66)9歳 16月40日 嫁と娘たちの帰還
アヴィンとサヒットが帰った次の日から俺は精力的に動き出した。ここでの生活を成功させるためにもう一度決意を新たに真剣にこの環境に向かいあった。苗作りの用意も始め、兎と鶏とアヒルたちも増やす方向で世話をした。用意が出来てから妻を迎えるつもりだった。
が、なんでか又しても早く帰ってきた。まあ、お義母さんとケンカをしてるって聞いてた時点で予測すべきだったか。
「もう二度とこんなことしないで」
「わかりました」
あ、テメシスとセヴリナがベッドルームから歩いてくる。昼寝から起きたのか。おお、俺は最初に娘たちが歩いたところを見逃したのか。
「水が無くなってたの私も知ってたからあの時はそのまま帰ったけど、なんで相談してくれないの」
「ごめんなさい」
娘たちがかわいい。ああ、ママって言ってる。ぬあああ、最初の言葉も見逃したのか。ぐう。
「大体夫婦でしょう、なんで勝手に税金兵になろうとか思ったのよ」
「すみませんでした」
だってもうそれくらいしか選択肢がなかったんだよ。この国は税金が高すぎるんだよ。まあ娘たちの成長を見逃したことを悔やんでもしかたがない、これからは一緒にいてやれる。兵舎に出頭せずに済んでよかった。
「あなたのせいでお母さんともたくさんケンカしたし、娘たちにもあの姿はあまり見せたくなかったのよ」
「もうしわけない」
もうかれこれ三十分くらい怒っている。なんなんだ、帰って来て最初に会った時はチューしてくれたのに。抱っこしてた娘たちをベッドに寝かせたら怒りだした。おれもテメシスとセヴリナには夫婦喧嘩は見せたくないよ。でもまあ、基本俺が悪いからな。うるさいな! ヤマトにまで俺が悪いとか責められたくはないわ! ほんっとうに俺のことが嫌いだなお前は。
「聞いてるの?」
あ、目がギロンとしてる。本気で怒ってる。
「聞いてます! もう二度とこのようなことはしません」
と、まあ、謝って、謝ってなんとか機嫌を直してくれた。テメシスとセヴリナに救われたな。あと妻はベッドルームに娘たちと戻ったら少し機嫌が直ったみたいだ。あの部屋から見える景色はいいからな。家の前の竹も窓の前は全部切ってある。あと娘たちに機織り機を説明してたらさらに機嫌がよくなった。やっぱり職人なんだな。機織り機も俺が出発する日に荷馬車に載せて一緒に村へ持って行く予定だったから何も触ってない。不幸中の幸いだ。
しかしまあ、明日から雨季が始まるとは言え、早く雨降ってくれ。頼むタラン様。新しい樽が来てから雨が一回降ったけどまだ水が全然足りない。
ちなみに木工のサヒットと鍛冶のアヴィンが協力してあの新しい樽を作ってるのを見て陶工のキーラさんがなんか自分も参加したいと思ったらしい。ボウアがここに来る前に新しい飲料水用の樽を渡してくれたそうだ。なんでも以前お茶狂いのボイド爺さんがいいお茶を飲むためにはいい水が必要と言ってキーラさんに水をろ過するような陶器を作ってくれと頼んだらしい。でも爺さん急に亡くなったから、また石工のケーシーさんのとき見たいに完成した物は倉庫に眠ってたそうだ。まあ、そりゃそうだ、水を滴らせる陶器って何の器に使えばいいんだ? でもサヒットがろ過樽を作ってると聞いて、これは使えると思ったそうだ。なので、サヒットと協力して、飲料水用のろ過樽を作ってくれた。欠陥品の有効活用なので上手くいったらあとで鶏一羽くれ、と言ってボウアに渡したそうだ。
ありがたい。こいつは炭の入った飲料水用の樽とは違って、水の味がはっきりと違うとわかる。はっきり言って鶏一羽じゃ、とてもじゃないけどこれの価値に見合わないと思う。けど、今金欠なんだよな。ああ、そうだよ、今は認めるよ。貧乏だよ。え、お前はもう俺たちの事は貧乏と思ってない。え、あ、でも今はやっぱり貧乏か。はあ、まあいい。なあヤマトはこれの価値どのくらいだと思う? だから、飲料水をろ過する樽だよ。ああ、お前は結構高評価なんだな。まあ、おれはお前ほどではないが、そうだな銀貨一枚は確実に取れると思うわ。まあサヒットとキーラさんでこの金は折半になるが。
サヒットもサヒットでなんでタダでキーラさんに樽を作ってあげたんだ? ハハハ、そうだな俺からむしり取ってるからか。畜生。
おい明日荷馬車を返したら絶対に苗を植えるぞ。借金返済だ。
西洋で使われてるセラミックフィルターは1827年イギリスのHenry Doulton が初めて作りました。ロイヤルドルトンと言う老舗のメーカーを創設したジョン・ドルトンの次男ですね。
これで十五章の十章が終わります。この話の三分の二も読んでくださりありがとうございます。
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