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83)10歳 24月37日―1月9日 ヤマト三度目の年末年始

「我が妹たちの誕生日の前に集まってくれてありがとう!」


 俺は割った竹の中で育った稲の苗の前に立っている。


「うるせえ、お前の魂胆は見え見えなんだよ!」


 サヒットが怒ってるが、はい、文句言わない。このあと俺もお前のところ手伝うだろうが。ガヴィンとガレンもちゃんと手伝えよ。


「そうか、なら話が早い。早速田植えだ!」


「はあ~」


 こら、なにため息ついてんだアヴィン。お前もいないとダメなんだよ。


「まあ、許してあげて、ここ数年は田植えの時にはヘンになるのよ」


 妻よヘンとはなんだヘンとは。期待で胸いっぱいなだけだ。そして帽子にほっかむりは女性に共通のスタイルなんだな。母さんに義姉さんもお義母さんもボウアもイーヴもしてる。ブリジットとブリーナはもうよちよち歩きだ。


「イーヴお姉ちゃん、田植えするの~」


「みんなでするのよ」


 あ、イーヴの顔がちょっと引きつってる。セヴリナはかわいいからな、邪険にはできまい。


「ママ~」


 あ、テメシスがこけてる。帽子も落ちてる。


 とまあ、総勢九人で一気に田植えをしたら一日で十四枚が終わった。はっきり言ってテメシスとセヴリナは数にいれない、役に立たないがそれでいい。お手伝いしたいというやる気が大切なんだ。そしてとりあえずパパが何をしてるかわかってくれればそれでいい。


 なにしろ最近は俺がサヒットの所で水車小屋を作るのを手伝ってたり、海水を汲んで浅い桶に入れるくらいのことしかしてないせいか、娘たちが「パパ仕事してない」とか言ってる。いやいや、そんなことはないぞ。ママは家で機織りしてるから仕事してる姿はいつでも見れるけど、パパもちゃんと働いているんだよ。ただ今まではお前たちがちっちゃかったから田んぼに連れて行かなかっただけだよ。


 残りの四枚は俺とボウア二人で明日やって終わりだな。そして、この日に呼んだ人たちのためにその夜は海鮮料理を振舞った。やっぱりエビとか魚のためならこんな辺鄙なところでも皆来るよな。一日で済むのならいいじゃん。俺が手伝う時なんか通いで三日とか四日ざらだぞ。


 二日後の三十九日はセカナとアンカムナの誕生日なので実家に行く。この二人もかわいいな。でこの時また帰ってもすぐ村に戻るのが面倒なので、ボウアと子供達は俺の実家に二泊して、一月朔日にボウアは自分の実家に行った。ブリジットとブリーナもすくすく育っていて、ガヴィンとガレンが案外よく面倒を見ている。で、この後五泊ボウアの実家で過ごしてから、一月六日に実家に戻る。俺は当然ながら毎日村と家を行き来して動物たちの世話をして、田んぼの水の状態を見ている。まあ、普通とは違って長い年初の休みだがこれはこれでいいよ。


「長い年初の休みだったわね」


「まあ、そうだな」


 俺は毎日片道一時間あるいているからあんまり休んだって気はしないなあ。


「ママー、火に入れてきていい?」


 セヴリナが木片を持ってる。俺が今年の雨を祈願したヤツだな。あれ、テメシス? うおい、もうあっちに行ってるぞ。


「テメシス、火は危ないからパパとママと一緒に入れよう、な」


 動く前に一言くらい言ってくれ。本当にちょっとでも目を離せない。


 そして皆でタラン様に祈願したあと家に帰った。


 やっぱり家はいいな。落ち着くわ。しかし、なんかやることが増えてきたな。これをこれからも全部覚えて行かないといけないのか。なんかいい案がないかヤマト。あー紙に書く、な。うーん、まあ無難なとこではそうなんだけど、今年は税金を払わなければならないから無駄遣いは避けたいんだよな。まあ、いいかとりあえずは大丈夫だし。


 最後にサヒットの新しい家についてちょっと言いたい。建設中のあの家を一回見に行ったが、なんだあれは。いや、正方形だよ、俺たちの伝統的な作りの家だよ。でもなんだあの大きさは。あれ絶対十八メートル四方はあるよ。しかも俺の間違いを全部考慮して改良点も足して作ってある。


 土間はまだ出来てないと思うし、中に入ってもないけど、すでに設置してあるあの樽は絶対に直径五メートルのやつだわ。以前親方の言ってたのが完成したんだろうな。あれだけあれば二人なら長い乾季でも全く問題ないだろうな。そして家の横に出っ張ってるの、あれ絶対にトイレだよな。なんだよ、あんなに顔をしかめていたのに。いつの間にトイレを気に入ったんだ。


 ロウ板御殿? なんだそりゃ? へー、何かで財を成して、そのお金で建てられた家はなんとか御殿っていうのか。しかしスゴイなまさかロウ板でそんなに儲かっているとは思ってなかったわ。え、ただの推察? まあ、そうだよな、実際に儲かってるかは聞いたことがないからな。え? アヴィンも恐らく儲かってる? なんで? あ、蛇口か。あれっていくらくらいするんだろう。今度聞いてみたい? いや、辞めておくか。ハハハ、じゃあ俺の家はロウ板御殿と蛇口御殿に挟まれるってことになるのか。うおい、お前この前俺たちは貧乏じゃないってようやく認めたろうが! あいつらは金持ちになっただけだよ! ブロガン? ああもう、うるせえ、俺は俺たちの中で一番貧乏じゃねえよ!


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