24)8歳 14月34日 親方の差し入れ
「ノックス、元気か?」
あ、親方が来た。なんでだ? 嬉しいけどさ。ここ一週間サヒットと一回喋った以外だれともしゃべってないしさ。そうだなお前の言う通りだ、家で雨を待ってたってしょうがない。たまには村にもどろう、そして南の隣人たちとも積極的に付き合っていこう。雨のことだけ考えてたらだめだ。そうだな引きこもってはだめだよな。
「ヹ、あ、大丈夫です」
なんか変な声がでたよ。
「そうか、サヒットから聞いたがなんか大変なことになってるらしいな」
「あー、親方はもう聞いているんですね」
「まあな。で、どうだ、見せてくれないか」
と言われたら一通り見せるしかないよな。
「そんなに落ち込むな。よくやったと思うぞ。今年の乾季ももうすぐ終わりだ。例年通りなら来月から雨も少し降り出すしさ」
「はあ」
「本当に元気ないな。そこまで心配するな。水も小さいが樽に詰めて少し持ってきた。この裏の坂を上るのに家の老馬じゃちょっとかわいそうでな」
「あ、ありがとうございます」
「来る途中俺も考えたんだがな、村でいつもやってるみたいに乾季の始めに家を建てるのは間違えたな。ため池は別にいつ作ってもいいかもしれんがな。家はな。乾季が終わるころに家の建築が終わるように調整すれば、って思ったよ。悪かったな。だがこれからは問題ないだろう」
あ、そうか。でも問題はこの一か月くらいだったんだよ。果樹も結局枯れちゃったし。ため池も空になったよ。泥レンガ作りすぎたかもしれん。今絶賛日干し中だわ。山火事が怖くて焼けないよ。
だめだ、親方を責めてはだめだ。こんなの誰もしたことがないからわかるはずがないんだ。心配してくれてるし、水も持ってきてくれたんだし、感謝しないと。こういうのを記録しておけ?なんで急にお前が元気になるんだ。
「水に関しては本当にありがとうございます。本気で動物たちに水やりを辞めようかとも思ってたんです」
「あー、そこまでか。あとな、見て回って改めて思ったが、あのひさしの下まだまだ樽を置けるからよ、今度サヒットに言って大きいのをあと三つ作ってもらえ。まあもっと置けると思うが。とにかく次の雨季の大雨が来た時には目いっぱい水を貯めろ。次の大雨のあと、短い乾季がまたくるから今回のようなことがないようにたくさん貯めとけ。俺の見立てではたぶん大樽は三個あれば水はひと月くらい持つと思う。だからあと三つあれば降ってくる雨と合わせて次の短い乾季は楽にしのげるだろう。来年の長い乾季も長くても四か月だし、少しは降るからなんとかなるだろ?まあ、だめだと思ったらもっと樽を作ればいい」
「あの、あれよかもっと大きい樽って作れないんですか? だって、六個も置くところは多分ないですよ」
あのひさしの下は約四メートル×約四メートルだから広いけど、そこまで広くないような気がする。だって今ある大樽を三つ横に倒して並べたらほぼ四メートルだし、長さは一個二メートルあるし。
「あー、それな。でもよあれよか大きいと腕を突っ込んでも底の方の水が取れないだろ?」
「それもそうですね」
柄杓を使っているんだが、確かに手で取れたほうが楽か。
「まーだから今度サヒットがくるときにはあの樽の上に樽を置けるように木の台を持ってこさせる」
「なんだかますますワインセラーみたいになりますね」
「なんだ『ワインセラー』って?」
「あ、何でもないです」
しまった、疲れすぎてこっちにはない言葉を使ってしまった。なんだ親方が来てから急に出張ってきたな。いや、ヤマトのせいにしてるつもりはないよ!
「まあ、壮観だろうなあの大きさの樽が三個、三個で上下に並ぶんだから」
ほう、パイアール二乗か。で、パイが三より若干大きい、三点一四一五九と。まあ、もういい。言いたいことはわかったよ。つまりあれ一個だいたい二トンちょいくらいだよな。半径が六十センチくらいで、高さが二メートルくらいだし。十二トンか。家ではいったいどれだけ水を使ってるんだろう。
しかしなんでヤマトは俺が落ち込んでる時にそんなに元気なんだ。