28)8歳 17月1日 雨季の始まり
例年通りなら乾季が終わり雨季がこの月から始まる。
ちなみにボウアの棒、なんか言ってて笑えるな。うっさいな卑猥な意味では思ってないのもお前も分かってるだろうが。まあ、洗濯のやつはサヒットにロウ板を見せて使用用途を説明したら、「折れる」って一言だけの返事があったらしい。おしっこについては当然黙っていたよ。なので、怒ったボウアがサヒットと相談しながら改良して作ったものをジル婆さんに渡した。機織りと関係がないものでも修行は終わるのか、と言う俺の不安は杞憂に終わった。よかった、よかった。
改良された洗濯のやつはかなり変わった。まずトンボの上二つの羽がぐっと上に来て、羽ではなく、棒を持つ取っ手になった。この取っ手は短い棒を穴に横に通すだけで出来る。そしてこの取っ手を握れば棒を横に楽に回せるようになり、またドンドン上下に突けるように持ち上げることもできるようになった。また棒もただの棒じゃなく野球のバットみたいに下の先のほうがぐっと太くなった。そして下二つの羽はヤマトの世界のジェット戦闘機みたいに羽は細い三角形になって棒に付けられた。これで上が細いから水もあんまり跳ねないし、下は攪拌できる。かなり試行錯誤したとか言ってた。で、ヤマトが樽に入ってる棒を見たとき、「これって洗濯機の原型だな」とか言ってた。「チートか」って聞いたらこれはそうかもって言ってたからアイツも嬉しいんじゃないか。
まあ、洗濯物を一度に大量に出来て、労力も格段に減った、チートっぽいな。実際に洗濯をもしてるおれが言ってるんだから間違いない。ただこいつには大きな欠点が一つある。水をすごい使う。雨季がまだ始まってもない俺たちにはここでは使えない。なので「人力洗濯機」は裏の丘の川のほとりに置いてある。まあ、あんなものを盗む人はこの辺にはいないから大丈夫だろ。あとな、俺たちはおしっこは使ってないぞ。高いけど普通に石鹸を買って使ってる。
ああ、「人はこの辺りにいない」で思い出した。早く近隣の住民と仲良くならないと。卵から孵ったひよこたちももう大きくなって卵を産みだしたから、一軒につき一羽雌鶏を渡したらいいだろ。あれ、ボウアはこれを見越して最初に鶏小屋を作りたいって言ってたのか?
そうなんだよヤマト。鶏はこう誰かに正式に挨拶に行くときにはよく使う、必須アイテムってやつだ。生きれてれば、かごに入れて、なんだ、そんなの竹でかごを編めばいいだろ。ええい、話の腰を折るなよ。生きて、あ。そう。すでに絞めた鶏の場合はだな、こう鶏の頭を右手に持って、鶏の体を左手に持って相手に丁寧に差し出すんだよ。それが礼儀だ。えっ、どっかで聞いたことがある? 本当か、俺この事について喋ったことないと思うがな。
まあ、それは置いておいて。雄鶏は待たなくてもいいから、この前ボウアが村に行くとき数羽持ってってもらった。ケーシーさんの所に雄鶏を一羽、石灰石をたくさんもらったからな。キーラさんの所には雄鶏を二羽。一羽はこれまでのお礼でもう一羽は中くらいの蓋つきの壺と交換だ。決まってんだろ、おしっこだよ。お前のアイデアだろうが、なに忘れてんだ。え、現在なにもしてないから本当にするとは思わなかった? ふっ、周りにはだれもいない、雪隠が臭くても文句は言われんよ。五か月後に試すつもりだ。
鶏の件ではもう一個あったな。ジル婆さん用に、俺からだって、ボウアに雄鶏を一羽持たせたんだよ。でも俺からもらう理由はないからと一旦は断られた。が、自分からでもあるとボウアが言ったとたん、すんなりもらったそうだ。なんだよ、いいじゃん、皆鶏肉と卵は好きなんだ。