56)8歳 5月5日 出産
田植えが終わって次の日の朝サヒットが来た。ボウアが無事出産したらしい。今日は仕事は無理だな。動物たちの世話を二人でパッパッとやってから急いで村に向かった。途中ヤマトが端午の節句だと言っていたが、なんでも子供の日と言って日本ではこの日に男の子中心に祝うらしい。三月三日が桃の節句で女の子の日だとさ。だからヤマトは男の子だといいなと言ってたが、サヒットに尋ねてもそいつはついてからのお楽しみだと言って教えてくれない。まあ、俺は元気ならどっちでもいいぞ。そして普段なら一時間はかかる村への行き道が三十分くらいで着いたよ。
サヒットの家の居間にいたのは女の子の双子だった!
「でかした! よく生んでくれた! ありがとう!」
なんか、色々と感情が沸き上がってくるが整理できない。周りにお義父さんやお義母さんやノーラ義姉さんにガヴィンやガレンもいる。
「うん、かわいいでしょう」
「ああ」
え、俺が抱っこしていいのか? こう抱えるのか? うわ、片腕に一人ずつすっぽりと入る、小っちゃいなあ。目をギュッとつむってる。それでもかわいい。おうヤマトもかわいいと思うか。よかった、よかった。ふふ、ほっぺがぷっくりしてるわ。
「でもちょっと疲れたから休ませて」
「ああ、ああ、もちろんだ」
俺が来るまでここにいてくれたのか、フラフラしながら妻がお義母さんと一緒に廊下から東の部屋に行った。
「ノックス君、おめでとうな」
お義父さんは本当に嬉しそうだな、初めての女の子の孫になるからかな。
「ありがとうございますお義父さん」
「うんうん、おめでとう、でも本当に大変だったわよ、だからちゃんと労ってあげてね」
ノーラ義姉さんも嬉しそうだな。
「はい、わかりました」
「何のんきに言ってる。まあお前が知らないのは当たり前だが、陣痛が来てから半日以上経ってるぞ」
「えっ、ボウアは大丈夫なのか」
「なに言ってるのよ、これくらい普通よ~。私の時もこんなだったわよ、覚えてないの~?」
「あれ、そうだったっけ?」
サヒットめ、完全に忘れてるな。二年くらい前の話だろうが。あれそろそろ三年前かもしれんな。それよかウチのチビたちだ。うーむ、見れば見るほどかわいい。
「まあ、ここは男同士で話してなさい、私も妹のとこに行くわ。ガヴィン、ガレン、いい子にしてるのよ」
とまあノーラ義姉さんが俺から双子を取り上げて居間を退出したあとはなんかすぐ酒盛りになった。お義父さんはお酒が清酒になってから最近よく飲むようになったらしい。まあ、今日はめでたい日だしいいだろ。あと新米のお礼をされた。なぜあんなに早く新米が出来たのか聞かれたから去年の二十四月から苗を作ったと正直に話たら、「タラン様の加護が」って言ってた。サヒットの信心はお義父さんからだったのかと納得したよ。まあもし自分の長男が海難事故で亡くなったら嵐の神様でもあるタラン様の意向は気になるか。
で、この後は名前の話になった。今流行りの音をそろえて名付けるのかそれとも伝統に則って関連性のある名前にするのかと。ああそうだぞヤマト、ガヴィンとガレンの音はそろえてあるだろ。俺とアヴィンは意味だぞ、それぞれ「丘」と「川」の意味だ。そして名前はもうボウアと相談して決めてあるぞ。妻は音でそろえるのはいやだと言ってたから男の双子の場合なら「山」と「海」。へ、お相撲さん? ほーでかいな、いいじゃないか。おい話の腰を折るな。あと女の双子の場合と男と女の双子の場合もちゃんと決めていた。そして女の子の双子なので双子の女神の名前から取った。大陸で一番長い河の女神セヴリナ、そしてその双子の姉で、王都を流れる河の女神テメシスだ。
この名前なら無難だし、俺たちはもう水に苦労したくないからな。これで女神の加護があれば一番いい。ああ、男の子と女の子の場合なら「海」と「湖」になる予定だったな。そして今回の出産を機にボウアの友人たちが集まって赤ちゃん用品を色々と持ち寄るだろうな。
ボウアと娘たちはこの後ひと月ほど実家で過ごしてから俺が迎えに言った。帰りは俺の実家にもよって娘たちの顔を見せた。こっちでも滅茶苦茶喜んでくれた。そして帰りの荷馬車には千歯扱きやコメ粉やその外にも荷物を一杯持って家に帰ってきた。馬が欲しい。毎回荷馬車を村に連れ帰るのも面倒くさくなってきた。
ちなみにボウアたちが帰る前に棚田をもう一枚完成させた。あと三十二枚か。父親になったんだ、甲斐性を見せねば。