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43)8歳 21月40日 棚田

 祭りの次の日の朝、俺は久しぶりに麺を食べた。しかもなにこれ、滅茶苦茶つるつるする。


「ナニコレ」


 あ、ボウアが素で驚いてる。


「ああ、これね、そこの茶臼で挽いたコメ粉で出来た麺よ。美味しいでしょ。昨日ちょっと酔っちゃったんでしょ? 今朝は優しいお粥か柔らかい麺か迷ったけど、その様子だと気に入ったみたいね」


「うん、これはいいものだ。母さんが良く臼を挽いている」


「おい、これは親父の内職のはずだろうが」


「いやいや、アヴィンに送ってるコメ粉はちゃんと俺が挽いてる。ただ母さんがこの味が好きだから、アヴィンに送る以外にうちでも食べるときに挽いてるだけだ。俺もたまには挽いてるし」


「そ、そうなのか」


 うん、なんだヤマト。団子? え、米粉で作れるのか? 餃子? お、ああいうのは南の方の料理だぞ。あんな感じのものが作れるか? え、料理できない? なんで? 実家で母親が全部作ってくれてたかコンビニ。コンビニってなんだ? え、まあそれはどうでもいいのか。なんなんだよ、飯を作ったことが無いとはどこのお坊ちゃんだお前は? パンにパンケーキにケーキ? おお、旨そうだな、凄いぞ! え、でも作り方がわからない? あちゃ~。まあいいぞ。団子とか南の料理ならこっちでも作れるはずだ。


「なあ母さん」


「なあに」


「これで南方の料理の団子とかって作れるかな」


「これだけ粉が細かいならいいのができると思うわ」


「じゃあ、今度作ってくれ」


「あ、私にも作り方教えてください」


「いいわよ、でもコメ粉が足りるかしら」


 あ、母さんが親父の方を見ている。


「わかっとる、わかっとる。コメ粉を挽いておけばいいんだな」


「ありがとうございます」


「ありがとうね」


 ハモッたというヤツだな。まあ、この麺のおかげでボウアが酔っぱらう前に祭りから妻を連れ出せなかったというポカは帳消しになったな。帰るまえに団子は簡単だからと母さんが実演してくれて、そのまま持っていけと持たされた。


 あれで妻は二日酔いで頭が痛いと言いながらも機嫌はよくなった。食の力は偉大だなと思いながら一緒に家に歩いて帰ったよ。あれ、アヴィンが親父に感謝してるってブロガンが言ってたけど、コメ粉のことかな。そして家に着いたらまだお昼ご飯前だったから、俺はまだ日が昇りきらない内に棚田を作ろうと思った。場所はため池の近くだな。まあ当たり前だよな、ここに水を引き込まないといけないんだから。ボウアは家でまだ休んでいます。まあ、俺が悪いからね。


 棚田の作り方はなんとなく覚えてる。子供の時以来だな。まずは水をどこに引き込むかを決めて、そこから約二十歩くらいを丘に沿って掘っていく。確か二十五から四十センチくらいの深さでいいんだよな。最初だから、ちょっと深めの方にしておくか。この作業が終わって家に一旦戻る。


「大丈夫か~」


「大丈夫よ~」


 居間にいる妻の顔色は良かった。二日酔いはそんなに酷くなかったようだ。


「ちょっと手伝ってくれる?」


「なにするの?」


「ため池から水を少し引き込むのを助けて欲しい」


「いいわよ」


 とボウアをため池の取水口のところに立たせて。


「この板を上げたらこの水を貯めてある四角いところから水が出るから。で、俺がもういいよって言ったらまた板を嵌めてくれる? 全部上げきる必要はないからね、ちょっとだけでいいよ」


「わかった」


 で、俺が取水口からこの溝に流れるところまで来ると。


「よっしゃ、板を少し上げてくれ~」


「はーい」


 と返事が来たら、それに続いて水が流れてきた。まあ、溝の中に水が半分も貯まればいいか。


「もういいぞ~」


「はーい」


 で、水の流れが止まる。妻の所に戻り。


「ありがとう、家に帰って休んでていいよ。あとは自分で出来るから」


「いいの? 手伝うわよ」


「いや、今身体を動かして汗を沢山流すのはあんまりよくないと思う。俺もあとちょっとだけやったら戻って休むから」


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ」


 と、言って妻は帰った。


 さてと、あとはこの水の高さに沿って、高い所の土を削って、低い所に土を足すだけだな。そうすれば水平になるはず。うーん、そうだな幅は五歩でいいか。とまあ横幅がどのくらいの所になるか印をつけていってから作業に入った。穴をあれだけ掘ってたら、これはそんなに大変じゃないように感じてしまう。これって結構な重労働だったはずだよな。でもこれで長さ約二十メートル幅五メートルの平たい土地ができた。あとで余った土はこの田んぼを囲むように固めて、のちのち水をここに貯めることが出来るようにする。最後に石ころは畔の方に出すと。


 ここまでやって空を見るとお昼を過ぎたようだったので、家に戻るとご飯がもうちゃぶ台の上にあった。団子も半分ちゃんと皿に盛ってある。かごもちゃんとかぶせてある。ギッタンバッタンも聞こえる。家で休んでていいと言ったのに。


「ご飯ありがとう~」


 返事がないな。でもギッタンバッタン聞こえているからあの作業部屋にいるのは間違いないよな。ま、お昼ご飯を一人で食べてから俺は食器を洗って、食後休憩。なんか微妙な時間だな。でも今が一番暑い時なんだよな。なんだヤマト? え、機織り見たい? うーん、じゃまするのも悪い気がするが。


「ご飯ありがとう、ごちそうさまでした」


 ギッタン、お、足をぐっと延ばしてる。さっ、あ、左手で糸の間をでかいなにか通してる。さっ、あ、右手に持った。バッタン、お、ここで左手であのでかい棒を下に引いて、もとに戻してるのか。ギッタン、あ、また足を伸ばしてる。さっ、なるほどここで右手に持ったあの大きな木の棒を今度は逆に糸の間を通して、さっ、左手で持つのか。バッタン、で、今度は右手であのでかい棒を下に引いて、上に戻すと。


「なるほど、そうやって糸を交差させて織ってるのか」


「あ、いたの?」


 うわあ、やっぱり集中してるところを邪魔したよ。


 ギッタン。


「ごめんね、邪魔するつもりはなかったんだよ」


 バッタン。


「別にいいわよ、このくらいなら」


 ギッタン。


「話ながらでもできるわよ」


 バッタン。


「その大きな棒を毎回下ろすのはなんでなの?」


 ギッタン。


「これは横糸をしっかりと」


 バッタン。


「前に通した糸の隣にくっつけるためよ」


 ギッタン。


「でないと、布がふにゃふにゃになっちゃうわ」


 バッタン。


「あれ、縦の糸は隣にくっつけなくていいの」


ギッタン。


「縦の糸は上から吊ってるから」


 バッタン


「それで充分ピンと張ってるわ」


 ギッタン。


「じゃあ、邪魔するのもなんだから」


 バッタン。


「はーい」


 なんか上の空だったな。でヤマトはわかったか? ああ、そうだな機織り機だな。縦置きと横置きとてなんか違いがあったか? え、わからない、一緒っぽい? まあ、いいか。ボウアもあれでしっかり機織り出来てるんだし。じゃあ、なんかまだ暑いけど行ってくるか。これ以上家でゴロゴロしてたら悪い気がしてきたわ。


 まあ、五メートル×二十メートルの百平方メートルってやつか。一角の百分の一だな。うわあ、今さらながら気づいたわ。これをあと九十九個作るのか。まあ、全部は当然この乾季が終わるまでには無理だな。じゃあ、せめてどの辺までが棚田になるのか再確認しておこう。えーと、まずいなあっちの方に伸ばしたら木が多すぎる。じゃあ、必然的にこっちか、なんか家からちょっぴり離れるな。まあ、いいか木を切ってその切り株を沢山どけるよりかはマシだ。


 じゃあ、この田んぼのどこから水を落として、それがどう次の田んぼに入るかとかも考えないとな。あと畔の広さだよなあ。やっぱり馬はここに必要だからなあ。よし決めた土地はあるんだ、ここは思い切って田んぼと田んぼの間の畔を二歩取ろう。それだけあれば馬も人と並んで歩けるだろう。坂で実家の畔みたいに狭い畔道を歩くのはいやだ。


 そしてそれらの場所の起点となるところに杭打ちしたら、これで今日は終わり。


 あ、そうだ、団子はモチモチとして食感はよかったけどちょっと味気なかったな。うん? 醤油なんてものはないぞ、そのかわりボウアが実家から持ってきた魚醤を使ってるだろ。あれはいいやつだからそれで充分だろ。え、ナンプラーは醤油じゃないって?

棚田は実物を見るたびにいいなあと思います。

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