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29)8歳 17月9日 南半球の家の南側

 雨季が始まった。雨が降る時間が長い。乾季では有り得ないな、乾季では降ってもすぐ終わる。


 暑くなってきた? そりゃそうだよ、これから春でその次に夏だ。春の終わりに大雨が来るぞ。え?年の終わりと始まりは冬? 違う、違う、年の終わりと始まりは夏だよ。逆だろが。いいか太陽が昇る方角が東だ。で太陽が沈む方角は西だ。これはどこでもそうだろ? そうだよ、だからこの家も俺の実家も北向きに土間があるだろ。あれは日の光を居間に出来るだけ入れるようにしてあるんだよ。お、南半球と北半球と言うのか。オーストラリア? よくわからんがそっちでもそうみたいだな。で、そうだよ、これからさらに暑くなるんだよ。お、げんなりしてるな。


 あとな、雨季と言ってもこれから始まる春の雨季と秋の雨季では雨が違う。春の雨季は雨の降る日数はそんなに多くない、ただ降る日にはすごい降る。秋の雨季はひどいときには月の半数以上雨が降る。ただ毎回降る分量が多くない。トータルでどっちが多いかって? うーん、正直言ってわからん。水を貯める樽を見てればわかるかもしれんぞ。なんだと、なんで俺が馬鹿なんだ。え、降ってくる全体の分量が貯める量を越えたらわからなくなる? それもそうか。まあ、別に俺たちが必要な分降ってくれればそれでいいよ。乾季?乾季は乾季だろ、冬だろうが夏だろうが雨が降らないだけだよ。ただ夏の乾季は短いな、二か月くらいで、冬はその倍だ。だから親方も間違えたって言ってたじゃねえか。


 まあ、もうこれについてはいいだろ。今日は晴れだ。となりにボウアもいるし、雌鶏たちもかごの中で静かにしている。今は楽にしようぜ、色々ヤマトの世界とこの世界の違いとか考えたくない。


 家のすぐ南にある農家は老夫婦のコナーさんとシヴォーンさんだ。この二人はかなり年配なので、もう税金を納める必要もないので、自分達が必要な分しか農作物を作ってない。南西のお隣さんは俺たちも子供のときにはたまに遊びに来たことのあるマギー兄さんの家だ。あ、本当の兄じゃないぞ。マギーさんの敷地は海に面しているので、海で遊ぶために来てた。南東はサヒットの土地のすぐ南になって実は村長の従兄弟が住んでいる。この三人は俺たちが来るまでは村の一番端に住んでいたので、当然家も敷地内にあって、村の中には住んでない。でも、マギーさんは普通に村に来てたし、まだよく行ってるからそこそこ知ってはいる。ただ残りの二家は村にはあんまりこない。まあ、年を取ったら出不精になるのはわかるけど、村長の従兄弟にはあんまりあったことがないな。なんでかは知らん。


 村長の従兄弟があんまり村にこない理由が分かった。村長を嫌っている。なんでかって? 俺が知るかよ。うちの親父なら知ってるかもしれないが、ここには首を突っ込む気にはなれないな。ほれ、ボウアも何も言ってない。さっきから実に静かだ。まあ、こことは薄く、友好的に付き合っていこう。


 コナーさんとシヴォーンさんは実にフレンドリーだった。


 ヤマトの言葉は面白いな。色々な言語が混じっててそれを適時に使い分けてるのが気に入ったぞ。こっちは基本トルク語だけだよ。たまに豹人族の言葉が入るくらいかな。


 そして、夫婦がボウアの事をえらい気に入ってくれたので、もしなにかあったらお互いに助け合うことになりそうだ。


 最後がマギー兄さんのところだ。マギー兄さんの家はちょっと面白くて西向きに立ってる。だから村から続く道から家に行くと必然的に裏の方から尋ねることになる。でもな、そのこともちゃんと考えてある。田んぼとか畑とか抜けるとちょっと大きな井戸があって、その周りには色々な花が植えてある。そして、その花々は小さい道を作るように伸びていき、最後に果樹や植物のアーチを抜けるように小さい道が家の脇を通って玄関の方に続く。だからアーチを抜けると海が見えるんだよ。子供の時はこっちの庭のほうでもみんなと遊んでたな。そうそう、この家の土間や居間からだと海が正面に見えるぞ。


「こんにちはー」


「こんにちはー」


 うん、誰もいないのか? おかしいな。玄関の扉は開いてるし、もう午後も遅いし、野良仕事は普通終えてるし、田んぼにもいなかったぞ。


「マギー兄さん、中にいるの~」


 うーん、返事がない。雪隠かな。


「マギーさん、鶏持って来ましたー」


 反応ないな。


「ボウアちょっとここで鶏持って待っててくれ、海の方へ行って見てくる」


と言いながら歩きだすと、


「いいよ、じゃあ、待ってるね。でもマギーさんが来たら居間のほうにいるかも」


「あいよ」


 懐かしい。昔ここで遊んでた時に見た記憶と今の光景が重なる。ああ、いたいた。なんでか北隣りの無人の敷地の方の海に膝まで入ってる。真っ黒に日に焼けて、禿げた頭のマギー兄さんの後ろ姿が見える。


「マギー兄さん」


「おう、ノックスちゃんか」


 え、兄さんじゃない? おっさん? まあ、そうなんだけど、おじさんと呼ぶと怒るんだよ。まあ、今となっては俺も分かるがな。年は確か今年で十二歳になってるはずだ。


「ちゃんはもうやめてくださいよ、もう結婚してるんで」


「ああ、あれはいい結婚式だったな。ボウアちゃんは元気か?」


「はい、今日は二人で鶏持って来たんで、今は玄関の方にいますよ」


「よっしゃ、じゃあ、行こうか」


 とまあ、ザブザブと海から上がってから、二人で家の方に戻った。あれ、玄関にボウアがいないぞ?


「まあ、先に上がってけ。俺は井戸に寄って、海水をざっとを流してくるから」


 と言われて土間に入ったら、おう、ボウアがもう居間に上がってるよ。


「なんだ待てなかったのか」


「うん、ちょっとここから海を見てみたかったら」


 なんでだ? 普通にただの海だよ。まあ夕焼けが始まってるけど。なんだよ、ヤマト。え、なんで俺が結婚できたのわからない? そりゃ、俺がいい男だからに決まってんだろ。おい、ふざけんな!だれが情緒のかけらも無い男だ!


「あ、マギーさん」


 ボウアの言葉に我に返ったよ。


「ああ、いい、いい。そのまま、そのまま。鶏持って来たって? ありがとうな」


 うん? ああ、この人はここで一人で住んでいる。ちょっとかわいそうな目にあってな、結婚してすぐできた子供二人が四年前の流行り病で死んじゃったんだ。そしで、そのあと奥さんが妊娠したけど、出産で母子ともども亡くなったんだ。親も結婚前に亡くなってるから今は一人だ。奥さんは美人さんで、子供たちもかわいかったな。


「すみません、先に上がっちゃって」


「いや、いいって。子供の時にもよく来て遊んでたんだから勝手も知ってるだろ。気にしない、気にしない。それよりも昔みたいに兄さんって呼んでよボウアちゃん」


「えー」


 ハハ、ボウアが困ってる。まあ、困るよな、いくら子供の時遊んでくれてたってもなあ、もう十二歳じゃな。ああそうだな、俺たちとは四歳差だから、えーとヤマトのところの年では十歳くらい違うのか?そうそう俺たちがガキだったころ当時の若衆の頭だったよ。あと親父と一緒によく害獣退治に出てたな。あの頃は当然髪もふさふさだし、すごいかっこよかったんだよ。


「こっちに引っ越してからの挨拶が遅れてすみません、で、このかごに入ってるのが」


 とまだ土間にいる俺がとなりにおいてある鶏のかごを指すと、


「まあ、先に上がれ。おお、雌鶏か。実はな、うちは雌鶏がもう多すぎるから、また今度雄鶏の方を持って来てくれないか?」


「いいですよ」


 と俺も草履を脱いで居間に上がる。


「しっかし、お前たち二人よくあっち側に住もうと思ったなあ。あそこには川がないだろう?」


「一応なんとかしのげました」


 本当にギリギリだったけどな。


「そうか、なんかあったら絶対に言え。家の井戸の水も持ってってもいいし。俺はこの家にはいつもいるってわけではないが、結構いるから。で、水は居るか?」


 井戸で水をも汲んで来てくれたのか。


「おねがいします、兄さん」


「マギーさんは元気そうですね」


 とボウアが営業スマイルではない普通の笑顔を向けると、


「いやあ、最近さあ海で魚が取れないかちょっと頑張ってたんだよ」


 マギー兄さんも湯飲みと水差しを乗っけたお盆を持ちながら居間に上がり、なんか嬉しそうに言う。


「そしたらなんかこの前ちょっとしたお宝を見つけたから、またないかなって今日も仕事終わってから見てたんだ」


 なんだそれ?「柳の下のドジョウ」ってどういう意味だ? え、なんでもない?


「へー、なにが見つかったんですか?」


 あ、ボウアの方が返事が早かったな。


「へへへ、見せたほうが早いな」


 と、お盆をちゃぶ台に乗せて、座らずにそのまま廊下のほうに行って、帰ってきたら大きな亀の甲羅を持っていた。


「こいつがいたから、食べた」


「あ、亀ですか」


「亀って食べれるんですか?!」


 そうか、こっちで育った村の人には亀を食べるって発想はないだろうな。ヤマトの世界では食べてるみたいだから、俺はそこまで驚かなかったのか。


「ああ、案外おいしかったぞ。よいしょっと」


 座ってから亀の甲羅を渡してきたよ。


「でも肉なんてどこにあるんです?」


 我が妻よ、至極もっともな質問だ。これのどこの肉を食べるんだ?


「それがな、この甲羅の中にあったんだよ」


「はへー」


 甲羅の中を見てたからか、間抜けな返事がでたな。肉がこの辺にあるのか?


「どんな味でした?」


 妻よ、いい質問だ。ヤマトも食べたことは無いって言ってるしな、俺も興味がわいてきた。


「うーん、どう言えばいいんだ? 味は牛肉? かな。でも食べると噛み応えがすごいモチモチ、いや違うな、モチモチではなくてカミカミしたのか? とにかくすごい旨かった!」


「それは確かにちょっとしたお宝でしたね!」


 ほれ、妻よ、甲羅だ。


「俺たちも海岸があるからこれから毎日見に入ってみようか?」


「俺はお勧めするぜ、ちなみに肉がこう細切れにしか取れなかったから汁にした」


「ああ、わかりました。ボウア、どう思う?」


「まあ、とりあえず海岸を見にいくのいいことね」


 甲羅を見てるのか返事が上の空だな。


「海の幸ってのも悪くない。今度また俺のところに出たら、そうだな、お前らと隣のコナーさんとこも呼んで、皆で食おう!」


 とまあ、こんな感じで隣人たちとの交流を深めることにした。


 さすがに海岸に毎日は無理だったな。でもちょっと暇なときには丘ではなく海岸まで行って散歩するのも悪くない。



原稿を書き終えました。全15章96話です。計画して96話にしたわけではないのでちょっとした偶然ですね。あらすじにも書きましたが2話合わせて約五千字あれば、日に二回、それ以下の文字数の場合は日に三回投稿する予定です。

これでエタることは絶対にないです。安心して最後まで読んでください。

これからもよろしくお願いします。


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