表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/97

17)8歳になる。12月35日 アヴィンと清酒

 結婚式から三週間後、十二月三十五日。俺の誕生日だ。八歳になった。結婚もしたし、自分の土地があり、家もできる。農家としては実に順調だな。


 アヴィンとはお互いの誕生日になる前に二人で話した。アイツも俺が結婚して家を出ていき、俺たちが八歳になることに焦りだしたらしい。で、要はやはり一人前の鍛冶職人になりたいって事だった。じゃあ、なんでコーラさんの弟子を辞めたんだって話になったら、あの人鍛冶職人としては腕はしっかりしてるが教えることが出来ないらしい。そんなまさかと思って、よく聞いてみたらマジだった。まあ、師匠が殴ったりとかはあるよ。俺だって親父に何度も殴られてるし。でも弟の話を聞いたら、そりゃ師匠とケンカになるわなって思ったよ。口で説明できなくてイライラとしてつい手が出るってことみたいだ。しかもお互い体がでかいから被害も大きくなるし。


 職人として優れてるからって、教えるのも上手とは限らないんだな。なんかティルガン親方がますますすごい人に見えてきた。サヒットは親方に叱られたことはあっても殴られたことなんて一度もないって言ってたしな。ジル婆さんはたまに怒鳴り散らすらしい。おっかない、おっかない。職人の工房には危険な道具や高温の炉とか変な薬品とかあるからな。ああいう所でケンカはよくないよ。


 しかしなあアヴィン、なんでお前はコーラさんの事や弟子辞めたあと何をやってたとかを誰にも言わなかったんだよ。まあ親父に言わないのはなんかわかるがせめて母さんになんか言ってくれればいいじゃねえか。まったく。俺はあんまり心配してなかったが、親父は結構お前のことについてはイライラしてたぞ。


 そして今までのことを一切話してないからこのあとウチの親父を説得するのが大変だった。曰く「じゃあ、どこで修行するんだ」、「修行中はどこに住むんだ」、「金はどうする」など。これはまあ、なんとなく聞かれると思ってたのかアヴィンもそこそこ答えは用意できてた。


 なんでもブロガンとだた遊んでたわけじゃなかったらしい。ブロガンはブロガンで商人になりたかったらしいがこの村には商人はいないから、父親から荷馬車を借りてこのセージ村と王子港の間をアヴィンと一緒に回ってものを運んで駄賃を取ってたらしい。はあ。ブロガンのことも全然知らなかったよ。なんせ双子なのにアヴィンのやつここ二年くらいあまり俺と喋らなかったからな。ま、それはもういいとして、アイツら金を節約するために二人で野宿を繰り返していたんだと。なんかその話は結構面白かった。毒蛇が出たり、蜂の巣の近くに知らずに泊まったりと結構無茶してんなあと思ったよ。


 でまあ隣の隣の町、アスダラの町、つまり母さんが育った町だな。ここに鍛冶職人が一人いて、奇特なことにすでに成人したアヴィンを弟子にしてもかまわない、住み込みでも問題ないと言ってるそうだ。だから最後の問題は金だったんだよ。なにしろもう子供じゃないから食べる量も多いし、いくら手伝いをすると言ってもとてもじゃないが鍛冶の手伝いでその生活費を稼げるわけじゃない。しかも町に住んでいるからどうしても親方に渡す金が必要になる。でもうちにはそんな金がない。まさか村みたいに現物支給ってわけにもいくまい。どうするんだ。まあそんなところで堂々巡りだったね。


 だがここでアヴィンとブロガンの今までの頑張りが無駄にならなかった。野宿までして貯めた金が元手になったんだよ。いやいや、やっぱりそんなに努力してもこれから何年かかるかわからない修行に足りるほどの金ではないよ。


 ヤマトが言ってたおいしいお酒、清酒っていうやつだが、あれ信じられないことにどぶろくに細かい灰をぶち込んで、一晩待って、上澄みをとるか布越しするだけでできるらしい。実際にやったらできたしな。だけどこれ今やったら絶対だめだってヤマトが言ってたんだよ。俺の儲けが消えるって。けど、俺はこれを親父たちみんなの前で事故のふりをしてやった。まあその時は親父にぶん殴られたけど、次の日の朝には滅茶苦茶褒められたよ。怪我の功名ってやつにしておいた。


 で、アヴィンが今あるお金でありったけのどぶろくをアスダラで買って、週二回、四の日と九の日の朝早くブロガンがアスダラをでて、昼には隣町でブロガンがそこで酒を買えるだけ買って、四の日と九の日の遅くにうちに来る。そんでその買った酒を家で灰をぶち入んで清酒に変える。次の日の昼にはブロガンに清酒を渡して、五の日と十の日の夕方には隣町でブロガンが購入した分を売って、六の日と一の日のお昼にはアスダラに着いて、アヴィンの分の清酒を売る。この時の差額がブロガンとアヴィン、それぞれの儲けになるってことだ。そんでアヴィンの儲けは本人の生活費と親方へのお礼に充てるってことが決まった。あ、あと親父は清酒を一日一杯分、毎回五杯分貰うことでなっとくした。まあ、アヴィンは次回の仕入れもあるから豪遊はできないだろうし、さっさと鍛冶の修行を終わらせたいと思ってるから真面目にやるだろう。


 正直言って値段はかなり高めに設定しても清酒は売れると思うわ。あれ旨いもん。ただなあ、儲けが全部飛んで行ってしまうことにヤマトがまだなっとくしてないのかこの時からずっと話してくれない。まあ、それはそれで静かになっていいんだけと。でもちょっと寂しいかな、っても思う。


 おそらく実家で最後に食べる誕生日のご飯は美味しかった。母さんがまた海の幸を取り寄せてくれた。親父もアヴィンもボウアも皆も楽しんでいたんだ。ヤマトも美味しいご飯が食べれたんだから早く機嫌直せよ。


挿絵(By みてみん)

日本の清酒とは厳密には違いますね、低温殺菌を施すための火入れをやってません。灰を入れるだけだと灰持酒ってやつになります。日本で大量に清酒が生産され、普通の人も清酒を飲めるようになるのは戦国の終わりから江戸時代初期にかけてですね。


『みてみん』様に地図をアップしました。よろしければ参考にしてください。

https://33111.mitemin.net/i467193/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ