85)10歳 4月10日 洗濯機
苗作りも終え、田んぼを耕す前のちょっとした暇に俺は畔に綿を植えた。雨季だし問題ないだろ。そして種撒きも終わったので家の外で娘たちと遊んでいた。
「ほうれ、高い高―い!」
「わーい」
子供はこういうのが大好きだな。ポチもシロもしっぽフリフリしてるわ。
「パパ―」
「ようし、次はセヴリナだ、高い高―い」
「じゃあ今度はまたテーだ。ほれ、回るぞ、クルクルクルー」
う、ちょっと酔った。
「パパー早く早く」
「あ、ちょっと待ってリナ、ちょっと目が回った」
「えーお姉ちゃんばっかりずるい~」
「あーわかったわかった、ほれ、かいてーん」
「アハハハ!」
う、だめだこれ目が回る。
「はいここまで、ちょっとポチとボンと遊んで」
うー気持ち悪い。あ、行ったな。
と壁に手をついて、うー、あー、唸ってると。
「何してるの?」
あ、妻が洗濯から帰ってきたのか。
「ああ、ちょっと子供達と遊んでて目が回った」
「それなんだけどさ」
うん? ママもかいてーんして欲しいのか?
「かいてーん、して欲しいの?」
と両腕を伸ばす。
「なに言ってるのよ。ああ、それで目が回ったのね。そうじゃなくてね」
とボウアが説明しだした。なんでも裏の小川で洗濯と水浴びをしに行ったんだがそのとき二つのことが気になったと。一つは最近人が精米器を使いにくるので水浴びが前よりもしにくい。やはりどうしても人の視線が気になる。もう一つが洗濯機で棒を突いたり回転させて洗ってるときに気づいたことで、これは水車と一緒の動きだと。ならば、洗濯も水車で出来ないかということだった。
うーん、水浴びはヤマトも前々から言ってるし、長い乾季も短い乾季も問題なく過ごせたからいいかなと俺も思う。そろそろ頃合か。でもなああの長い乾季はギリギリだったんだよなあ。うーん、となるともう一個樽を購入しないといけないのか。あれ一個で馬半頭なんだよな。税金を払ってからかな。洗濯機はどうなんだろ。これはサヒットとアヴィンもついでに巻き込んで四人で作って見るか。異存はないかヤマト? ない? よし。
「じゃあ、今年から税金を払わないといけないから、今年分の税金を払ったら水浴びをするところをこっちにも作ろう」
え、なに驚てるんだ。
「あ」
「まさか税金の事忘れていたんじゃないよね」
「ハハッハッハハッ」
おーい、まるわかりだよ。まあいいか。
「水車を使って洗濯機はサヒットとアヴィンも呼んで四人で作ってみようぜ」
「う、うん、いいわね。じゃあ私は洗濯物を干してくるから、子供達を引き続き頼むわね」
うん、なんだヤマト? え、乾燥機なんてものもあった? へ、洗濯と乾燥両方できたのかお前の国の機械は。それはまたすごいな。あーでもお前はこれらの作り方わからないだろ。は、やっぱりな。ハハハ、悪い悪い馬鹿にしてるつもりはないぞ。あー、そんなこというなよ。わかったって、俺が悪いよ。で、洗濯機にはどんな種類があるんだ? ほー上から入れて、横にグルグル回る。うん、でもこれ逆回転もしてるじゃん。こんな早くあの水車が逆回転出来るわけないだろ。で、もう一個は? ああ、横から入れて縦に回転してるのか。ああこれは一方向に回転してるだけだな。でもこれどうやって水がこぼれるのを防ぐんだ? ゴムか? こっちにはないなあ。うーん。やっぱり俺らだけではだめだな。サヒえもんとアヴィえもんを呼ぶしかないな。
四日後サヒットの休みの日に皆で俺の家の前に集まった。和やかに妻がイーヴと喋って、アヴィンが娘たちの相手をしている。
「おいなんでイーヴが来たんだ」
ひそひそ。
「仕方ないだろ、新しい洗濯の仕方をお前らと考えるっていったら来たいっていったんだよ」
ひそひそ。
まあしょうがないな。
「じゃあ、そろそろ始めよう。一応なこの古い樽に水と服を入れてある。それをだな水車の動きでなんとか洗濯出来ないか皆で考えよう」
「なんでノックスが仕切ってるのですか、これは義姉さんが考えたと聞いてますよ」
ああ、そうかイーヴにとってボウアは義理の妹になるけど、ここは義姉さんって呼ぶことにしたのか。まあ、自分よか三歳年上を「義妹」と呼ぶのもな。
「まあ、それは別にいいだろ。一応俺が考えたのは普通にこう丸い板をまっすぐにこの樽に入れるってことだが」
サヒットが手で丸い板を押し込むがあんまり変化がない。
「だめね」
ボウアはサヒットには厳しいな。まあ仕事が忙しくて実験する暇はなかったんだろう。寛大になろう。
「俺はこうネジみたいなものを入れようと思って実際家で試したけどダメだった。他にも色々な形を出し入れしたけど、あんまりだった。だからこんなのを考えてみた」
と俺たちに紙に書いた機械を見せる。うーん、この車輪が回るとどうなるんだ? て、言うかこんなの今すぐには出来ないな。作るのにかなり時間がかかるな。うん、皆もなんか想像できないみたいだな。
「だから水車の棒が回るところにこう紐をかければこの車輪も回るだろ、糸車の巻き巻きするやつの逆だよ。で、こっちは逆回転させる必要がないから簡単に水車でもできる。そしてここが回るから、この台の上に服を乗っければ服が引っ張られてこの下に引きずり込まれて一番下に付いてる洗濯板にこすられて洗濯できる」
やはりアヴィンは天才だな。ヤマトも驚いてるわ。戦車に挽かれてるみたい? キャタピラってなんだ? 無限軌道? ああ、お前の世界の戦車ね。うーん、俺のはすごい単純なんだけどな、これに続くのか。まあ、仕方ない。俺の番だ。
「俺はな発想を変えた。樽の中に何かを入れるのでは無くて樽を動かすのはどうだ?」
と樽を前後に揺らしてみる。テメシスも一緒になって樽を動かそうとしてくれてる。ありがとうな! パパ助かるぞ。
「これは水を少なくすれば悪くないと思うわ」
「私もそう思います義姉さん、でもどうやって揺らすんですか」
ああ、俺もそこまでは考えてなかったな。えーと。
「ああそれなら、この樽を横に倒して、てこみたいなものを下に置けば楽に上下に揺らせるし、揺れる幅も大きく取れるぞ」
さすがサヒえもんだ。
「私は家で昔樽の水を汲んでる時を思い出してこれを考えたの。こう箱を上下に入れたらいいかなって」
おう、セヴリナがアシスタントみたい? ああ、なるほどな。うむ、かわいいアシスタントさんだ。セヴリナがとことこと歩いて行き持っていた箱をボウアに渡す。そして妻が箱を樽に入れた。俺はてっきり箱を沈めるときに開いてる部分を下か上にするのかと思ったら、箱を横にして、箱の底を樽の壁につけてスライドさせながら箱を上下させた。するとあら不思議。箱が沈むときには水が箱の中に入るのでぐっと水流が起こり、また箱が水から完全に上がるときにも水がザっと流れ出す。ヤマトも唖然としてるわ。え? 本当の天才は俺の妻? フフ、わかってるじゃないかヤマト。
「これです!」
まあ俺もイーヴに賛成だな。
結局サヒット以外の全員の案を試してみることが決まった。いい案が出せなかったサヒットはタダでボウアの箱を作ることに決まった。これが一番簡単で今からでもすぐに出来るからな。箱と樽のお互いのサイズの調整くらいだなやる必要があるのは。あとは杵の代わりに箱を取り付けて、臼の代わりに水を入れた樽を置くだけだ。しかも水車小屋でこれをやるわけだから水は豊富にある。樽での洗濯が終わったら川の水で濯いで終わりだ。すごいな、洗濯と精米が同時に出来るわ。
そしてそののち精米機のある川岸の反対側の川岸に洗濯機をいくつか付けることになった。今はこれらの洗濯の樽に少量のかまどの灰を入れる人が多いな。あれ使うと手とか洗い物はきれいになるけど、ちょっと手がひりひりするんだよな。でもこれは水車がやってくれるから問題はない。俺たちは普通に石鹸だな。ちなみに俺のやつは水の入った樽だと地面に当たる衝撃が強すぎて割れるので、鉄製の樽を鹿威しみたいにカッコンカッコンさせている。一番使ってるのはボウアの考案したやつなんだが、下着とかあんまり人に見られたくないものは俺の洗濯機を使ってるな。あれは蓋を付けるから中が見られないんだよ。
これらの洗濯機の費用は村長が村のお金で払ってくれた。村の共有の洗濯機として利用するんだとさ。アヴィンの洗濯機はいずれ出来るだろう。構造がちょっと複雑なんだよな。でもこんふうに三つのタイプがすでにあるんだからこれはいずれ色々なタイプが出来るんだろうな。将来的にはヤマトの洗濯機みたいにグルグル回るやつも出来るんじゃね。
あと最近はよくシヴォーンさんとイーヴがそこにいるので水車が精米か洗濯をやってる間話すことが多い。また頼めば精米でも洗濯でもシヴォーンさんかイーヴが見ていてくれるからその間安心して他のことが出来る。もしなにかあったら水車の水を止めてくれるからな。その分のお駄賃はちゃんと払ってるよ。
ちなみに洗濯機が出来てからは水車小屋を利用する人がますます増えて、ここは村の北側の人々が良く集まるようになった。村長はこの水車を見て、村の中心に絶対に大きいのを作ると言ったらしい。村のお金大丈夫か?
最後に個人的なことなんだが、俺たちの水浴びもちょっと困ることになった。なにしろ人の行き来が以前とはくらべものにならない。なので竹で屏風みたいなものをとりあえず作ったよ。今はそれに隠れて水浴びをしてる。税金払ったら乾季があるから、風呂は次の雨季まで持ち越しだな。
あれ、そういえば壺に入れていた俺のおしっこどうなった? すっかり忘れていたぞ。
雪隠の近くで前に隠した場所を見に入ったら壊れた壺が一個あった。
現在でも色々のタイプの手動式洗濯機は売られていますね。
面白かったと思いましたら感想・評価・ブックマークの方もよろしくお願い致します。