21)8歳 14月20日 水不足と進捗状況
あれから一か月と一週間。乾季を舐めてた。来た時には大きな樽一個くらいあった水がかなり減ってる。いや正直に言おう、危機だ。昨日最後の大きな樽の中を除いてみたが、水が半分ちょいしかない。一応たまに雨も降るけど、俺たちもそれなりに使ってるから当然その分減りもする。これはヤバイ、水が無くなったら本当にヤバイ。乾季はまだあと二か月続くんだぞ、どうしよう。税金兵になる前に開拓生活が失敗するわ。
幸い? なのか、ボウアの修行がまだ終わらない。俺も実家に帰ればなんとかなるかもしれないけど、それじゃなんか失敗したみたいでいやだ。これはこれから綱渡りみたいになりそうだ。うるさいな、なんでここでお前の世界の水に困らない話を聞かなけりゃいけないんだよ。余計にイライラするだろうが。
家の水以外ではなんか大丈夫なんだよな。
まず無事に泥レンガができた。俺のカンはちょっとだけ外れていた。粘性はまあ当たってたと思うが、わらはそこまで要らなかったわ。だから新しく泥レンガをボウアと二人でため池の近くで大量に作った。念のため五日間寝かせて干して、次に立ててまた五日間干して、最後にため池の近くに土で作った簡単なかまどを使って、レンガを焼いた。さすが乾季だよ、サヒットにもらった木がよく燃えたわ。今も暇を見つけてはレンガを作って、乾かしてる。え、この乾季が続く間は焼かなくてもいいと思う?そうかあ?まあ、一週間乾かしたレンガをどこか雨に濡れないところに置いて試してみてもいいぞ。
出来た泥レンガはまず鶏小屋に利用した。丘なので雨季が来たら絶対に水が大量に流れると思うので、まず木と竹で鶏用としては高床式のそこそこ大きい建物を作った。で、そこの床に泥レンガを一旦敷き詰めてから、その上に土とわらを被せ、この小屋の中で動物が走り回れるようにし、また逃げられないようにもした。大きいので中は二つに仕切って、現在鶏以外にも兎をついでに買っている。もう一個小屋が出来たらそっちに鶏を移す予定だ。本当は鶏は実家みたいに果樹園の周りをウロウロさせて虫とかを食べてもらいたいんだがなあ。どうしよう。違う小屋を考えたほうがいいのかな。
鶏たちはボウアのところから雄鶏一羽と雌鶏一羽、そして俺の実家から雌鶏二羽持ち寄って来たから、そこからひよこを育てて、現在ひよこの育ったのが結構いる。あと二か月もたてばこいつらも十分大きくなるから楽しみだ。生まれた雄のひよこたちはとりあえず俺とボウアの実家に性別が解り次第早速六匹ずつ渡した。お返しだな。もう少し大きくなったら雄はキーラさんにも数羽渡そう。あの人は鶏とか飼ってないはずだからひよこを貰ってもうれしくないだろうからな。
兎は俺の実家から雄を一羽、ボウアの実家から雌を一羽。子供たちを産んでくれたが、まだまだ小さい。兎の赤ちゃんはかわいい。あと四か月くらい待たないとこの子たちは親にはなれないので、兎たちが育つのを待つ。ヤマトがこいつらを本当に好きなんで、ちょっと気持ち悪い。なんだよ、素直にそう思っただけだよ。確かにかわいいと思うけど、お前のは行き過ぎなんだよ。ちなみにサヒットに作ってもらった鶏用の家と兎用の家をちゃんと小屋の中に入れてあるから鶏も兎も大きな小屋の中の「自宅」で子育てをしてる。
なので現在は鶏の卵が食卓にふつうにある。卵は実家から持ってこれないからな、正直助かっている。俺たちの食べ残しや野菜の切れ端が卵に化けるんだから鶏は偉大だよ。最終的には鶏は雌鶏が五羽も入ればボウアと俺とサヒットの分の卵は十分に取れるが肉も食べたいとなるともうちょっと欲しいな。そうだよ。いずれ俺かボウアが鶏と兎を潰すんだよ。なに言ってんだ、生きてくには必要だろうが、だから気持ち悪いって言ったろうが。時が来たらやることが出来なくなるだろうが。それにヤマトもうまいうまいと言って食ってたじゃないか。あれ、というかお前以外にもサヒットも最近いつもしれっと家でご飯を食べてるよな。ああ、悪い、悪い、お前は確かに飯を食べるわけじゃないよな。ただヤマトの飯の感想って妙に具体的でお前も一緒に食ってるように思えるんだよ。本当によくまああんだけ飯について語れるよな。お前こそ猪人なんじゃないのか?なに怒ってんだ?飯に執着するのは俺たちのいいところだぞ。
確かに話が脱線したな。なあ、この「脱線」ってなんだ?ああ、列車の線路か。いずれやってみたいけど、無理だろうな。え、あきらめるな?本当にこいつにはこだわってんなお前は。まあ、いい。あ、悪い脱線させたのは俺だった。はいはい。
果樹は、丘の上の方、あえてため池の上のほうに植えた。ティルガン親方に上の木を切るなって言われたけど、木を植えて、育ったら、その分、ほかの木を切って順々に植え替えてもいいんじゃないかと思う。ただため池の水を桶に入れてそれを上に持って行って水やりするのは大変なんだよな。うーん、そう考えれば木はあんまり上には植えないほうがいいかもしれん。わからん。間違えたかな。どうしよう。そうか、お前も分からないか。まあもういいや。それに農業ではあまり期待してないから別に謝らなくてもいいぞ。大体お前がいなかったらこの開拓やってないんだから、俺は感謝してるよ。
最後にたまに降ってくる雨とか、丘の形とかを見てどのように棚田と段々畑を作っていくか少しづつ決めて行ってる。一旦雨季が過ぎるまで土をいじるのは待ちたい。それまでは実家からのコメと野菜とでしのがないとな。行ったり来たり面倒だけど、飯がないと何もできん。
最後にこれ言いたい。このところボウアが家にいないし、俺が一人でこの村の一番端っこに住んでるからお前がいて嬉しいよ。ホント、ひとりぼっちだったらキツイわ。なんかブツブツと独り言ばっか言う人になってたかもと思うとぞっとするよ。え、もうなってる? ゲッ。
あ、あとあの早くも臭くなった雪隠の場所は大丈夫だった。雨が降っても無人で岩の多い西側に向かうだけだった。本当に良かったよ。