18)8歳 13月1日 新居ができる
第三章が始まります。ここまで読んで下さりありがとうございます。よろしければ感想・評価の方もお願い致します。
十三月朔日、ついに家が出来た。早速荷馬車に引っ越し荷物を載せて、ボウアと見に行く。一緒にワクワクしながら馬を歩かせて一時間。
「着いた。どう」
ボウアはしばらくあっけに取られてた。
「すごい。おしゃれ。なんだか町の家みたい! すっごーい」
まあ、ここのところジル婆さんの所でずっと修行してたから、ちょっとしたサプライズになったと思う。建設中こっちに来れなかったのが逆によかったのかもしれない。村の普通の家とは違うからちょっと不安だったけど、こんなに喜んでくれてるなら良かった。ほれ言ったろヤマト、ボウアはかわいいんだよ。
俺たち猪人の家は大体真四角な作りになってて、これをちょうど九つに分けることが多い。そうだな、「井」の漢字だな。で、中央に居間があって、手前の真ん中が大抵の場合玄関付きの土間兼台所だ。そんで、居間の周りに廊下があるからそこから各々の部屋に行くって感じだな。普通は玄関は開けっ放しにして、光を入れる。家族は普段居間か土間にいて仕事場とか寝る個室として周りの部屋がある。居間の真後ろの部屋は必然的に暗くなるから物置として使ってる人が多いな。
この辺は田舎だから皆家は結構でかい。町に行ったらこの区画を経てに割って、三分の二、六部屋とか、下手したら、三分の一の三部屋で過ごすことになるぞ。いやだろそんなの。四人、六人、八人の家族が土間と居間に小さな部屋二つや部屋四つって考えられなくはないけどよ、俺は絶対いやだよ。どう考えても兄弟と相部屋になるだろ。俺とアヴィンならまだいいが、ボウアとサヒットみたいに女の子と男の子の双子だったらどうすんだ? お前親父といっしょに夜寝れるか? あのいびきはほぼ拷問じゃねえか。え、江戸の貧乏長屋がそれに近い? 嫌だねえ。
で、ここの家はちょっとだけ違う。四角だけども、長方形なんだ。土間と前の部屋の部分が手前にぐっと伸びて広くなってる。そうそう下三つの部分がな、前にぐっと伸びてるんだよ。そして土間の右側つまり西側の部屋は部屋は広くないがひさしがすごいでかい、一部屋分はある。その下にボウアが見てるやつがあるんだ。
「この大きな樽たちとこの段差の上に乗ってる樽はなあに?」
「ああ、これはなサヒットからの贈り物だ。こう屋根を見るとわかるけど、雨が来たら、雨どいに水が入って、それがこう来て、こう来て、この小さいほうの樽にまず入る。サヒットによるとこの小さい樽の中にはなんか色々と仕掛けがあって、水をちょっとろ過するような感じになるらしい」
そしてボウアと一緒に段差の階段をちょっと上って説明を続ける。
「で、この小さい樽がいっぱいになったら、この布の上にまで水があふれるから、今度はそのあふれた水がここの淵の端からまた竹筒を通って大きいほうの樽に入る」
そして、段差から降りて横に倒してある大きいほうの樽の所に行って、
「そしてこの大きいほうの樽のここには」
と、樽に着いてる竹筒と布の蓋を外すと水が見える。そしてをまた竹筒と蓋をはめる。結局俺たちに蛇口は作れなかったけど、これで十分だわ。
「こんな感じです。この家は雨水を利用することにしたからこれからは井戸で水を汲むってことはしない。家のここで水を取って、ここのひさしの下で手を洗ったりなどをします」
「すっごーい! なにこれ家から出ないで水が手に入るの?! 水汲みしなくてもいいの?! 信じられない! 嬉しい!」
まあ水汲みは本当に重労働だからな、わかるよ、わかるよ。もっと言ってくれ!な、こう喜んでくれるとヤマトも嬉しいだろう。
「ボウアが喜んでくれると俺も嬉しい。でもな、ちょっと面倒かもしれないんだ。この小さいほうの樽の布の蓋はちょくちょく見て汚れてたらきれいにするか、取り換えて欲しいんだ。そして雨が降り終わったら。この小さいほうの樽の水をこうやって、留め具を外して、下に付いてるコルクを抜いて、水を完全に抜いておいて欲しいんだ。このあたりに落ちた水は家の周りにある溝に流れるから水浸しにはならないし、このあたりもキーラさんに頼んで土間と同じように作ってあるよ」
「わかったわ、このくらいなら問題ないわよ。すっごいねこれ。ノックスが考えたの?」
「まあ、俺と親方とキーラさんとサヒット、全員の考えを持ち寄ったってとこかな。それにこの四つの樽は一応全部ひさしの下だし、水回りの確認は俺もするから別に毎日ボウアがする必要はないよ。適度にね」
「わかったわ。これ、皆には感謝しかないわ。改めてお礼に行かなきゃ」
「まだあるぜ、次のヤツは親方とキーラさんに特に礼を行ってくれ」
「え、なになに」
と今度はニヤニヤしながら家の中を紹介した。自分の顔のゆるみが抑えられん。
北向きの玄関を通ると土間と台所がある。台所で煮炊きをするかまどはまあ普通だ。かまどは専門家のキーラさんに任せた。素人がそんなことに口を出してもろくなことにならないから、口を出したがっていたヤマトを黙らせた。ただヤマトの案で採用したのは土間を大きくすることだ。普通なら四メートル×四メートルの土間で、その中央に入り口があって、右か左に手を洗う所があって、台所とかまどはその反対側にあるから、調理するとこは狭い。特に朝なんかは人が出入りすることが多いから結構混雑する。
が、この家は普通の倍だ。土間が横四メートル、縦に八メートルもある。親方もキーラさんもこれには驚いていた。そして家に入る前に手を洗うところはさっきの大きな樽のあるひさしの下だ。だからこそ左の壁沿いつまり東側の壁沿いに普通のより大きく、普通のよりも高く作ってあるかまどがある。なにしろ実家にはないレンガオーブンってやつがかまどの左側に乗っかってるからな。そしてかまどの右隣りには幅四十センチ奥行六十センチの金盥が二個並んではめ込んであって、そのとなりに幅四メートル奥行一メートルのカウンターみたいなテーブルが壁に沿っておいてある。ちなみに、ちゃんと椅子も二脚用意してある。またカウンターテーブルの少し上には壁から三十センチ出張ってる収納がついている。
「これなら料理するときにこのおっきいテーブルで調理できるし、もし水が必要ならこっちの金盥にきれいな水を入れて、汚れた水はもう片方に入れればいいと思うよ。一応この二つのたらいは取り外しもできるし、たらいの上に蓋もかぶせられるから、その蓋の上でも調理できる。あと急いでいたら、作ってすぐにこのテーブルの居間側で食べることもできる。
ボウアが喜ぶかなと思って親方と一緒になって張り切って考えて作ったんだ。あ、忘れちゃならんな、一応テーブルの上には収納もあるから。こう扉でキチンと閉まるから鼠は入ってこれないと思う」
とまあテーブルの上に付いてる収納の扉を開けて見せる。あ、この収納の一番上の棚はボウアには届かないかもな。しまった。
あと鼠はどこにでも出てくるから俺は慣れてるけど、あれヤマトが頭の中で金切り声だすからやなんだよ。え、「G」と鼠は絶対にだめ?「G」なあ、あれもどこにでも出るぞ。うん、たぶん夜に出てると思うぞ。だから、大げさだって。実家で食器などを全部裏返して置いてある理由がこれで解っただろ。俺たちだって慣れてるかもしれないけど、アイツらが食器の中を走ったと考えるとそりゃぞっとするよ。
「煙の心配もないよ。この家では土間の上に屋根をもう一個家の中に足してあるから、ほら、あっちのほうにかまどの煙がちゃんと逃げていくようになってる。まあだから、ふつうの家とはちょっと違って部屋が全部ちょっと高いんだけど。」
と、指で台所の天上を指さしながら、実家で母さんがあの狭い台所で調理してる姿を思い出した。以前あれを見てたヤマトが聞いてきたが、実家の台所が狭いのはそこで使う煙が家の中に充満しないようにということでもあんな風になっているんだ。そのとき、この家は木で屋根を作るんだからとアイツがこの解決方法を考えてくれた。煙突の応用って言ってたよな。
「すごい」
なんかいつの間にかボウアが固まってた。
わかってる、わかってる。感謝してるよ。わかった、わかった、ヤマト様、固定観念に凝り固まってたの俺のほうだったよ。
「あ、そうだ、飲む水はこのちっちゃい樽に一旦入れて、玄関の近くのここの台に置いていけば、水がいつでも飲めるよ。このちっちゃい樽も下のほうにあるコルクを抜けば水が出るからね。そしてこいつのとなりにある石の台場においてある鉄の桶はかまどで料理をしてると自然と温まるからここに水を入れて置けばここの水はかなり温くなるはずだと思う」
この温い水ってのがよくわからなかったけど、ヤマトがどうしてもあったほうがいいと言うからキーラさんと親方に相談し、色々考えた。その結果オーブンを少し左に寄せて、この温い水の台場を石工のケーシーさんに頼んでレンガオーブンの左側に連結するような感じで設置してもらった。かまどとオーブンの煙は上にほとんど出るけど、熱は全体に広がるらしいから、オーブンやかまどを使えば、その熱がここまで伝わる。はず。俺にはよくわからん。鉄の桶は実家で使ってないのがあったからそれを持って来た。まあ、だめならだめで水を置く場所がもう一個増えただけだな。
そしてこのちっちゃい樽には炭を入れてあるんだけど。こんな炭で本当にろ過してんのかな。ヤマトはなんかまんざらでもなさそうだったけど、水の味にあまり変わりはないような気がするんだよな。え、味が違う?まあ、お前がそう思うならいいよ。
「これ、こんなに広くていいの?」
まあ土間を倍の広さにするって、思いきってやらないとできないよね。だって向かって右から、テーブルが幅四メートル、浅い金盥二つで幅一メートル、かまどとオーブンで幅二メートル、そして石の台場が幅五十センチに飲料水の台座が幅が五十センチ。長さ八メートルの土間なんてお前が来る前だったら頭おかしいと思ってたわ。
「まだまだあるから、ほら、おいで」
と草履を脱いで、二人で家に上がると、まあそこは普通に四メートル×四メートルの居間がある、中央にちゃぶ台もあって左右と奥に廊下がある。猪人の家のドアは引き戸でスライドして開けるから普段から開けっ放しにしてる所も多い、実家ではそうだ。空気が通るし、涼しくなるからな。そして右から順に四メートル×四メートルか三メートル×四メートルの部屋を巡ってるときはボウアもただ見てただけだったけど、最後の部屋を見るためにちょっとした通路を通って部屋に入ったらまた固まった。
「ナニコレ」
「これはな、俺たちの寝床だ」
そう、土間が四メートル×八メートルの大きさになるなら、その左どなりの東側の部屋もそれと同じ大きさになるよな。だからここは、四メートル×六メートルの大きな部屋にして、その中央に大きなベッドを置いたんだ。ヤマトの言うマスターベッドルームってやつを再現したんだよ。暑苦しい夜でも快適に寝れるように、通気性をよくするために、寝床を部屋の床から七十センチくらいの高さにし、窓も北向きと東向きに大きく作ってもらった。とくに北向きの窓からは遠くに海が見えるし、俺は絶景だと思う。東向きの窓からはこの家の敷地だけでなくなだらかな丘が遠くまで見えてこれもこれで実にいい。だよな、海と緑は見ていて気持ちいいよな。
ベッドは軽い。親方が言うには竹を主に使っているだそうだ。なので模様替えのとき楽に動かせるし、四人分くらいの重量も問題なく支えることだできるそうだ。この村の普通の寝床は低くて狭い。そういや子供のときには寝相が悪くてよく落ちてたな。でも、これは各段に従来のよりも高くなってて、しかも広い、キングサイズより少し大きいくらいの二メートル×二メートルだ。
「そして寝床しか見えないのはこれがあるからだ」
部屋の南側の壁は一面が障子みたいなスライド式のドアにしてもらい、横三メートル奥行二メートルの収納になっている。だから箪笥はここに隠そうと思ってる。え、そもそも棚を据え付ければ箪笥はいらないって、なるほどな。ちなみに親方は、自分の家の間取りはもう替えられないけど、寝床を高くするのはできるからするって言ってた。
と思ってたら、思いっきり抱き着かれた。なんかお礼を言ってた途中だったけど、俺から口づけしたから、正確にはわからない。これでよかったと思いたい。本当に皆には感謝だな。そして親父、今回は馬を一頭親方に渡してくれてありがとう。
まあ、今日は引っ越し荷物を家の中に入れて、荷馬車を家に帰して、歩いてここに戻ろう。そして今日の残りはこの家でゆっくり過ごそう。俺自身まだよく使い勝手が解ってないからな。明日からまた忙しくなるぞ。
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