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65)9歳 16月30日 アヴィン型

 乾季も終わりだした。樽に水もようやく少し貯まりだして、現在一つようやく満タンになり、二つ目に水を足している。でもあと五日でここともおさらばだ。塩は結構とれた。これならボウアは二年くらい塩の心配はしなくてもいいだろう。ああ、忘れてた。マギー兄さんに塩の作り方を教えないと。薪はもう使わないので塩作りにほぼ全部使ったわ。


 と、まあ朝飯を食べたあと居間で朝寝をしている時にサヒットとアヴィンが土間に入って来た。


「おいノックス起きろ、なにのんきに寝てるんだ」


「おう、おはよう。あ、あれ、俺が王子港に行くのは五日後だぞ。見送りには早いぞ」


「いや兄貴は税金兵にはならない」


「いや、俺は税金兵になる!」


「なに馬鹿なやりとりしてるんだお前ら兄弟は、いいから外に出ろ」


「ナニコレ」


 おうなんかボウアの口癖が移ってるっぽいな。と、いうかなんだこれ。これデカすぎるだろ。


「俺とアヴィンで協力して作った。お前の新しい樽だ」


「はあ? こんなに大きかったらひさしの下に入らないだろうが」


 これどう見ても直径四メートルはあるぞ。高さも前より若干高い。


「大丈夫だそのために俺と弟弟子たちがいる」


 おお、樽に気を取られて気がつかなかったよ。えーと、クライブとシュキーアの兄弟にカヴァンか。で、なんでだ?


「計算したんだよ。兄貴が短い乾季の時は問題なかったっていってたのと、サヒットが言うには一か月で二人で今ある樽の水を四本分使ったんでしょ。だから、そこから引き出せた答えはあの樽は二本で人一か月分の水を貯めることが出来る。二か月雨が降らなくてもあの樽の水が八本以上あれば問題ない、で現実に十二本あったときは問題なかった。


 でも、今回は兄貴のところにテメシスとセヴリナが生まれた。将来的には四人分の水が必要になる。だったらここで暮らすにはあの樽の水は一か月で八本は必要になる。まあ、今は赤ちゃんだから六本でなんとかなったのかもしれない。で、六本だったら二か月で限界を迎える。実際にそうなった」


 となりでサヒットがうんうん頷いている。


「だからここで暮らすなら長い乾季を過ごすためにも最低でも八本を六か月分貯める必要がある。雨が全然降らないと想定しないとだめだ。それで、この樽を作った」


 小さいのが四十八個かよ。そりゃ無理だ。


「で、あのデカいのがあればここに俺は住めるのか?」


「いや、これだけじゃ足りない。これがもう一個必要になる」


 何言ってんだこいつ、って感じで俺はサヒットを見たよ。


「そうなんだ兄貴、これ一個じゃ足りない。今日はとりあえずこいつが出来たからこれを持ってきた。そして、これは今ある樽を撤去してから設置する。もう一個は大雨の前に作ってまた持ってくる」


 そうアヴィンが言ったが早いがサヒットとアイツの弟弟子たちがひさしに付いてる雨どいを取り外しだした。


「おいこら、なに人の家壊してるんだ」


「馬鹿か、壊していない。この樽はでかすぎるからその場所を確保するんだ」


 と、そういって北西の約四メートル×四メートルのひさしとその雨どいを取り外し、さらにはろ過用の樽も取り外し、その土台も壊し始めた。


「まあ、いいや、サヒットはサヒットのやりたいようにさせるよ。アヴィンどうなってるんだ」


「どうなってるも何もサヒットの言った通りだよ。この樽は直径が四歩あるんだよ。大きすぎて馬車にも横に入りきらないから、荷馬車の上に乗っけたのを人が周りで支えながら来たんだ」


 確かに人で支えないと下手したら転げ落ちるだろうな。


「で、これは大きいからひさしを一旦とりはずして、ひさしには板を足してもっと大きくして、雨どいは付け替える。今ある樽は全部撤去し、あのろ過用の樽はサヒットが新型を作ったからそれを新しく設置する」


 アヴィンが馬車の方を指さしてたが、確かになんか変なのがあるな。妙に細長いのがある。


「でもこれだけ大きかったら水を汲み出せないだろ」


「ああ、この樽には兄貴が以前描いた蛇口ってのをつけてある」


 痛い痛い、マジかって大声で叫ばなくていいよ。


「へ、は、あれか」


「ああ、兄貴が昔書いた絵をサヒットが紙に書き写しておいてくれたんだ。そして、もとは兄貴の説明なのか? まあサヒットが言うにはこうねじで水を止めるって言ってたんだよ」


 ああ、この不格好な絵は多分俺が書いたもっと下手な絵が元になったんだな。


「ああ、そうだ、俺がねじなら水の力に負けないんじゃないかと思ってな」


「でもサヒットの親方がねじなら水がその脇をすり抜けるから無理だって言ったんだろ」


「ああ、そうそう、それで断念したんだよ」


「あの形状をどこで考えたんだがわからないけど、兄貴、蛇口はねじの部分が水を止めてるんじゃないよ」


「へ」


 あ、ヤマトもわかってないっぽいな。


「あれはねじで水の通り道に蓋をしてるんだよ」


 とアヴィンが紙をひっくり返して俺に精密に書かれた蛇口の内部構造を見せてくれた。要は水が通る穴にコルクを張り付けた鉄の蓋で栓をしてるだけだった。ただ、この蓋の上にねじが付いてて、ねじを回すと蓋が上がったり、下がったりして水が通れるようになっている。つまりねじが水圧に耐えるだけで、ねじそのものは栓の役割をしていない。俺とヤマトはてっきりねじの部分が水を防いでいると思っていたんだが違うんだな。


「お前は天才だな」


 あ、ヤマトが勝手に喋ってる。でもこの感想は本当だよ、こいつ絵を見ただけで構造がわかったのか? しかも間違った解釈をも聞かされて? 信じられん。


「まあ、あの絵が無かったら出来なかったし、サヒットがいなかったらこんな大きい樽を作ろうとは思わなかった」


 直径四メートルなら、半径二メートルでパイアール二乗ってやつだろ、だから二十四トン以上か。で二個で四十八トンだ!


「うおおおお」


 思わずアヴィンを抱きしめちゃったよ! これはいい!


「ああもう放せよ!」


「おう、悪い。いや悪くないぞ、ありがたい」


「ああ、もう気持ち悪いなあ」


「おいノックス、レンガはどこだ、あとアヴィン出番だぜ」


 とそのあとはサヒットとアヴィンの指導のもと俺たちは手足のように働いたよ。まず家の周りに掘ってある排水溝は一部埋めなくてはならなかった。次にレンガを敷き詰めて高さをちょっと取って、その上にさらに木材を置いて、樽の底が水の重さで抜けないように補強もした。そして、四メートル四方の所に壁から一メートル弱くらいの隙間を取って樽を一旦設置した。で、樽をまたどかしたあと、樽の蛇口から出る水を受ける場所を確保するために土間に穴を掘った。これが異常に大変だった、キーラさんいい仕事してた。それが終わってようやくまた樽を設置した。これで樽の蛇口から掘った地面まで十分の距離が得られた。まあ、飲料水用の樽やら台所のたらいなどならここに持って来て、蛇口から直接飲料水用の樽などに水を入れることが出来るようになったな。


 次にサヒットの新型の雨水ろ過樽を家の北西の壁と土間の壁の角のところに設置して、雨どいをそこに誘導させる。最後に樽にかぶせるひさしを作って、そこにも雨どいを付けてその水も新型のろ過樽に流れるようにする。


「これさあ、どうやってどんだけ水が入ってるのかを知るんだ?」


「ああそれはな、お前が前言っていた仕掛けを作った」


「なんのことだ」


「おい、覚えてないのかよ。浮と錘と糸と滑車で繋ぐってやつだ」


「え、ああ、あれか。でもあれはお前が蚊が入るからダメだって言ってたじゃないか」


「だからこの樽には上に二つ穴があるんだよ。一つはこの細長い樽から入るキレイな水用な。この穴はいじる必要はない。もう一つの穴はこう蓋を開けて、中を見て確認することも出来るが、おいアヴィン」


「ああ。俺が作った滑車も穴のすぐ近くにある。だからここの蓋を開けて、浮を樽の中に入れて、紐をこの滑車の上を通せば、この錘が樽の中にどのくらい水が入ってる教えてくれる。樽のここにちゃんと目盛りも付けてあるから。計測が終わったら浮と紐を出して、蓋をちゃんと閉めてくれ。でないとまた兄貴があの蚊に刺され、プッ」


「わかった思い出し笑いしなくていいから」


 そうかこれは俺たち全員の協力でできたものか。感慨深いな。茶化すなよヤマト、ちょっと感情的になってるんだよ、おそらくな。悪いか。


「お前たち。ありがとうな」


 俺は手を差し伸べた。サヒットがまず握手してくれた。その次にアヴィンだ。


「これで本当にこれまでの苦労が水の泡にならないで済むのか」


 また少し涙が。


「おい、なに忘れてんだ。この樽をもう一個置く場所を考えておけ」


「そうだよ兄貴、もう一か所最低でも十歩四方の屋根を作って、水を貯めないとダメだ。それにもしこのあとボウアと子供を作る気があるのなら、その度にこの樽を設置しないとダメだ。一人追加する度にあの小さい樽十二本必要になるぞ」


「あとな、お前、こいつの値段ちゃんと払えよ」


「へ」


 おいサヒットさっきのムードをぶち壊してんぞ!


「当たり前だろが。ちゃんと正規の値段を払えよ。樽二つで馬一頭だ」


「な、そんな金ねえよ!」


「お前な、これで税金兵になる必要もないし、一年通して家族と暮らせるんだ。真っ当な値段だと思うぞ」


 うがあ、この前ヤマトとやった計算を思い返せば言い返せねえ!


「う、じゃ、とりあえず待ってくれ。今は本当に手持ちがない」


「まあ、俺は兄貴がいつ払ってもいいからそれでいいけど、サヒットは?」


「俺もコイツから馬一頭分の支払いを最近もらったばかりだからな、待つのは問題ないぞ」


 はあ、税金兵にはならずに済んだかもしれんが借金は背負ったな。


挿絵(By みてみん)

ニューヨークでは昔の五階以上の建物の屋上には水のタンクがあります。これは19世紀にはじまり、今も続いています。もともとはワインバレルのメーカーさんの技術を応用して、木製で一万ガロン(37トン)の水を貯めることができます。


『みてみん』様に新しく家の見取り図をアップしました。よろしければ参考にして下さい。

https://33111.mitemin.net/i473328/

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