16)7歳 12月5日夜 コンクリートとは?
親方の工房に早速行くが誰もいない。いつもは十人くらいここにいるのに、昼時なのに誰もいないってことは今日は休みなのかな。なので、家のほうに行く。
「つつつ、なんだ、ノックスか。俺たちは今日は休みだ俺を含めてほとんどの連中が二日酔いだからな」
なんか今まで見たことのない親方が見れた。そう、それ、フツーのおっさんってやつだ。家の普段着だからか?
で、ここでため池に水が溜まってないことを説明して。もし家の土間が水をはじくように作ってあるのならそれを利用して、ため池の内側もそうできないか聞いてみた。そうすれば水も貯まりやすくなるはず。
「なんだそんなことか。そうだぞ土間は水をはじくように出来てる。あれは石灰と泥を混ぜるとそうなるんだ。キーラが土については俺よかはるかに詳しいぞ」
泥ならため池の中にあるから、それはいいとして、石灰はどこで手に入るか聞くと。
「そんなのケーシーに聞けばすぐもらえると思うぞ」
「ありがとうございます。二日酔いのところお邪魔してすみません」
「まあ、いいよ、なんか急いでるみたいだったからな。ため池は逃げないぞ」
「本当に、すみません」
親方が手を振りながら家の中に戻り。俺たちも工房の脇を通って道にでる。
どっちに先に行こうか。え、村の職人たち? さっき会った親方だろ、ボウアの師匠のジル婆さんだろ、それに石工のケーシーさんと陶工のキーラさんにあと鍛冶のコーラさんの五人くらいか。と指を折って数えてたら笑われた。いや、いや、しょうがないだろ、指が四本しかないんだから。八進法?なんだそりゃ。十まで数えるのが普通だろが。
ちなみに親方のところには弟子がたくさんいて、あの工房は今十人くらいで回してる、今までにない人数だよ。だから弟子たちは一人前になったら村を出るんじゃないか。ジル婆さんのとこは今婆さんとボウアしかいないが、婆さんの弟子二人がすでに一人立ちしてるし、村にも残っている。が、彼女らはジル婆さんが引退するまで弟子を取らない。キーラさんはまだ若くて、彼女のとこでは四人の弟子たちとで工房を回している。石工のケーシーさんの工房では全部で三人だったはずだ。鍛冶のコーラさんは弟子がいないから一人で切り盛りしてる。
あー、誰が何人弟子を取るとかは村長と弟子の親御さんと職人たちだろ、あと相談役としてなんとなく雰囲気で選ばれた五人の農家の人たちとが集まって決めてるんだよ。だって、多すぎても問題だし、少なすぎでも次の世代のことを考えるとな。ちなみに死んだ爺さんは相談役になったことがあるぞ。親父はないな。親父はどっちかと言うとなんか害獣が出たらその退治の時に呼ばれてたな、あ、もと十人長だったからなのかな。
で、ここがキーラさんの所だよ。ここではみんな働いてるな。あの人だ、あの大柄な女の人だ。
と、キーラさんに土間を作る時の石灰石と泥について聞いたら、まず泥じゃないと言われた。なんでも土と水で、これを混ぜるから泥に見えるだけらしい。で、本当は石灰石も燃やしたほうがいいらしい。え、これってコンクリート? でもそれって火山灰じゃないのか? まあ、それに近いのか。なんだよ、土間ってコンクリートなのか? あれ、でもヤマトの記憶のコンクリートと色が全然違うよな?なんかもうどうでも良くなってきた。
なに泥レンガを思い出したから聞いてみろ?
「泥レンガは聞いたことがあるが、ここらではあんまり使わないな。なんでだろう、雨がたくさん降るからかな」
キーラさんがにやりとしながら
「面白いことを考えるな。試してみる価値はあると思うぞ。ただ用途にもよるな」
そんなに変か? ほう、大雨の降るインドってとこでも普通に使うのか
「作り方は簡単だぞ、粘土と土と水とわらだな、これらを混ぜるだけでいい。あとは火で焼くか太陽で乾かせばいい。まあ、私はあの見栄えがあんまり好きじゃないんだよな。それにこの辺でも需要はあまりないからな、詳しくはない。一般的な作り方を知ってるだけだ。器は絶対に陶器のほうがかわいいと思うが建物はやっぱり木だろ」
親方のところが繁盛するわけだな。ところでお前は器ってかわいいと思ったことがあったが?そうだよな、ないよな。
「ありがとうございます」
「いや、まだなんもしてないだろ。ここに来たからにはなんか頼み事でもあるのかと思ったぞ」
「ハハハ、いやあ実はため池で土が水を吸っちゃったので、その対策のためになにかできないかなと思ってキーラさんに聞きに来たんですよ」
「それで土間か、お前の母親から聞いていたが本当にため池を作ったのか。ノックスの家の土間とかまどを造るときにでも見に行きたいな。ま、この相談は頼み事には入らないな。欲しいものが決まったらまた来てくれ。新居のためにかわいい食器とか土鍋とか作ってやるからな」
「はい、ありがとうございます。でもそういう小物類は恐らく妻が頼みにくるかと思います」
おお、感動したわ。これからは「妻」って言葉が使える。なんか結婚した実感が出てきたよ。うっせえな、オーク妻じゃねえ、かわいい妻だ。お前もうこれ完全に僻みだろう。
「わかった、ここは四の日と九の日が休みだから、って、知ってるよな」
「はい、じゃあ、また後程」
と、別れて石工のケーシーさんの所に向かったがここは休みだった。ひどい二日酔いであまり話したそうになかったので、手早く石灰石を少し貰えないか聞いたら、今なら好きなだけ持って行っていいと言われた。なんでも簡単に手に入るらしい。
「四の日と九の日」ってのはだな、四日、十四日、二十四日、三十四日、そして九日、十九日、二十九日、三十九日が休みだってことだ。職人さんたちは定期的に休みを取って、その日とかに仕入れに行ったり、休んだりしてる。雨とか関係ないからな。村を三日の午後出発して、隣町で一泊して四日の朝に色々と仕入れれば、余裕で帰ってこれるだろ。例え二泊してでも、向こうを五日の朝早く出れば村には五日の昼には帰れるからな。
ああ、言ってなかったな。ここから一番近い町は南西に三十里、つまり三十キロくらいの所にあるんだよ。荷馬車で行けば五、六時間で着くだろ。そこには小さいとは言え湊があるから王子港からの物も結構手に入れやすいんだ。王子港まではそこから歩いて、ええと、さらに隣の町まで三十里で、そこから歩きでまた四十里だから、この村からは都合百里先だ。隣町まで行って、そこから船に乗った方が楽だけど、風の問題があるから待たされるかもしれん。それに船は事故に会う可能性があるからな。だから歩く人も結構いるんだよ。船賃もかかるしな。
ああ、医者か。そうだなこの村にはいないよ。隣町にいるからそれについてはヤマトの所のほうがいいな。話を聞くかぎりあっちはこっちとはくらべものにならないくらい凄い発展していると思うけど、それでも俺はこっちのほうがいいな、と思ったのはヤマトには伝えなかった。
コンクリートと言うよりもモルタルですね。古代メソポタミア文明のころから(今から4000年前)石灰石を加えたモルタルはあります。石鹸も古代メソポタミアで使われていて、4800年前からの原始的な石鹸が発見されています。エジプトはそれから約1000年遅れて使いだしてます。日本では植物の灰汁を使って洗っていて、灰(アラビア語でアルカリ)に脂肪を加えて石鹸にすることはしなかったようですね。あとは平安のころから使われているぬか袋が有名ですね。おそらくこの世界の女性たちも肌にやさしい米ぬかを使っているんでしょうね。