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75)9歳 1月3日 長い新年の祝い

 年末には生まれると聞いていたが、まさか本当に年末の年末二十四月の三十九日に生まれるとは思わなった。女の子の双子の兄になった。名前は親父が古風なので、最近流行りの音で合わせるのは嫌だって言ったんだよ。で、俺たちみたいに神様にちなんでつけると言うから、どんな名前だと聞いてみたらモリガンだよ。いったいどこの馬鹿がモリガン様の名前を使おうと思うんだよ。うおう、俺の親父だよ。だから皆で必死で止めたよ。いったいこの世界でだれがタランとかモリガンとか名乗ってんだ。恐れ多くて無理だわ。この間ヤマトはずっと笑っていたから、なんで? と聞いたら、モリガンってのは日本のゲームに出てくる色っぽい女の人らしい。なんかちがうぞヤマト。モリガン様は三位一体の戦と運命の神様だぞ。


 なら俺みたいに河の神様とかならいいんだろうとか言って東の方の双子の河のセカナ様とアンカムナ様にちなんで名付けおった。なんでなんだよ、こんなんじゃこの四人は姉妹だと皆思うだろうが。


 まあ、親父はいいよ。


 母さんが子供を生んだばかりだからで大変だろうと思って今年はボウアに家にいるのは二日だけにして、三日目から実家に家族で来てる。大人五人に子供四人もいると結構騒がしい。でもまあ、俺も親父も子供の世話には慣れてるからアヴィンには食事当番になってもらって母さんとボウアにはなるだけ休んでもらっている。


 でもなあ、あの二人あんまり休んでないんだよな。なんか申し訳ない。やっぱり子供達は父親より母親のほうがいいのかな。泣いてる時とか俺があやしに行ってもたまに「ママじゃない~」とか言われるしな。おっぱいか? おっぱいなのか? あ、でも今年の新年にはボウアも清酒を飲んでるからやっぱり断乳か。じゃあおっぱい関係ないのか。


 なんかこの話してるとヤマトが急に静かになるから話を変えよう。


 で、実家に結構いたからアヴィンともじっくりと話せた。まあ、将来的には俺の隣の不毛の土地を貰うとか言ってた。どうせ農業はしないから、今の内に鍛冶の燃料用に丘とかに木を植えて、海岸のどっかには小さな桟橋を作って鍛冶の材料やら製品をそこから王子港まで船で行き来するようにしてみようと言ってる最中だ。うん俺はまだ海は怖いがヤマトが荷馬車なんかで運ぶよりかは船の方が圧倒的にモノを多く早く運べるし、一応船が沈みにくくなる方法があると言うから俺はこの話に乗ったんだぞ。まあ、上手く行ったらお前の手柄だ。


「本当にこれで船が大丈夫になるのか兄貴?」


 アヴィンのロウ板に俺が書いた下手な絵を弟が見てる。


 ヤマトの言う隔壁と言う概念を説明するのに時間がかかった。口で言っても伝わらないからついに絵で描いたよ。下手だけど。


 まあ、コイツは鍛冶職だからな、船大工じゃないからな、懐疑的なのはわかる。でも船の中に水に漏れない仕切りを作れば船体に何らかの理由で穴が開いてもそこだけが浸水して、残りは大丈夫になるから安全性が格段に上がると説明したらコイツならわかると思ったんだがな。なかなか信じてくれない。


「ああ、やってくる船にこれからは絶対に隔壁を作ってもらう。それがお前の商品を運ぶ一つの条件にしたら渋々ながらもしてくれる人も出るだろ。大体蛇口を欲しがってる人はすでにいるんだろ。まっ、最初はブロガンだな」


「あいつがこんな面倒な船を作るか?」


「サヒットに模型を三つ作ってもらって見せれば理解するし、作るだろ。プロガンは馬鹿じゃないし、俺たちみたいに海が怖いからな」


「ちょっと待って、だれがその模型の値段を払うんだよ? 俺はやだよ、そんなのにお金は使いたくない」


 これもアヴィンを納得させないといけないかもしれないな。


「これは俺がその遠いところから来た人から聞いた話だがな、その昔『巨大船』を作った人がいたそうだ。でだなこのくらい大きかったら絶対に沈まないと言う触れ込みで色々な人が乗ったんだ」


「まあ大きかったらそれだけで安心感はあるな」


「だがな、隔壁を中途半端にしか作らなかったから沈んだんだよ」


「そんなにその隔壁ってのはすごいのか」


「簡単に考えれば船の中にたくさん浮きがあるようなもんだから沈まないだろ」


「うーん」


「だからさ、隔壁のない船、隔壁が『巨大船』みたいに中途半端しかない船、隔壁がしっかりとある船。この三つの模型があれば浸水した時の違いがわかるだろ」


「まあ、三つ必要な理屈はわかった」


「だからな、これはお前のためでもあるからサヒットに模型を作ってもらえ。というか俺もなんかその三つの模型での浸水を見てみたい」


「おい、兄貴はこのことを知ってるから勧めてるんじゃないのか?」


「いや、これは俺も聞いた話でしかない」


「うわあ」


 なんだよそんな目で見るなよ。まあもし九日にサヒットに会えたらこの話をしてみよう。


 そして俺は毎日朝早く村と丘の向こうの自分の家まで往復して動物の世話をして一週間を過ごし、最後にボウアと一緒にタラン様に家内安全と雨を祈願してから家族と家に帰った。サヒットには会えたよ。アイツもこの話は面白そうだと言ってすぐ模型を作ってみると言ってた。まあ、サヒットとボウアはノーランドの件があるからな。ちょっと不安だったけど、前向きにとらえてくれてよかった。まあ、ボウアには船には絶対に乗るなと言われたけど。

隔壁は中国では遅くてもマルコポーロの元代にはありました。西洋では近代まで広まらなかったものの一つですね。

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