82)10歳 21月4日―23月34日 大雨と水車小屋
すげえな。この大雨の中村からここまで歩いてきたのか。風邪ひかないか不安だわ。うーん、そうなんだよな。こっちにはヤマトの言うタオルがないんだよな。問い会えずこの大雨が終わるまで家に居てもらおう。
「大丈夫ですか?」
妻がティルガン親方に聞く。
「いやあ、ずぶ濡れになったな」
「本当ですよ、風邪ひかないようにウチで一旦身体を拭いて、雨が上がるまでここにいて下さい」
「おやかただいじょーぶー?」
おお、えらいぞテメシス。ちゃんと他人を労われるようになってるな。と、いうかセヴリナはどこだ?
「おっちゃんは大丈夫だぞ、ありがとうな」
「えへへへ」
頭撫でられるのが好きなんだよな。
「セヴリナ~、ママの部屋から布持って来て~」
「あーい」
ああ機織りの部屋か自室にいるのかな。
そして、親方は身体を拭いてから雨が上がるまで家にいた。まあ、今の俺に出来るのはお茶と団子を出すくらいかな。にしても本当にこの雨凄いな。土間までが暗いわ。あと樽が一個づつしかないから竹の筒を付け替える必要もないのが楽だな。
そして、なぜ親方がここに来たのかわかった。この人雨が降った時とか、乾季の時とかも何度も俺とサヒットの敷地にある川を見に来てたらしい。そして、今回の大雨で、その調査が終わるらしい。
「でな、結論として、俺はサヒットの敷地の方に作るのがいいと思う」
「はい」
「あっちなら水車小屋を作る敷地にも困らないし、水量もあっちのほうが多いと思う」
「わかりました」
「で、小屋を作る前にまずはちょっと川をせき止めて人口の池を作るんだ」
「はあ」
「なんだその返事は、お前も手伝うんだよ」
「え、ちょっと待ってください」
「心配するな、こっちを手伝ったら、そのあと弟子たちを連れて棚田造りを手伝ってもらえ」
「ああ、なるほど」
「まあこういうのは持ちつ持たれつだからな」
という事で、今回の乾季は俺は水車小屋建設に出ることになった。
で、それが大変だった。乾季の時に水位がぐっと低くなるのでまず水を貯めることの出来る池を作らなくてはなかった。このダム造りには石とか岩を使うのでケーシーさんの指導が必要になり、水が漏れないように隙間を埋めるためにはキーラさんの指導が必要になった。
今年の年終わりの祭りの会話はどこでも水車の話だったな。どの家族も誰か一人くらいは何らかの形で協力してるらしい。でも俺とマギーさんは家が近いし若いから一番建築現場に来てるよ。祭りの時まで水車の話はしたくねえわ。まあ今回は抽選を見れたけどな。前前回といっしょでまたキャリガンさんの牛が選ばれたよ。
そしてこの建設の途中サヒットが水車の設計図を自慢しながら俺に見せたら、ヤマトがポツリと言った。ヤマトめ、俺が止める前に喋りやがって。おかげで工事が追加になったよ。もう終わるかなって思ったときに工事が伸びた。うぐう。
もともとは水が流れて、その上に水車を置いて車を回す予定だった。が、ヤマトが水が上から落ちたほうが良い、ってつぶやいたのがサヒット、そして親方に引っかかった。俺は最初なにを言ってるのかわからなかったが、あとでヤマトがロウ板に書いてくれたらさすがにわかったよ。つまり水を水車の上の方から落とすことが出来たら回転する方向を変更できるんだよ。水車の後方に水を落とすのと水車の前方に水を落とす、これだけでどっちにも回転出来るんだからやらない理由はないと親方が言った。なので、今度はダムから水を引き出す長い通路を作ってその先に穴を二つ開ける。最初の穴を板を使ってふさげば、水は次の穴から落ちる。
で、これだけ立派なのを作るのなら小屋も当初よりも大きくしようと言うことになった。あれコイツは実験的に作る水車じゃないのか? と俺は思ったけど、皆が喜んで作業してるから何も言えなかったよ。
あとはまあ水車本体を親方とコーラさんとで作って設置するだけだな。
これが出来たら精米が各段に楽になる。楽しみだ。
棚田はこの間一枚も出来なかったわ。まあ、二十四月前にほとんど終わったから苗は作れるし、塩も少し作るか。