88)11歳 16月20日 怖くない乾季
今年も長い乾季が来た。でもな今年は水不足で悩む必要がないから、祭りの後の俺とアヴィンの誕生日も普通に楽しめた。今年は実家でやった。というか娘たちの母方の従姉妹になるブリジットとブリーナも俺たちと同じ十二月生まれだから家と村の行ったり来たりが多かったし、村で水車を作りだしたからそれの工事にも少し駆り出された。苗作りもしてる。やっぱり馬が必要だよなあ。
「兄貴」
「おう、アヴィンか」
ポチとシロと遊んでるときにきたな。娘たちは昼寝中で妻は機織ってる。
「そろそろ出来るから色々と測りに来た」
「なあ本当に土の中に筒を埋めても水はちゃんと繋がるんだろうな」
「しつこいな大丈夫だよ」
アヴィンが本来なら自分が貰うはずの樽を俺に譲ってくれた。つまりサヒットが新しい銅のパイプで繋げることのできる樽を二個作り、それらを俺の敷地に置く。そして独身のアヴィンは俺の敷地にある樽を貰う。なんかこいつの浮いた話を聞かないよな。大丈夫か。というか今は水だ。
「だってよ、家のここに置いてある樽とあそこにあるそとの敷地はかなり離れてるぞ、それを土の中に埋めた筒で繋ぐって聞いたことがないぞ」
うるさいな、ヤマトの世界では当たり前かもしれんが、俺はそんなの聞いたこともないんだよ。
「兄貴がそんなに言うなら別にやらなくてもいいんだよ」
「いやそれは言ってない。現にこの家の樽からの水を使い切って、いつでも動かせるようにいつも空にしてるぞ」
「じゃあ邪魔すんな」
まあ、わかった。ありがたいしな、しかし。これで今回は誰も出費がないし、損もしない。そしてお前の言ってた風呂ができるぞ。どこに作ろうかな。本当に嬉しそうだな。
そして測量が終わり、新しい樽たちも来た。一つは今までと同じ大きさの直径四メートルのやつ。これを家の前に置く。もう一つは直径五メートルの一回り大きい樽。これを外の敷地のすでにある樽の隣に置く。そして両方の樽からは銅のパイプが土中に入り、それが二十メートルくらい土の中を通って繋がる。
しっかし直径五メートルって化け物だな。ヤマトが計算したが四十三トン超えだわ。これにアヴィン型の二十七トンを足したら七十トン以上もある。というかサヒットの家八十六トンもあるのか。あそこならいつ子供が生まれても問題ないし、今なら風呂みたいに水を無駄遣いしても大丈夫そうだな。
これで使わなくなった樽を屋根しかない敷地に持っていく。うーん、中大中と樽が三つもならんだな。と、言うかこれ大、特大、大のほうがあってるよな。まあいいや。特大樽が溢れたら自動的に大樽のほうに水が流れ込むようにしたし、これで昔みたいに雨の中樽の中の水位を確認して竹の筒を付け替える必要もなくなったな。
大樽二つはアヴィンの家が出来るまで使わせてもらおう。ブロガンも全然船を作ろうとしないし、アヴィンも家を作る気配もない。なんか村で鍛冶仕事をしてる方が楽しそうだしな。でもお前土地持ちになったからには二年後には税金を払わないいけないんだぞ。結婚してなくても稼いでいるのが役人にバレたら絶対に見逃してくんないぞ。わかってんのか。
この設置が終わった時には家族みんなでちゃんと職人さんたちにお礼を言った。皆もお礼を言うテメシスとセヴリナを可愛がってくれる。サヒットは忙しいのか設置の時には来なかったな。なんか小屋の方を工房みたいに設備を整えているらしい。まあ、毎日一時間歩いて行って、また一時間歩いて帰るのもな。
そのあと風呂のかまどは海側に面して景色の良いところに作った。こっちがわの土地はまだ三和土で敷きつめてなくてよかったわ。普通に掘れたよ。あとは風呂桶をこの上に乗っけるだけでいいからな。さすが十八メートル×十八メートル。樽が四メートル、五メートル、四メートルとならんでも全然圧迫感が無い。風呂桶に入って海を眺めるってのもいいと思うわ。これは雨季が来てからの楽しみだ。
そしてこんな憂いの無い乾季だからこそ棚田も小さいのを二つと今までのとほぼ同じ大きさのをあと三つ作り、斜面はほぼ終わった。これからは斜面の下の方のいびつな所を増やして棚田を完成させるだけだな。これは来年には終わるな。あとは苗づくり用の田んぼも拡張したほうがいいよな。棚田もようやく終わりが見えてきた。
こんなに乾季を気楽に過ごせるとは思ってなかったわ。