15)7歳 12月5日昼 雨水とため池の諸問題
結婚式が終わった次の日の午前。まだ親方たちは建築現場に来ていない。まあ、今日は休みかもな。俺はあんまり飲めなかったけど、みんなしこたま飲んでたからな。
ブーン、ブーン、ブーン、ブン。バシッ。
うがああああ、なんだこりゃあ~。蚊がいっぱいいるぞ。
え、こうなるかもしれないと思ってた?なんでなにも言わないんだよ! こっちの世界の蚊があっちと一緒じゃないかもしれないと思ったのかよ?ああ、まあ、わかるが。言ってくれればこっちもなんか考えたのに。で、なんでこうなると思ったんだよ。
え、蚊って水に卵を産むの? あと、え、病気? ヤバイじゃん! ちょっと待て。
おりゃ。樽を倒して水を流さないとな。親方たちが来たときに蚊がさらに増えてたら困る。ああ、葉っぱとかも樽に入っちゃってるな。よいしょっと。樽をひっくり返しておかないとな。小さい樽で試しててよかった。しかし、かゆいな。
よし、いいぞ。で、なんだっけ。ああ、わかった。でもさ、蚊って飛んでくるだけだよな。樽をくり抜くとかないよな。うん、まあ馬鹿なこと聞いたとは思ったが一応な。なら樽に蓋すればいいんじゃないか? あ、水を入れる竹筒をどうするかか。隙間が少しでもあったらダメだよな。じゃあ、布はどうだ? それなら隙間なく樽に蓋できるし、竹筒の周りもぴったりとできるぞ。水を取り出すときに面倒になるのか。うーん。え、ビール樽? ビールってのはこの辺では飲まないが。ビールじゃなくて樽の方? あ、そうか蛇口ってのを樽に直接つけるのか。早速サヒットに頼む仕事が一個できたな。水漏れのしない蛇口着きの樽か。これ作れるようになったらいろいろ売れるんじゃね?
まあ、そういうな。別に俺たちが儲けなくてもいいじゃん。サヒットが儲かったらそれはそれでいいことだよ。俺の親友で未来の義理の兄だぞ。家族が貧乏でいつもカリカリしてるのはいやだよ。
で、ほかになんか思ってたけど言ってないことってあるか?へ、雨水が嫌? なんで? 空から降ってくるんだから「キレイ」だろうが。え、屋根に落ちた鳥のうんちも入ってくるだって。うおおい。お前なあ。あ、でもなんとなくわかるぞ。うーん、どうしよう。お前も少し考えてくれ。おい、なに諦めてんだ。
うーん。今度は樽に蓋みたいな簡単な解決方法が思い浮かばない。なんかお互い静かになってた。
もうしょうがないから樽を二個用意して。雨が降り出してから集まる最初のほうの雨水は一つの樽に集めてそれは農業用とかに回すか。その樽がいっぱいになったら、もう一つの飲料用の樽に水を入れるとか?え、それでもちょっとやだ? なんだよ、じゃあその外になんか案があんのか?ほう、浄水器なんてものがあるのか。なに活性炭?なんだそれ。お前も良く知らないじゃないか。まあ、でも炭なら簡単に手に入るから問題ないぞ。これは作ってみるしかないな。
でもこれで二番目の樽に入った水は手を洗ったり、洗いもの、そして動物用に使えるな。で、さらに二番目の樽から取った水を浄水器でろ過すると俺たちが使う飲料水と料理用の水ができると。樽が最低でも三つ必要になるが、ま、これなら誰も問題ないだろ。
あ、あと流れてくる葉っぱはどうすんだ? ほう、それなら細竹で格子を作れるな。そしてそれを雨どいにおいておけばいいな。蚊って、竹筒の中を通ってまで樽の水に行こうとしないよな?ヤマトも分からんか。まあそこはあきらめるしかないな。飲む水はろ過するんだし。
しかし、丘のこっち側に川が無いのって本当なんでなんだろう。お前も分からないか。まあいいか。よし、ため池を見に行くぞ。
そして丘に行ってため池をみたらため息がでた。うるせえ、寒くねえよ、と言うか冗談を言ってるつもりはなかったのお前もわかるだろうが。
ため池には水がほとんど溜まっていなかった。一応雨が降って水がため池に流れた形跡は見えるのに、水があまりない。土が水を吸ったのかもしれない。
どうしよう。どうしようもない? いや、いや、いや、待て。考えろよ。とにかく水を貯めないといけないんだよ。水を貯める。水を通さない。水を通さない土。水をはじく土? 土間の土? なあ、土間の土って特別なのか? なんで知らないんだよ? ヤマトの世界の知識を役立てろよ。こっちの土間がどう出来てるか知らないから答えられないだあ。そうか、よしわかった。いったん家に帰って母さんに聞こう。
と、そのあとヤマトとつらつら話しながら、体のあちこちを掻きながら帰ったら一時間があっと言う間に過ぎた。そして昼食になり母さんに土間のことを聞いたら。
「あらそんなの知らないわ」
って答えが帰ってきた。その瞬間俺もヤマトもやる気を失ったよ。
「あー、この家は俺が死んだ親父、つまお前の爺ちゃんから引き継いだから、母さんは知らなくて当然だぞ」
「じゃあ、誰に聞けばいいんだ?」
「そりゃあ、棟梁のティルガンさんとかかな」
「あ、そうか」
そうだよな、親方なら家を建ててるから知ってるか。よし早速昼食が終わったら、親方の家にいくしかないな。明日まで待てないわな。
「兄貴、棟梁のとこに今からいくのか」
「ああ、そのつもりだ」
「午後は俺といっしょにちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど」
「悪い、また今度にしてくれ、話は夕方にも聞くぞ」
「わかった」
アヴィンがちょっと不満そうだな。これが終わったら話は聞くから。今は乾季だから次いつ雨が降るかわからん、だから今はこれを先に片づけたい。