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46)8歳 23月20日 シーラ

「ボーちゃ~ん」


「シーちゃん!」


 妻が歩いてくる長い明るい茶髪の猪人の女のところへ駆けていき、抱き着く。


 ああ、あれがシーラだ。妻の子供のころの仲良し三人組の一人だ。もう一人はモーちゃん、モーリーンだったよ。まあ三人ともかわいかったから結構ちやほやされていたな。え、ああ、過去形なのは、モーリーンはあの流行り病でな。へー、シーラはお前の知ってる人になんとなく似てるのか。


 それにしてもすごいな。怒涛のおしゃべりだ。会ってから全然場所を動いてないわ。おお日本でも女の人はこうなのか。とまあ、俺は妻とシーラが話し続けるのを見ていたら。二人そろってゆっくり家の前の竹の所に来た。で、シーラは俺を見るなりいきなり。


「ノックスは私に感謝しなさいよね!」


「え、あ、なんで」


「なんでって、私のボーちゃんを取ったでしょうが!」


 妻を指さしてる。人を指さすのは頂けないぞ。


「ああ、そうだな。フッ、感謝してるぜ」


 ってボウアにウィンクしたら、妻に腕を軽く叩かれた。なんでだよ、指さしてるのはシーラだよ。


「なに言ってるのよ私は誰のものでもないわよ」


「あと、結婚式ボーちゃん奇麗だったでしょう」


「うん、それはその通りだったぞ」


 だから叩く必要はないだろ。


「あの耳飾りや指輪作ったの私なのよ」


「え、あれお母さんが私に渡してくれたけど、シーちゃんが作ったって聞いてないわよ」


「ふふふ、私が自分であれを作ったってボーちゃんに言いたかったからね。あれらで一人前になれたの」


「そうだったんだあ~。ありがとう、シーちゃん!」


 またハグってのをしてるわ。


「おうありがとうな。ま、中に入って手を洗おう」


 とまあ言ってから俺は手と足を洗うためのたらいを探しに土間に入った。あったあった。あんまり使わないけど置いておいてよかった。俺もボウアも最近は横着して、立ちながら外でそのまま手足を洗ってるからな。まあ、行儀が悪いよな。でも外の排水溝に水がそのまま落ちるんだものわざわざ居間の前に座って、たらいで洗う必要を感じないよ。


「え、この土間はなんなの」


「変でしょ~私もね、最初入ったときはすごいびっくりしたの。普通の土間の倍なんだって」


 と言っている妻にたらいを渡す。そしたらシーラもボウアの後をついて出ていって、ボウアが樽から水をたらいに入れてるの見て驚いてた。


「この樽に水が入ってるの?」


「そうよ~」


 とまあ、驚きの声が聞こえたが、俺は水を浄水器からやかんに入れてお茶の準備をする。乾季だから雨がほとんど降らない。樽も今すでに二つ空になって、三つ目も半分くらい空だ。でも遠くから来た客人のために手と足を洗うための水を提供するのは礼儀だから乾季だなんのとか言えない。


 土間に水の入ったたらいを持った妻と手拭いを持ったシーラが入って来た。


「本当に広いわね」


 来るとわかっていたから農具とかはどかしてある。でも樽が二個もあるし、生活用具とか薪とかもあるから、ボウアが初めて見たときよりはかなり狭いはずだがな。それでも広いと感じるか。


「台所で料理するには便利よ~、とくにこの金盥とか」


「あ~! こんなものまであるの?! え、それにアイン? なんでアインがここにあるの?」


 アイン、というかヤマトが欲しがったオーブンは普通はないよなあ。この辺ではパンなんて食べないし。


「うーん、わかんない、使ったことがないんだよね」


「まあ、広いし、付けることが出来たから付けたって感じかな。ほれ、手足を洗ったら、上がってお茶でも飲もう」


 シーラが居間の前で長い革足袋と革サンダルを脱いで足を洗ってる。ちゃんとふくらはぎのほうまで巻けるのを履いているんだな。こっちのほうが長い距離歩くとき疲れないしケガしにくいからな。まあ、はだしに草履なんて田んぼに良く入る田舎くらいか。


「お茶菓子ってあったっけ?」


 妻が聞いてくる


「あーそれはないけど団子ならすぐできるぞ」


「そうよね、そうしましょ」


「じゃあ俺が作っとくからな」


 えーと、カウンターテーブルの上の収納のこの辺に親父が挽いたコメ粉があったな。


「ありがとうね」


 ボウアがシーラの所に戻って、手洗いようの桶を渡してからたらいを受け取って、汚れた水を排水溝に捨てた。でそのあとすぐ二人で居間に上がった。シーラがボウアに聞く。


「元気でやってる?」


 水も沸騰したな。お茶を淹れるか。


「またそれ聞くの? 大丈夫だって。最近なんとかここでやっていけそうかなとよく思うよ」


 そうだな、なんとかなってるよ。ああ、そうだよお前のおかげでもあるよヤマト。なんか色々と話してるな。


「ふーんノックスはてっきり実家を継ぐんだと思ってたから村にいるのかなと思ってたからさ」


 あれ、俺の名前が聞こえたぞ。


「なんかいつの間にかこっちに来ることが決まっちゃってたのよ」


「そういえばアヴィンはどこにいるの?」


「あれ、アヴィンはどこにいるの?」


 良し、お茶はあと急須で蒸らすだけだな。


「アヴィンならアスダラで鍛冶師の下で修行してるぞ。はいお茶だよ、団子はもうちょっと待っててね」


「ありがと~」


 やかんに余ってる水はこっちのどんぶりに移して冷ましておくか。次は鍋に水を入れて、火にかけるか。かまどの火をもう少し強くしないと、薪、薪。


「あれっ、コーラさんの所じゃないの?」


「アスダラなんて私も初耳だ」


 まあ、妻も知らなくて当然か。アイツここ二年くらいブラブラしてたけど、誰にもなんにも言ってなかったからな。


「まあ、色々とあってな、アスダラの方に今はいるぞ」


 よし。手をきれいに拭いて、このぬるま湯で団子を作るか。こねこね。水が沸騰したらあとはこの団子を入れて、三分くらい待つだけだからな、簡単だよ。アヴィンにはこの米粉での団子の作り方を教えてやりたいな。これ食感はうまいからな、町ならこれにつける良いタレとかあるんだろうな。俺たちは、きな粉で、きな粉はコメ粉の隣で、皿は収納のあっちだよな。よし、あとは沸騰するのを待つだけか。


 楽しそうに話してるな。なんだヤマト? え、きな粉? ここにあるじゃん。いやだからマメがあるんだから黄色い粉はあるに決まってるだろ。多分母さんが豆を炒って、それを少し砕いてから親父があの茶臼で挽いたんじゃないか。いや詳しくは知らんよ。だって、この前サヒットがコメ粉ときな粉を実家から持って来てくれただけなんだからさ。でもこれはきっとそうだろ。


「はい団子、きな粉もあるよ」


「美味しそう」


「ありがとね」


「いえいえ、どういたしまして」


「じゃあ、いただきます」


「いただきます」


 あ、シーラがちょっと不思議そうな顔してる。まあ、いいか、俺たちがなんで手を合わせてるか知りたかったらあとでボウアが説明するだろ。


「なにこれ、おいしい~」


「あー、前回よりうまいな」


「うん、このきな粉はいいわね。お義母さんが一緒にくれたのよね」


「まあ、多分そうだな、サヒットあんまり説明してくれなかったが」


「ねえねえ、なんでこんなにモチモチとして、ぜんぜんつぶつぶしてないの? きな粉はきな粉でサラサラだし」


「あー、それは」


 と言おうとした俺をボウアは止めて。


「それは秘密よ~」


「え~ずるい~」


「もっと食べたかったら村に帰ってきてよ、シーちゃんいたほうが絶対にいいもん」


「う~、私が王都に帰りたいって知ってるくせにぃ~」


 まあ、ここからは俺がなにか言うことでもないので基本黙ってたし、途中で外で生き物とかの世話もしたりしたな。


 で暗くなる前に親の家に帰らなきゃとシーラは夕暮れ時に帰っていった。よかった。もうそこまで嫌われてないみたいだった。ああ、まあヤマトの言う通りあれはまだ完全には許してはないだろうな。


 あと帰るまえにシーラがボウアになんで雪隠が臭くないのか詰め寄ってたわ。うるさいなヤマト、あれはお前よりも俺の発見だろ。え、アメリカではトイレの別名をクラッパーって言って、その名前はトイレを作ったクラッパーさんから来てる。しかもうんこの別名がクラップだと?! だからこのことを喧伝すれば俺の名前と雪隠が関連付けられるだと。うわ~、じゃあこっちでは雪隠の別名がノックス、もしくはうんこの別名がノックスになるのか? それは絶対にいやだぞ。



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