84)10歳 1月30日-4月1日 水車完成
水車がついに完成した。なんかこうクルクルなめらかに回転させるのに苦労したらしい。まあ、サヒットの説明では歯車を付けてもいいようにするためとか言ってるんだが、正直言って、よくわからん。ヤマトもわからないと言っていた。と、言うかなんで歯車が必要なんだ? 俺の考えた精米器は真ん中の軸の棒を伸ばしてそれに足を付けるだけで済むんだぞ。
で、この水車は一切水面についてないので、中心の軸はそこそこ高い所にある。なので臼も足踏み式みたいに土中に埋めてあるわけじゃなくて、ちょっとした台の上に置いてある。で、そこの臼の中に玄米を入れて、水門を開けると、すでに設置してある杵が上がって見事に成功したよ。水車が少し回って、杵が上がり、そして、さらに回ると、外れてストンと杵が落ちる。成功だな。村長とか職人さんたちを始めその場にいた人たちは皆喜んだよ。喜んでなかったのは親方とサヒットだけだな。なんでもコメつきするのに水しぶきが飛んでるのはよくないとか言ってた。でもそんなのすぐ対処できるだろ。これは思ってたよりすごいわ。
というか村長とか職人さんたちに相談役、そしてこの近所の七家族くらいの人達が全員この水車小屋に入れるんだ。広いのを作ったな。実験用の小屋って規模じゃないわ。これなら中心のお軸を伸ばせばもっと精米できるだろうな。
そして親方が言ってたように水車の完成を待って、色々な人が棚田を作りに来てくれた。もうすでに作ってある棚田があるのでその大きさに合わせて一気に八枚作ってくれた。これで全部で二十六枚だわ。残りの十四枚は形もいびつになるし俺が作ったほうがいいだろ。
あと俺が棚田作りの手伝いに来てたクライブに何気なしに畔になんか植えようかと思うんだが何がいいと思うと聞いたら、綿花がいいんじゃないと言われた。確かに綿花なら一旦植えてからは収穫まではあまり手もかからないし、食べる訳でもないし、ここなら水もあるからな。で、なんで綿花って聞いたらなんでも村では糸車を使って糸を以前よりも早く巻いてるから、綿が少なくなってるらしい。なるほど。こんな風に糸車が影響を及ぼすとは思わなかったが考えたら当たり前だな。わかったよヤマト、お前が産業革命を研究したかったのはわかったから。でもな、本当に石炭のことは知らないんだよ。それに蒸気機関車なんて個人の工房で作れるのか? あれお前の記憶でみるかぎりとんでもなくでかいぞ。
で、この水車の完成とともにサヒットがロウ板御殿に引っ越してきた。水も今は雨季だから問題ないしな。俺の苦労はしなくても済むな。はあ。いや、わかってるよ。喜ぶべきだって。でもなちょっとくらい俺の苦労を知っても悪くないだろ。ああ、ヤマトもそう思うか。
「で、なんでお前はため池を作らなかったんだ?」
サヒットが小屋なら誰もこないからって、ここで会おうって言ったんだが、なんで落ち合うのが俺かお前の新しい家じゃなくてここなんだ。
「なんか唐突だな。まあ、コメを作るにはため池が必要なのはわかってる。でもな、どうも木工だけで税金を払えそうだから別にいいかと思ったんだ」
やっぱりあのロウ板で儲かってるのかな。
「あとな、最近イーヴと姉貴の仲が悪い」
おおう、人間関係か。これが本題なのか。ああ、あんまり知りたくないなあ。
「まあ、お前だから話すが」
いや、話さなくていいぞ。
「どうもガヴィンとガレンがイーヴの着替えを覗いたことがあるらしい」
「もうその年か」
見てわかるだろ、五歳だよ。ああ、そうそう大体十三くらいか。ほー中学生か。なんだ中学生のかかる病気って?
「で、イーヴも姉貴に文句を言ったんだよ」
「じゃあ、それでいいじゃん」
義姉さんもブリジットとブリーナのお世話で忙しいだろうしな。
「でもな、その後も覗きが続いたらしい」
「らしいって、辞めなかったのか?」
「姉貴はちゃんと言ったと言うし、ガヴィンもガレンもしてないと言ってる」
そりゃしてますとは絶対に言わないよ。
「でもイーヴはまだ見られている気がするからやだって。ウチに来てくれない」
ああ、そんで、お前も村長の家に行くのがいやなのか。
「だからこっちに早くに来たのか。おい早めに結婚式を上げろよ。次になにがあるかわからないからな」
「おい縁起でもないことを言うなよ! これからも何にもねえよ!」
このあとサヒットとイーヴの結婚式が村であった。無事に結婚はできたけど、あれだな村長の家でやったのは失敗だったな。サヒットの家でやるか、新居でやるべきだったな。あ、新居は無理か、多分水が足りなくなるわ。
いやあ別のどっちの家でやってもいいんだよ。ただやったほうの家の負担が大きいのは確かだな。今義姉さんも子育て中だし、お義父さんも年だし。とにかくこれらの理由で村長の家でやるってのはヤマトもわかるだろ。ただなあ、ニーヴのことを皆忘れていたな。あの子普段はおとなしいし、イーヴとは違うって皆言ってたんだけど、やっぱり姉妹だったな。
まあお前も引いてたくらいだからな。あそこまで酔っぱらってサヒットとイーヴに絡まんでもいいだろ。村には男がまだ沢山、いや沢山でもないか、まだ少しはいるんだしな。イーヴだったらアヴィンとくっついても俺は別になんとも。あれ。いやだめだ、冗談じゃない。西にアヴィンとニーヴで東にサヒットとイーヴなんてなんの冗談だ。アヴィンには違う人を見つけてもらうしかないな。こうなったら隣町とかで見つけてくれ。
へーお見合いなんてのがあるのか。うん、今度村長に隣町とのお見合いを頼んでみよう。え? お見合いは家族間でやるのであって、村ぐるみじゃないのか。うーん、でも俺のアイデアも悪くはないだろ?
ちなみに今回の収穫までに棚田は俺が小さいのを二個作った。まあ大体いままでの棚田の一枚分だな。なので次回の田植えには二十七枚分の苗が必要になる。そして、今年最初の収穫では人約二人分のコメの収穫があった。今回は十八枚の収穫だったので母さんに家に来てもらい娘たちを見てもらった。そして、俺とボウアと親父とアヴィンとで三日かけて終えた。収穫が終わったあとは千歯扱きと水車での精米があるから異常に楽になった。親父たちも感心していたわ。これで余裕を持って、次のコメ作りに望める。なにしろあと五人分のコメが長い乾季の前までには税金として必要だからな。
ノックスの所は江戸後期・有機農法に近いので収穫は一反当り180-200キロです。完成すれば耕作地は一町の土地しかありませんが雨が降るのを待つ必要が無いので苗を他の人よりもひと月早く苗を植えることができます。
これのおかげで長い雨季には普通よりも早めに二回収穫出来て、なおかつ半分くらいの収穫のある三回目の収穫があります。そして大雨の前に確実に四回目の収穫があります。
なので、180キロの収穫と見積もっても、一町(10反)の土地で年間6300キロ弱のコメが取れる計算になり、200キロの収穫がありますと一気に7000キロ弱の収穫があります。毎年金貨52枚から58枚なるので、今までの農家よりもコメだけで裕福になります。
また耕作地は他の農家よりも少ないのでその時間を他の事に充てることができます。千歯扱きや水車での精米などでも時間は出来るので、海水から塩を作っても良いですし、果樹を増やしてもいいですし、家畜を増やすことに注力することもできます。さすがに全部は無理でしょうが、このうち一つは確実に、もしかしたら二つは出来ます。その上ボウアの機織りの収入もあるので、将来的にはノックスは村ではかなり裕福な農家になります。これまでの努力が報われてますね。ヤマトは金貨を見てないのでその実感はないですが。