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63)9歳 14月30日 記録を付ける

 サヒットが昨日来た。兎たちと鶏はほとんど引き取ってもらった。まだヒヨコたちも含まれているがそれらも返済に充てるから、俺の借金はあと百羽でいいと言われた。そんで、それなら俺が今年取れたコメがあるからそれで残りに充ててくれと言ったら快く承諾してくれた。


 ああ、そうだよヤマト、大体人が一人一年分食べるコメの量と馬一頭の値段は一緒だよ。そういうこと。鶏か兎も一緒だよ。あれらからは四食分の肉が取れるだろ、だから一年分の肉は二百四十羽。まあ二百羽でいいよ、という時もあるがね。それとコメ一年分の量、それと馬か牛、これら全部が田舎では大体一緒の値段だ。だからこれで俺は晴れて借金無しで税金兵になる。ハハハ、借金のない税金兵なんて珍しいだろうな。


 あとサヒットから聞いたがアヴィンとコーラさんは和解したらしい。詳しいことはよくわからないが、コーラさんが休む四の日と九の日はアヴィンが工房を好きに使っていいらしい。コーラさんがいるときはあくまでもコーラさんの仕事優先。まあ当たり前だな。これで、もう一つ懸念が減った。


 が、懸念が増えたこともあった。ボウアとお義母さんがしょっちゅうケンカしてるらしい。ノーラ義姉さんとはまあまあらしくて、そんなに問題はないと。なんでだ? 性格の不一致? ヤマトの所は不思議なことでケンカするな。気に入らなかったら距離をちょっと取って頭を冷やせばいいだろうに。ああ、そうか。お前の言う通り家が過密になったのかな。日本の家は狭そうだな。それはどうでもいいんだよ。どうしよう。え、どうしようもない? お前にその口調で言われると本当にムカつくわ。あとこれはまあ正直どうでもいいがガヴィンとガレンがポチとシロを気に入ってる。


 で、俺は何をしているかというと雨季の始まる十七月朔日に兵舎に出頭すればいいからそれまではこの家で過ごすことにした。一人分の水ならなんとかあるし、家にいたら親父に色々と言われそうだからそこはいやだ。兵舎は王子港にあるからここを十六月三十五日に出れば余裕で間に合う。そしてその間暇だからこれまでの記録を付けてる。


 記録は紙に付けてる。サヒットがレンガをくれって言うからレンガを渡したらその代わりに紙をくれた。そんでこの紙にこれまでのことを書けば俺の後に挑戦する人も何が出来て、何が出来ないかわかるからやれってさ。まあやることも別段無いからな。つらつらと書いてるよ。書く気が無くなったらため池でレンガを作ってる。なんか知らんが欲しいって言ってたからな。


 レンガ職人? 無理だろ。キーラさんがいるじゃないか。アヴィンみたいにできないか? あのなあ、職人の税金知ってるか? ありゃ年間金貨二十二枚だぞ。また二十二って呆れてるな。とにかく二十二枚ってすんごい稼がなきゃならんぞ。だからアヴィンは建前上は農家ってことになるし、まだ独立してないから親父の田んぼの税金でなんとかなるんだよ。


 そうそう、この税金があるから村では現金がほとんど職人さんの所にいくか商人のとこにいくんだよ。そう、だから俺たち農民は物々交換とか現物支給なの。金貨の価値がわからないか。まあ、そうだよな。というかお前が来てから俺一回もお金を触ってない? そうか? おお、そうだったな!


 まあ、見てないから伝わらないかも知れんが説明するわ。金貨一枚とか貨幣ってのは、ヤマトの記憶の五百円玉よかちっと大きいくらいの大きさだな。金貨も銀貨も銅貨も大きさと重さは一緒。で、金貨一枚が銀貨六枚と交換できるの。なんで六枚かってのは俺も知らんよ。そうなってんの。で、銀貨六枚が銅貨千枚だよ。わかるぞ、割れないよなあ。だからまあ、銀貨六枚と金貨一枚はちょくちょく銅貨九百六十枚と交換される。だってそれならキレイに銀貨一枚が銅貨百六十枚になるし、一年九百六十日だろ。俺もお前の言いたいことはわかる、確かに駄洒落の世界かもな。


 まあ、金貨一枚が銅貨千枚もしくは銅貨九百六十枚って覚えたらいいんじゃね。どっちにしろ俺たちがこれから普段つかうのは銅貨の方になるし。あ、でも給料は銀貨で払われるって聞いたな。まあ、いいよ、どうせほとんどボウアに送るんだから。だから言ったろ、俺たちの国の重さはお金が基準になっててキログラムとかトンとかリッターとかと比べると無茶苦茶だって。


 ああ、そうそう、サヒットに渡したのはわら袋七個、あれはお前の言う玄米だからな。税金は玄米で払えば袋十四個、精米したあとのコメで払うなら袋十個。一人が一年食べるコメの量ってのは昔王都の方で決まったと聞いたぞ。あれ一袋四十キロぐらいだったから、一人当たりだいたい四百キロか。俺たちすごいコメを食ってんな。


 ああ金貨とコメの関係ね。俺の知ってる限りだな金貨一枚はわら袋三つだぞ。つまり金貨一枚は百二十キロのコメ、白い方のコメだ。ああ、そうなんだよなあ、だからここは銀貨一枚が二十キロのコメと覚えたほうが楽なんだよな。だって銅貨一枚はコメ百二十グラムだぞ、微妙すぎるわ。あれ、待てよ。だから屋台とかで簡単な飯が出ると銅貨二枚とか三枚なのか。


 あれ、もうちょっと待って。


 で、ここで俺はロウ板を持って来てアラビア数字を使って計算してみた。あれ、これなんか理にかなってる。なんだこりゃ。ああ、すまん。うん。説明するわ。


 えっとな、以前言ったろ、俺たちコメ農家の税金は人七人が一年分食べる量だって。これって二千八百キロの白米だろ、七人が四百キロずつなんだから。そんでさっき金貨一枚がコメ百二十キロって言ったろ。だから職人さんの税金の金貨二十二枚はコメに換算すれば二千六百四十キロだわ。あんまり変わりがない。ヤマトも「駄洒落の世界だと思ってたのに辻褄が合ってる」とか言って唖然としてるわ。


 じゃあ、馬や牛が一匹あたり大体四百キロのコメなのか、で鶏とか兎が一羽で二キロ弱のコメか。じゃあ鶏十二羽くらいで銀貨一枚。すげえな。誰がこの相場を考えたんだ? え、相場は勝手に決まる? なんだ自由市場って? へー、そうなのか。でも税金の額は相場じゃないだろ、王都の役人だろどう考えても。あー、まあそうかもな。すでにある相場に税金を合わせただけなのかもな。え、じゃあもしかして俺たちの税金は昔は人六人分だったかもしれないってことか。そのほうが辻褄が合うぞ、だって農家なんて八人家族が当たり前なんだぞ、十人家族とかも普通にいるぞ。ぐえ、じゃあ将来税金は上がるのか? ああ、わかった。あんまり考えないようにしよう。頭が痛くなってきた。


 え? 鉄? もう考えたくないって、さっき言ったばっかだろうが。えーと、確かアヴィンが言ってたのは銀貨一枚でこんな大きさの鉄らしい。ああ、重さは俺はわからんな。アヴィンに聞かないとな。え、だから知らないって、強いて言えば四キロくらいじゃね?


 あと最後に田んぼが二角というか二町あれば十五人が一年で食べる分のコメが取れてそれは六千キロになるから、それを全部金貨に換算すれば金貨五十枚になると計算した。だから俺たち農民は貧乏ではないってことがようやくヤマトにも納得させることができた。すんごいしょうもない勝利だわ。今更過ぎる。


 でもまあ、それでもちょっと気分は晴れたかな。

セージ村の普通の農家は一反当り150キロの収穫があって、二町(20反)の土地に植えるので一回の収穫が三千キロの収穫があります。そしてこれを長い雨季の間に二期作をするので普通六千キロの収穫があります。大雨の前に収穫が出来れば三期作、七千五百キロの収穫となり、この年は良い年になります。金貨六十二枚半ですね。


金銀銅鉄の相場は基本的に唐代のものを利用してます。銅貨960枚で銀貨6枚と交換というのは江戸時代の銅銭960枚が銭一貫というのを参考にしました。

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