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45)8歳 23月10日 害獣

 サヒットがこの前来て置いて行ってくれた塩を作る装置が倒されてる。


 これ装置って言っていいのか? 最初は浅い器を作ってそこに海水を貯めようと思ったんだよ。そんでそれを海岸際に置いて、太陽の光で蒸発させる。けどヤマトが雨降ったらどうすんだ、って言ったから、じゃあ屋根を付けるかって話になった。それだったら地面に直接置くんじゃなくて、木の枠を作って、どうせだから三段くらいにして、一気に三段分の海水の塩を蒸発させようとなり、サヒえもんに頼んだわけだ。が、結局出来たのは四方がオープンな三段の棚があって、その上に屋根があるだけの単純なものだった。おい、これだったら、釘とのこぎりとトンカチさえあれば俺でもできるわ。こんなの装置じゃないぞ。まあ、棚の上に乗っける浅い桶は俺には作れんが。でもなあ、なんで水の漏れない桶は出来て、水の漏れない木の箱はできないんだ?


 ああ、悪い。お前を無視してたわけじゃない。いや、違うぞヤマト。犯人は人じゃない。足跡を見ろ、おそらく鹿だな。鹿がこの装置を倒して塩をなめたんだろうな。なんでって、知らんよ。でも動物が塩をペロペロなめるって話は聞いたことがあるぞ。


 よいしょっと。まあ、倒されただけだからすぐ元通りになったな。じゃあ、次に浅い桶三つに海水を汲んでこの棚に置いて三日、四日待つだけだな。あれ、また来たらどうしよう? え、たかが鹿。まあそうか。


 水を入れて棚に置いてるときにふと思ったわ。なんで急に鹿がこんなとこまで来てるんだ。なんかおかしいぞ。もしかして鹿の数が増えすぎたのか? で、ここにまで来た。え、鹿が増えても別にいい、か。バ〇ビかわいい? なんだバン〇って。ああ、まあ、そうかもな。いや、ダメじゃん! 鹿が増えたのは鹿を食べる生き物がいないからだろ。


 あ、そうかウチの親父や俺たちがこの辺の虎や熊を全部狩ったからだ。で、増えすぎた。だから別にいいだと? いや、だからよくないだろ! 今鹿が多いってことは来年か再来年かその後かはわからんが、確実に鹿を食べに虎とか熊とか戻ってくるだろが。そん時苦労すんのは俺たちだよ。


 じゃあどうすんだって? 決まってるだろ駆除だよ。鹿を減らすしかないだろ。なんでお前またそういう事言うんだよ。いいか〇ンビの名前を言うのは禁止だ。禁止だからな!


 と言うことで俺たちは現在サヒットの敷地内の林の中を歩いています。


 いや、俺に弓の才能はねえよ。というか俺たち猪人には弓を使うという文化が希薄だ。なんでだろう。弓を使う人もいるが少数だな、俺の知ってる人ではお義父さんくらいだな。弓に頼るのはなんか違うって感覚がなぜかあるんだよな。さすがオーク? あん、なんでここでオークが出る? 久しぶりだぞお前がその侮辱語を使うのは。え、エルフとオークは不倶戴天の敵? そんでエルフは高貴な長命種で森に棲んでいて弓の名手か。なんだそれ、森の中で弓っておかしいだろ。はあ、気にしないことにするよ。もとは「指輪の王」っていう物語からきてるのか。なんだ物語か。で、なんでエルフとオークは仇なんだ? え、オークはエルフの堕落した野蛮な下等種で全人類の敵? ヤマトはそんな感じで俺たちのことを見てたのか。どうりで俺たちのことが嫌いなわけだ。まったく、しょうがないなお前は。でも今までの生活でわかっただろう、俺たちは普通に人だよ。猪人だ。


 うーん、俺には鹿がどの辺に出るのかわからないな。


 で、猪人たるもの肉弾戦だろが。槍だよ、槍と盾。お前も実家の物置で親父の盾とか鎧見たろうが。え、見てない? お前なあ、確実にあったろうが、見えてないの間違いだろ。あ、布に包まれてるからわからないな。ああ、悪い悪い。今のは俺が悪かったな。


 お、池があるな。おそらく鹿はここで水を飲んでるんだな。こんな木漏れ日の中に小さな池があったとはな。この水は湧き水なのかな? だったら、サヒットもこっち側に住んでも問題ないのか? しかも鹿はアイツが先に対処する羽目になるな。ハハハ。


 ああ、だから無理やり話しを戻すなよ。そうだな、槍と盾を構えて戦うのが俺たち猪人の花形の兵士だ。ああ、そうだ。お前の記憶のギリシャの重装歩兵ってのに似てるな。あ、でも俺たちの盾は長方形だな。へ、騎兵? んなもんあるわけないだろうが。標準的な俺でさえお前の言う九十キログラムあるぞ。太ってねえよ、身長一メートル八十センチで毎日野良仕事だぞ。全身筋肉だわ。で、だな俺の鎧とか考えてみろよ、そしてそのほかの装備だよ。軽く三十キロは超えるぞ。四十キロ越えても不思議ではないな。そんな百二十キロ百三十キロの重さを馬に載せて走らせてみ、すぐにへばるぞ。だから馬は鎧を着ない伝令とか馬車にしか使えん。


 まあ、こんなものかな、水の在り処がわかればわなもこの辺に仕掛ければいいだけだし。


 この話に食いつくな。ああ、昔は戦車ってのもこっちではあったらしいが、今はもうほぼないな。なんでって、長槍があるからだよ。だから槍と盾を構える敵に対処するためにさらに長い長槍ってのが出来てそれで槍衾を作ると馬が近寄らないんだよ。馬は頭がいいからな。で、この滅茶苦茶長い槍を構える連中は鎧は軽いのを着て、盾も腕に嵌める小さいのを持つか、たまには盾を持たないやつもいる。槍を両手でもつからな。そうそう、その槍で相手を叩いたり突くわけだ。なるほど日本の足軽みたいなもんだな。まあちょっと違うのは槍の下にトンカチが付いてるから上からガーンとぶっ叩かれると兜を被っていても簡単に気絶するらしいし、当たり所が悪ければ肩とか砕かれるし、腕が折れるな。


 まあだから戦闘の始まりでは足軽が足軽と戦って、早々と決着が着いたらまあそれで終わりだ。とにかく数は簡単にそろうからな。が、足軽同士だと決着は簡単にはつかないだろ、へっぴり腰で遠くからガシガシやってるだけなんだから。だからそこに足軽たちが疲れたころを見計らって花形の重装歩兵かゾウ兵を突っ込ませるんだよ。え、ゾウ兵? そりゃ、ゾウに乗った兵隊だよ。ただ踏みつぶすだけだよ。うーん、ゾウ兵の対処は逃げるか槍衾を崩さないことかな。良く知らない。いや、だってゾウ兵なんて滅多に出てこないよ。相手にもゾウ兵や重装歩兵がいたら? そりゃまた膠着状態に落ちるだろうな。まあな。一日ぶっ続けで朝から夕方まで戦闘なんてことは普通にあるらしいぞ、おれは戦争に行ったことないけどな。だから、いったじゃん、最近この王国は平和だって。


 で、なんだ? ああ、膠着状態に陥ったらそこに税金兵を突っ込ませるんだよ。アイツらは鎧を着て、逆三角の盾に剣を持ってゾウ兵や槍の中に突っ込むんだよ。ああ、そうだよ、頭がおかしいんだよ。いったいどういう神経だったらゾウや槍衾の中に突っ込めるんだ。あ、いや、ちがうな、頭がおかしい事をやらされるって言ったほうがいいのかな。まあそれでももう普通ではないな。ま、俺たちの戦争はそんな感じだから戦では弓は結構軽視されてるな。だって遠くから弓を射っても兜とか鎧とか盾にたくさんの槍に阻まれるからな。


 さて鹿の話に戻ろうぜ。水飲み場は見つけたし、他に何かないか? ああ、ヤマトは都会っ子だったな。え、クロスボウ? ああ、確かに弩なら弓みたいにそこまで訓練しなくても使えるな。でも村に弩なんでないような気がする。お前作れるのか? ああ、やっぱり無理か。まあ、形状なら俺も知ってるけどな。それだけじゃな。よし、もう何もないならこれで帰るぞ。


 え、弓も弩も無しでどう鹿をしとめるのかって? まあ罠しかないだろうな。熊とか虎だったら村の若い男を集めて山の一方から大声を出したり太鼓を鳴らして待ち構えてる中年の鎧持ちの連中のところに追い込んでそこで殺す。鹿でもそれはできるけど、そこまで危険な動物じゃないから村長はそんなことに村の男に参加は呼びかけないよ。多分少数精鋭でなんとかしろと言われるのがオチだな。だから今ここを見て回ってんだろ。サヒットも基本村側にしかいないから海側の林や丘がどうなってんのかわかってないだろうし。


 と言うことで、次の週にはサヒットと村の猟な得意な人たちと罠を設置し、鹿を何匹も捕まえた。まあヤマトには鬼とか言われたが、俺はまだそこまで鹿に感情移入してなかったので駆除には問題なかった。ただし肉を村の皆に配るように言ったのは、ちょっとヤマトの意地があったのかもしれない。自分達が食べる量がガクンと減ったからな。たくさんあったら干し肉に出来たのに。ちなみに鹿の毛皮とか角とかは罠を設置してくれた人たちと山分けしたから、俺たちの家の物置にはそれらが今ある。あんなの売ってもあんまりお金にならないし、どうすりゃいいんだ?


 あとそろそろ犬を飼ったほうがいいかもな。

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