30)8歳 17月14日 家族の近況
雨季が始まって丘の上で果樹を植えた所をもう一度見に入った所、驚いたことに何本か生き残った木があった。ホント、良かったよ。全滅したと思ったからな。ポメロとかヤマトの言うレモンとかの柑橘系はダメだった。でもビランビ、ヤマトの言うスターフルーツは大丈夫だった。はっきり言って名前はこっちのほうがいいな、名前もこっちで呼んだほうがおいしそうだし。ああ、あれはそのまま食えるし、旨いよな。あと狼の実と呼ばれる木は大丈夫だった。なんで、木なのに実なのか? 知らないよ、そういう名前なの。
今日はボウアが家で一人でゆっくりしたいって言ったので、俺は実家に帰った。前回野菜を少し取りに来てから二週間ぶりか。
「ただいま」
ん、誰もいないか。まあ田んぼかな。コメをそろそろ植える時期だしな。ん? こっちではうまくいけば大雨が一回来る前に一度コメを収穫できるぞ。苗を育てて、十八月初めまでには田植えして、二十月終わりに収穫だ。で、普通なら二十一月の後半に大雨がくる。だからもし大雨が早くきたら全部だめになるから、かけに近い。うまくいけば一回余分に収穫できるから、実家では小さい田んぼにモチゴメとかを植えてるぞ。
そうそう、大雨の後の短い乾季が終わったら、新年の祝いがあって、それが終わってからまた稲作だよ。あれは大体二月の頭から始まって、遅くとも五月には終わる。終わったらまたすぐにも再開。六月中には植えて、秋になって涼しくなってきてるとは言え九月の終わり、遅くても十月には終わる。そう、うまくいけば年三回。いや、だから税金が高いかどうかはわからん。へー、ヤマトの所では多くて二回か。なるほどな。あ、十月もまだ雨降るよ。でも十一月からの乾季はお前も知ってるだろ。年四回は無理だよ。まあ、うまーく調整すればできるかもな。ほぼ不可能だよ。と、言うか年中ずっとコメ作りってやだよ。
「何そこに突っ立ってるの? 早く入ったら」
「あ、母さん。親父は?」
「田んぼよ~」
とまあ帽子にほっかむりスタイルの母さんが家に入っていったけど、俺は親父に会いに来たので田んぼのほうに行く。いたいた。
「親父」
「おお、ノックスか。どうした」
大きなわら帽子をかぶってる親父がちょっとびっくりしてるけども嬉しそうだな。へー、ヤマトのとこでもそうか。農家の恰好はどこでも似たようなもんだな。
「元気そうだな」
「まあな、お前はどうだ」
「まあまあかな」
ちょっと話しづらいな。
「あのさ、日照りに強い木ってなにがあったっけ?」
あ、アホの子を見てるようにこっちを見てるよ。
「はあ」
そんなため息つくことないだろ! こっちでは乾季でも適当に水やりできたんだから知らないんだよ。
「そんなの決まってるだろ、家にあるのならビランビとかジュジュべとか狼の実だろうが」
あ、ジュジュべは植えてなかったな。あれは一年くらいですぐに実がなるしな、急いでなかったんだよ。ん? こんな実がなるんだよ、主に乾燥させて食べるな。おう、ナツメって言うのか。ああ、旨いよな。
「あとここだと大雨で元気なくなるからインリーは植えてないけど、あれも乾季に強いぞ」
なるほどな。これも乾燥させることも多いぞ、ああ、そうだなイチジクってやつだな。
「おう、そうだ、あとモリンガもあったな、でもあれを植えるとなー」
「植えると?」
「なんか知らんがねぎがよくやられる。だからこの辺では嫌われてるな」
何言ってんだ。雨季の終わりから乾季の始まりまでの短い期間にしかできないが、あれがないと美味しいカレーが出来ないだろうが。ラッキョウであるかも知れんが、別に漬物に必ずしなくてもいいの。
「でもなあ、あれは非常食用としてはいい。実以外にも葉っぱも花も食べられるし」
「へえー。敷地の反対側に植えたら大丈夫かな」
「わからんな。まあお前の土地だ、試すのも試さないのもお前しだいだ」
まあ正論だが、なんか突き放されてる感じもちょっとすんなあ。あ、そうだマンゴーも多分大丈夫だ。
「わかった、じゃああとでそういうのがどこでもらえるか教えてくれ」
「まあ、いいぞ、めし時には戻るからな」
と、まあ親父と別れて、家に帰る途中ヤマトにぶどうについて聞かれた。ぶどうは乾季に強いからヨーロッパで良く育ててるらしい。こっちではぶどうとワインはかなり南のほうで作られていると思うけど、よくわからないと言ったらちょっと残念そうだった。ビールとワインか、俺も飲みたいよ。あとトマトもここにはないなあと言ったらがっくりしてた。ピザってやつも出来ないらしい。でも麦とチーズはこっちにもあると思うからトマトを使わないピザもどきならできるかもと言ったら喜んでた。でも「思う」だからな、あんまり期待するなよ。え、ただのカンだよ、知ってはいない。まあ、ヤマトがあのオーブンをなにに使うつもりだったかこれで解ったよ。いずれこっちでも生活が安定したら遠いところにある食材とかも取り寄せられるからな。特に保存の効くものは。
家では母さんと少し話して、そのあと親父が帰って来たので三人で飯を食った。で、このとき色々話して、まあ、本当に色々とわかった。
まず清酒からお話しよう。これが今回の発端だから。しかもイラつくことにヤマトの言う通りになってた。
最初は親父が最近いい酒を飲んでるって話を近所のおっちゃんたちが聞きつけたことから始まった。でその酒を飲みに近所のおっちゃんたちもこっちに来て飲みだしたらしい。当然その時はアヴィンに送り返す酒の量がかなり減ったらしい。アヴィンも金がないと困るので手紙でいったいどうなってるのか聞いて来たらしい。
そしたら酔った親父がついあの清酒は灰をどぶろくに入れるだけで出来る、ってのをおっちゃんたちに教えちゃったらしい。てか、恐らくわざと言ったような気がする。で、このあとはおっちゃんたちも自分の家で清酒を作るようになったからアヴィンに送る分ももとに戻って、一時は状態が持ち直したらしい。
ちなみにこの時点でヤマトはすねちゃったのか昼飯を食ってるにもかかわらず静かになった。いつもは母さんのカレーはまろやかで旨いって言うのに。
で、近所で美味しいお酒を自作して飲むだけならいいんだけど、家に週二回もブロガンが来るから、必然的に家で清酒をたくさん作って、アヴィンが清酒をアスダラの町で売ってることがバレた。一応あれはアヴィンの言わば学費のためにやってるっつっても村の人たちも馬鹿じゃないし、親父もしてるのならと、真似しだした。ブロガンもブロガンでこれで手数料が増えるとか言って嬉々としてやってるらしい。もうこの一か月半で清酒の事はセージ酒って名前で有名になってしまったらしい。らしい、らしい、って言うのはこんな事が起こってる時、俺は水が無い、水が無いと悩んでいたり色々忙しかったからな。村にはあんまりこなかったし、あまり人付き合いもしてないから、これは全部親父と母さんから今聞いた話でしかない。
ほんで村長は王子港からの商人にこのことを問われて、初めて知ったらしいけど、今はなんか暴走しだしてるらしい。はあ、問題にならなきゃいいんだが。え、美味しいお酒を造る問題?そうか、ヤマトは知らないだろうな。この国では酒はほぼ王族が牛耳っているんだよ。皆酒を飲むのが大好きだろ?だから専売にすれば儲かるからな。まあ、確かに安直だよ。で、村長がそんなに美味しくて、どぶろくとは違うんだったら、もう酒じゃない、霊薬だ。だから自分達で作ろうって言ってるらしい。いやいやいや、そんなんやったらヤバイだろ。一応俺たちはどぶろくを作ってないから大丈夫だとは思うが、全部一から作ったら完全に王族に睨まれるわ。
余波はもう一個あるんだよ。このセージ酒、清酒がたくさん出回ってるせいでアヴィンの儲けが減った。そらそうだよな、たくさん売られてたら、値段は下がるわな。なんかないか?え、知らない?お前本当は俺のことが嫌いだろ?ナントカえもんじゃない?あ、なんだこの野郎?え?なんか知らないがな、俺はな、お前のその人を小馬鹿にした感じが嫌いだぞ!ああ、わかったよ。
と、いうことで、ヤマト抜きで考えたく思います。
「おい、親父なんかないか? アヴィンが困ってるのってどう考えても親父のせいだろ?」
とりあえず、親父に投げよう。俺がしでかしたことじゃないからな。
「ああ、うん、そのな、お前が帰って来たからちょうどいいと思ってたんだ。お前も考えてくれ。俺も考えるわ」
うおおい、絶対に考えてないよ!てか、田んぼで会ったとき嬉しそうな顔をしていたのは俺になんかしてもらおうと思ってたからなのか?さすがオーク父ってまあ、今回はいいよ。
「えー、母さんはなにか案がありますでしょうか?」
「なに、変な口調で喋ってるのよ。しょうがないから私もほら、家で暇なときにこれをしてるのよ」
泣ける。内職だよ。母さんが糸を撚ってる。え? これ何? なんだ、お前俺を助けないんじゃないのか? え、助けないけど、これは知りたい? そんな都合のいい話があるか。だいたいなんで母さんにこのしわ寄せがくるの? なんで母さんが家で綿から糸を作る作業しなきゃならないんだよ。あ。くそっ、そうだよ。この錘のついた細い棒をくるくる回して綿を撚って糸にするんだよ。
その日はかなりイライラしたので、昼めしの後すぐ家を出た。まあ、出る前には母さんに今度ブロガンが来たら、石鹸などここでは手に入らない生活用品を買っておいてくれと頼んだがな。そのあとはサヒットの家でサヒットと話したり、ガヴィンとガレンと遊んだ。子供はいいよな。サヒットとノーラ姉さんにそう言ったら、なんか笑って、ノーラ姉さんから曖昧な返事が返って来た。
が、まあ、気分も持ち直したので、種や苗などをもらえる所からもらって、家に帰った。なんか結婚してから顔を一回も見せてないから、これらはご祝儀として持ってけ、と言われた。ありがたい、感謝しかないわ。
今日一日を家で一人で過ごした妻はすんごい機嫌よかった。