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53)8歳 3月35日 コメの収穫と次の苗作り

 棚田の水を抜きコメを収穫する時期は早くも来た。本来ならこれは四月とかに行うんだが、俺たちは去年の二十四月に始めたからな。四月前に出来ちゃったよ。このまま新しい苗を植えることができたら五月にまた田植えになるぞ。ただ出来ないんだよ。はあ、畜生め。ヤマトがなんでわらを撒くのなんて聞いてくるから、俺も調子に乗って撒くのを辞めてみるか、と言ったのが運の尽きだ。なのでゼロ段の田んぼはほぼ使い物にならない。


 前回はここで苗を育てたんだが現在この田んぼは下の段へ続く水の通り道だけがなんとか使える。他はもうカチカチだ。わらを撒かないとこんなになるんだな、これ乾季だったらヤパイぞ、表土が風で全部飛んで行ってしまうわ。まあ、これで親父や爺ちゃんの言ってた理由がわかったな。ったく、こんなことを知るためになあ。この田んぼはとりあえず次回に向けて水を一旦貯めてから、後で耕して、わらを入れておこう。


 でもコメ以外の収穫もあったな。ヤマトのやり方の凄さが分かった。稲刈りが楽なんだよ。束ねて植えてあるからそれをつかんでザっと刈っていけばいい。親父に習ったやりかたで作った田んぼでは稲が一本一本適当に育ってるから束ねるのもちょっとだけ面倒になる。だからなんでお前が自慢するんだ。


 予想される収穫量も面白いな。まず五十センチ間隔は完全にだめだったな。思ったとおり幅は広すぎだ。一つ一つの稲にはたくさんコメはついてるが今までのやり方と比べて収穫量が絶対に低い。一目でわかる。面白いことにその外の三つの間隔を開けて育てた棚田と最初に適当にやった棚田では総量にあまり変わりがなさそうだ。正確にはまだわからない。脱穀しないとな。


 とまあ、そんなことを考えながら刈った稲を束ねて田んぼに置いていっていたら、ヤマトがまた聞いてきた。いや、そんなものはないよ。こうやって地面に置いておけばコメも乾くだろ。え、そんなの作る時間ないよ。なんで、稲を干すための道具なんか作らなきゃならんのだ。あ、テレビではそうしてた?


 うーん、正直ヤマトの農業の知識は浅い。うるさいな、反論あるのか? ほれ、見ろ。でもな、テレビの情報は理にかなってるんだよな。なんで地面から上げて干してるんだ? あ、あたりまえだ、田んぼがまだ湿ってるからだ。それに地面から離したほうが早く乾く。なんで俺たちはこれに気付かなかったんだ? まあ、それは今はいい。えーと、どうする。今からそんなもの作ってる暇ないぞ。


 その時田んぼに置いてある刈り取られた稲を見てふと思ったね。これ高く積み上げたらとりあえずはいいんじゃねって? まあ一番下にあるのは犠牲になるが、一旦地面から離れれば雨さえ降らなければいいし、まだ梅雨みたいな雨季じゃないからなんとかなるかも。と思って俺はとりあえず「井」の字にして刈った稲を積み上げていった。必要だったら杭を打って倒れないようにもしたよ。


 一人でやってると時間が掛かるな。でもまあ、収穫は田植えよりは楽だしハイテンションってやつになってるからなんとか二日かけて一人で全部できた。で、収穫が終わったあと、乾くのを待つ間、棚田をもう一個完成させた。これで全部で七つだな。


 そして今度は刈って乾いた稲からコメを落とすために稲を家に運んでいうときに、馬があったらなあと本当に思ったよ。それなら馬の背に載せてもっと大量のコメを一気に運べたからな。そんなこんな、馬のことを考えて家に帰った。


「ただいま~」


 ギッタンバッタンの音がしないから今は糸を紡いでるのかな。


「おかえり~、ゴザ敷いておいたわよ」


「ありがと~」


 よし、この土間の上にあるゴザの上で。


「フン」


 痛い痛い痛い。なんだよ。何騒いでんだ。コメを落としてるんだよ。え、だから稲のわらの所を持って、こう。


「フン」


 壁に叩きつければ、ほらコメが落ちるだろ。こうやってお前の言う脱穀をするんだよ。うるさいな、なにが力任せのオークだ。この方法なら女性でもできるんだよ。今はボウアが身重だからしてないだけだ。で、なんでそんなに騒ぐ? え、日本の昔の脱穀は棒かなんかで叩く? それじゃ今やってるのと一緒じゃないか。ほれ、そうだろ。え、もっといいものがある? あー、見えるな、千歯扱きか。教科書ってのにも載るくらい有名なんだな。まあ、わかった。次回までに作ってみよう。今回は


「フン」


 とりあえずこれだ。


 そして収穫したコメを脱穀しながら、田んぼでは稲の切り株を泥が固くなるまえに土の中に埋めていった。順々に刈っていったからそのあとのペースも順々になったな、稲を家に持って帰り、脱穀。そして今度はわらだけを田んぼに持って行き、切り株を土中に埋めたらその上にわらをかぶせる。でもこれじゃ、まだ苗を植えられないな。うーん、四月に苗作りできたらな、その後余裕が出来るからなんか他の作物を植えられるしな。


 なんだヤマト? 別に謝らなくてもいいぞ。それに苗に関して前から考えてたことがある? いいぞ言ってみろ。うん?苗を竹に植える? ああ、竹を割ってそこに泥を詰めて種を植えるのか。で、なんで? ああ、そうかそれなら今からでもできるし、日本の苗作りみたいになるな。四月中に苗を植えられるか。よしやってみるか。籾を取るのと精米はあとで近所の足踏み精米器を貸してもらえばいいからな。そっちは後回しでもかまわん。


 と言うことで早速種の選別を海水でやってから、種を水で洗い、また水につけた。今くらいの暑さなら四日で芽が出始めるだろう。だからその間に竹を切って、割って、種の土壌を作らないとな。


 と言うわけで竹を切ってます。って、今気が付いたがこれどうやって水やりすんだ? おう、じゃあとりあえず三十本切ったらため池の方に行こう。と、こんどは切った竹をさらに一メートルくらいの長さに節をそろえて切って、それを割って中を乾かしているときに俺は気付いた。なあ、これ水が貯まるかもしれんが恐らく泥がすぐに乾くぞ。つまり泥がゼロ段の田んぼみたいにカチカチになるぞ。うーん。なに、筏みたいにできないかって? なんで。ああ縦に割った竹と割って無い竹をいくつか縛ってこれをため池に浮かせるのか。うまくいくかな。おそらく? まあ、試すしかないか。なんか俺まで楽しくなってやってるのがちょっと癪に障る。が、これで苗を作れるんならいいことだと思いながら俺は竹の苗床を作っていった。


 なんだろうやっぱり新しいことをしてるから楽しいのかな。直径十センチ以上の竹を選んで一メートルの長さで切って、それらを割って苗床を作る。ゼロ段の田んぼに入ってる土を一所懸命に泥にしてそれを竹に詰め、現在そこの中に大体二センチ間隔で芽の出た種をちまちまと一粒ずつ植えてる。直径十センチ以上にしたのは縦に五本苗が育つからな。これなら毎回確認しながら苗を五つ集めることをせずに単に縦一列の苗を集めて一か所に植えればいいだけになるからな。


 今日まだ四月五日だよ、今こんな感じで種まきしてるなんてちょっと信じられない。


「お昼ご飯食べに帰ってこないなーと思ってたらこんなことしてたの?」


「あ、あれ、もうそんな時間?」


 全然気が付かなかったよ。日陰でこれやっててよかった。


「なんか最近スゴイ働いてるわよ。大丈夫?」


「大丈夫。ちょっと苗を作ってるだけだから」


「へー面白いことしてるのね」


「あ、うん、この田んぼがカチカチだからちょっとこうね」


「なるほどこれなら機織りと一緒ね」


「へ?」


 ヤマトもわからないようだな。


「だってこれが横糸で、私たちが縦糸になるんでしょ」


「えーと、その例えがよくわからない」


「だから苗を手に持つんじゃなくて、田んぼの上にこの竹を浮かべてここから取っていくためにあるんでしょ?」


「あれ」


「それだったら、機織りみたいに後ろにどんどん下がっていけばいいからね、苗を取りに出たり入ったりが少なくなるね」


 おい、ヤマトこれそういう風に使えるのか? ああ、そうだな使えるかもな。これ上手くいけばいいな。


 とまあ、こんな感じで苗を作りました。なんだこれ滅茶苦茶時間が掛かった。種だからよかったよ。筏はまあ諦めて、このまま竹をゼロ段の田んぼに三列ほど置いたよ。これなら水やりは楽だな。一つの竹に大体二百五十の種が植えてあるから、そしてそれが四百本だ。十万の苗だよ。うげえ、十万の種を手で植えたのか。


刈った稲を地面から離して乾かすのを全国的にやるのは明治以降です。それまでは地域によってまちまちで地面に置いて乾かすのも多かったそうです。また乾かす時も稲架を使ったり棒に巻き付けたりその地域の特色によってバラバラでした。これは風の強い所では棒に巻きつけるほうが理にかなっていますので当然ですね。


壁に叩きつけて脱穀するのは今でも東南アジアの田舎とかで行われています。

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