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25)8歳 15月39日 サヒットの改良樽

 そして親方が来てから一か月後サヒットが荷馬車でやって来た。


「おーい、待ってたか」


 いや五日前に会ってるし、今日は午後に樽を持って来ると知ってるから。


「最近は雨もまた降りだして持ち直してきてる。樽が一つ半分くらいになった。ありがとうな」


 返事してないって? あれっ、本当だ。


「そうか、それは良かった、それに親方も半年は面倒みてやるって言ってたんだ、二言はねえから気にすんな」


 まあコイツとの会話の時はあんまり気にすんな。


「いやさすがにこんなに長く世話になってると、本当にまた牛か馬でも渡さないと悪い気がする」


 あれ、まさか親方が言ってた半年って雨季の大雨が終わるまでは面倒見るって意味で言ってたのか?


「で、親方の話してた台座は使わないっていってたけどなんでだ?」


 と聞くと、サヒットが荷馬車から今あるやつよりも直径が一回り小さく、細長い樽を下ろしてから言った。


「へっ、改良版だ。いいか、この前妹が面倒だって言ってたじゃねえか。それを踏まえてこれを作った」


「でも、水不足になったのにさらに樽を小さくしてどうすんだ?」


「だからそこは数で勝負だよ、まあ見てろ」


 とサヒットが早速作業に取り掛かる。まず今ある樽の空のやつの一つをどけてこの一回り小さいのを土間の壁に沿って横に置いた。


「おい、なにボケっと突っ立ってるんだ。お前も手伝え。あと二つあるんだよ」


「はあ、二つ?」


 とまあ二人で樽をあと二つ荷馬車からおろしてひさしの下に持ってきた。


「これお前のアラ数字があったから計算が簡単にできたんだが」


 アラビア数字な。うん、俺もそこ突っ込みたいわ。


「前回のは結構大きく作ってみたけど、柄杓ばっか使ってただろう。だから今回はこの大きさにした。ついでにこの大きさなら横並びで最大五つ、このひさしの下における。長さは前回と一緒だ。長くしすぎてもひさしの下に入らなくなるし、水が少なくなったら傾ければいいだけだからな」


「なるほど」


 横並び五つで四メートルってことは直径八十センチか。そして、半径四十センチで長さが二メートルだから容量は大体一トンか。ヤマトの計算速度は相変わらず凄いな。でも『傾ければいい』って、ああ大きすぎると水があまり入ってなくても樽そのまのが重くなって傾けるのが大変になるってことかな。


「まあ、前回の樽の半分しか水は入らん。がその代わりこいつらがある。こいつらは同じ大きさだが横に並べない。縦においておく」


「おいそれじゃどうやって水を取るんだよ?」


「まあ、聞け。この大きさならひさしのこっち側に」


 とサヒットが軽々と一個持ち上げて、壁際に置く。そして次の樽をちょっとずらしてからその前に置く。まあ、直径八十センチならまっすぐに並べても一メートル六十センチだから、余裕で壁と横においてあるやつの間に入るな。


 そしておもむろに荷馬車のほうに行き、竹筒を何本か持って戻って来た。一個「L」字になってるやつがあったわ。


「で、こいつらは立ててある樽とここに横になっている樽を繋ぐのに使う」


「へ?」


「だから、雨がたくさん降ったらまず寝かせてある樽に水を貯める。寝かせてある樽の後ろの方に竹をいれる穴があるから」


 と指さしてるから、俺はしゃがんで差してるとこ見たら樽の蓋か底に当たるところに穴がある。そしてサヒットも一緒にしゃがんで、


「ここにこいつを押し込んで」


 とサヒットが「L」の竹筒を押し込んでから、立ち上がって説明を続ける。


「小樽からそこの上の方に連結すればいい。あとは旧型と一緒でこっちの前の方の蓋を空ければいい。ちなみに今回の蓋は一回り大きくして、木の枠に布を張り付けてあるから、水を取り出しやすいし、こうピタッと止めれば蚊も入ってこれない。これで毎回毎回筒に布を巻きつけなくてもいいだろ。そして、こっちの寝かした樽がいっぱいになったら、こいつは」


 また「L」を差してる。これに名前つけたほうがいいな。


「また使うまで上に布でも巻いておけばいいだろ。で寝かせてあるのがいっぱいになったら今度は小樽からこっちの奥の方にある立たせてある樽に水を入れてく。こっちにある樽は全部上の蓋が小樽みたいに布になってるから、小樽からの竹筒を乗っけるだけでもいいし、筒を布の下に通してやってもいい。それにいっぱいになったあともそのままでいい」


 小さい樽は小樽って名称にしてんのね。


「ああなるほどわかってきた。この横になったやつが空になったら今度はこの立ててあるやつから水を取ればいいのか」


「そうだ。同じ大きさだから水が溢れるとかそういうのもないだろ」


 そしてサヒットとニヤリとしながらしゃがんで、


「そんで、そのときはこの今持ってきた竹筒をまず外して」


 スポっと「L」字が本当に外れたわ。


「このまっすぐの竹筒を寝かせてあるやつにまず入れてから、この立たせてあるやつの下に付いてる穴にぐっと差し込めばいい」


 ああ指の先に穴があるな。あれ、でも立ててある樽の下の方の横に穴があるぞ。


「あれ、これ前回、樽の横に穴を空けると水漏れが、とか言ってなかったか?」


「まあな、だからこれは自信作だ」


 そして、今どっちも差し込んでないな。


「じゃあなんで筒を入れないんだ」


「これは一回ぽっきりしか使えん」


「え」


「L」字をまた入れてから、立たせてある樽を叩きながらサヒットが立ち上がる、


「こっちの穴には仕掛けがあって、水を貯めるときは問題ないが、この筒で穴にぐっと押し込むと裏でふさいでるコルクが押し出されて、コルクが浮かび、筒に水が通る。すでに試したから問題ないはずだ。大変だったぞこれ考えてやるの」


「おー凄いな。だから今入れてないのか。しかし一回だけってのはちょっともったいないような気もする」


「まあ、この立ててあるヤツが空になったら俺に言ってくれ、こいつに一回使ったコルクは再利用はできないし、輸入品だから高いがこの樽をもう一回作るよりかははるかに安いからな。弟弟子にでも言って、新しいのをトンカチでしっかりと嵌めて、また使えるようにしてやる」


 ん、じゃあ樽が「一回ぽっきり」ってわけじゃないよな。ああ、お前もそう思うだろ、説明が微妙に下手なんだよ。それよりもだな、この大きさの樽三つで都合三トンの水を確保できるのか。そしてそれが五列だから十五トンか。親方の考えてた案よりも三トン多い!


「うおおお、凄いな!」


 親方の話を聞いたときにはワインセラー見たいになるのかと思ったが、プロパンガスのタンクを並べたみたいになるのか! しかもこっちのほうがボウアに優しい設計だ。


「ありがとう、もうこれで本当に水に悩まされずに済む」


 なんか涙ぐんできた。サヒットにも抱き着きたくなってきた。いや、本当にはしないよ。


「おい、泣くなよ。お前らがこれで苦労してるの見てたら俺にもちょっとなんかできないかと思っててさあ。弟弟子も巻き込んで急ぎで樽を三つ作った甲斐があったよ」


「いやいやいや、お前がいなければここでの生活は不可能だったと思う、本当にありがとう」


「大げさだなあ」


 いやそれはお前が俺が水不足でどんだけ不安になったか知らないから言えるんだよ。本当にありがとう。ヤマトが思いつきで雨を集めたらいいじゃんと言ったのが始まりかもしれんが、それを実行しようと決意して、こいつらまで巻き込んでしまったのは俺なんだ。そう、お前の言う通りだ、そんで俺は乾季をなめすぎてた。いや確かにここにずっと住んでたけど、村に居たら井戸があって、乾季でも井戸は普通に使えるからな。わかるよな?


「おいノックス、大丈夫か?」


「いや、もう大丈夫、ちょっと今までのことを思い返しただけだよ」


 しまったヤマトと話し込んでしまった。サヒットとは昔からの会話のテンポがあるから返事が遅れるとお互いなんかあるのかと思ってしまうんだよ。


「そうか、わかった。俺もな親方に言われて大雨が来る前、まあ、あと五か月でこの樽たちをあと五つ、全部で十五個か、作っておけと言われてるからよ。まあ五か月あったら一週間で一個作れば一人でも軽くできるな」


「え、でもここにはあと四つしか置けないぞ」


「壊れても困るだろうから、親方が念のために一式物置にでも保管しておけってよ」


「本当にありがとうな、親方と弟弟子たちにも俺からのお礼をちゃんと伝えてくれ」


「まあ、気にすんな、俺はお前らの鶏を一羽貰うだけでいいよ」


「ああ、まかせろ、いいのを見繕ってやる」


 撤去した大きい樽は物置に入れておいた。何かあった時の保険だな。


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