44)8歳 22月4日 手紙
「お前らここに帰る前にうちに寄るかと思ってたら、すぐここに戻ってくるし。そのあと全然村に顔出さないから、これ渡せなかったじゃないか」
サヒットが少し不機嫌だ。というか「ここ」とか「これ」が多すぎ。お昼にうちで美味しい魚料理を食べながら文句を言うとは。我が親友ながらすごいな。俺以上にデリカシーが無いとはヤマトも言うな、っていうか俺はお前の言うデリカシーの塊だよ。
「なんだよいいじゃねえか、家に帰るのは普通だろが」
「でもなんで俺がお前宛の手紙を持ってこなきゃならんのだ」
と俺の妻で彼の妹に向かって手紙を差し出す。
「あら、誰からかしら」
と受け取って、すぐ読み始める。
「祭りまでは頻繁に村に来てたのになにがあった?」
俺に聞かれてもな。
「いや、俺は別になにもないぞ。今は普通に棚田を作ってるだけだ」
そう、ボウアに朝手伝いをしてもらうだけでもかなりはかどってる。あの五メートル×二十メートルの田んぼは完成し、今二つ目を作っている。うるさいな、これではかどってんだよ。なんでお前が解らないんだ? ヤマトも俺がなにやってたか見えてたろうが。土を均すだけじゃないぞ、水が漏れないないように畔も作って、田んぼの中に大きな石とかがあったらどけて、小さい石もひとまとめにしておいてあとで取り出すんだぞ。木があったらそれを切り倒して、根っこまで抜かないといけないんだぞ。そのほかにも雨の日とか他にしないといけないことがある日とかがあるんだから、俺はなボウアと二人で頑張っても次の雨季がくるまでに全部で十個出来ればいい方だと思うぞ。
「あ」
「なんだ」
「ボウアが今頑張って布織ってる」
なんでも今織ってるのはケーバさんに頼まれたやつらしい。下請け? ああ、そんな感じになるのかな。まあ、現金収入が入ってくるらしいから職人ってのはそこがいいよな。
「ああ、そうか。まあなら仕方ないな」
あんだけ一つのことに集中できるってすごいわ。俺にはとてもじゃないができん。うるせえな、誰が鳥頭だよ。
「シーラが帰ってくるみたい」
「お、シーラからだったか。まあブロガンがこれは王都から来た商人から預かったとか言ってたからそうだろうとは思っていたけど」
「へー、シーラかあ」
シーラってのはボウアの親友だな。まあ、俺の親友は目の前にいるサヒットだが昔はそこまで仲がよくなかったんだよ。普通の友人。どっちかと言うと俺はブロガンとよく遊んでたな。そんで、子供の時はアヴィンのほうがサヒットと仲が良かったんだよ。で、ガキだったころな、その時からボウアとシーラとモーリーンは大親友だったな。でさあ、子供だったから泥合戦とかしてよく泥団子をボウアとかシーラに投げつけてたから、サヒットとアヴィンが俺とブロガンを追いかけまわしていたよ。うっせえな。今は結婚できたんだからいいんだよ。でもなあ。
「シーラまだ俺のこと嫌ってんのかなあ」
「まあ、まだ許してないだろうな、大事な服をめちゃめちゃにしたもんな」
「何言ってんの、もうさすがに許してるわよ。あの子はそんなに心の狭い子じゃないわよ」
いやあ、腐ったレモンの実を泥でかぶせて投げつけたんだよ。あの時はシーラに向けてじゃなくて、誰だっけ。サヒット、アヴィン? まあ、それはいいんだ、間違ってな泥と腐ったレモンがな大切にしてた服にな。わかってるよ、最低だって。親父にも殴られたからな。だからそれ以来俺は泥団子にレモンは入れてないぞ。まあ、ブロガンとかがたまにしてたから被害者はまだほかにもいると思うが。おそらく女の子には当ててないはずだ。多分な。
「まあ、とにかく、王都での修行が終わったから帰ってくるって」
宝飾を作る修行、そうそうジュエリーデザイナーってやつだな。なんかヤマトの所でもこれをするのはおしゃれなのか?
「じゃあ、もうすぐか」
「うーん、ここの家に招待しようか?」
シーラは王都に憧れていたから辺鄙な田舎のさらに最果てなんて所にはこないだろうな。
「絶対するわよ。驚くわよここを見たら」
あ、ボウアに会いには来るだろうな。
そのあとは昔話に花を咲かせて、それが終わったら俺はサヒットを連れて、田んぼを作りに行ったよ。やっぱり身体の大きいやつがいるとはかどるな。