってもらった。かわいい。今年の終わりまでに食べる量も確保できたし、あと玄米で四十二袋も保管できた。千歯扱きに精米器があるからこれらの作業も楽になった。これだけあれば馬も一頭買えるし、残りのコメで来年の二回目くらいの収穫まで家族四人十分食える。


 あれ、稲も生きてるよな。そして兎やコメを食って俺たちは生きてる。で兎たちの糞や枯れた稲も堆肥になってまた稲を生かす。俺のうんちも一応堆肥になって西の林の肥やしになってる。うおおお、すごい。生きとし生けるものがすべて輪廻転生して繋がってるってことか! さとりってこれのことか!


 南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。


「南無阿弥陀仏」の意味を理解しようとすると奥が深いです。

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