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13)7歳 12月4夜 結婚

 十二月に入り、家の完成が近くなったので、ボウアと俺の結婚式が行われた。この村では新郎か新婦の家に集まり、両家が持ち寄った牛を計二頭、近所の解体が得意な人の所に持って行って解体を助けてもらい、その肉をバーベキューみたいに焼いて、みんなで祝う。俺は朝から結婚式の準備で家にいた。あと招待状なんてものは無いけど、こういう日には村のほとんどの人がくる。だから大体六百人分の飯を一応用意しなきゃならない、余った分は持ち帰ってもらうからな。牛二頭で大体四百キロの肉が取れる。だから実際に六百人が来てもちびたちが多いから実際は一人一キロくらいの肉が食える。それにコメと野菜も用意しておかないとな。ようするに食べ放題だよな、食べきれないから。この日だけは夕方から始まって夜までかがり火を焚いてどんちゃん騒ぎだ。酒とヤシの実は基本みんなで持ち寄ってくるからこっちで飲み物を用意する必要はあんまりない。


 オーク、オーク、うるせえ! もう慣れたと思ったのになんだよ。え、本当にオークにしか見えない猪人がいっぱいいる? 例えばだれだよ。あれはレニーだよ! 従兄弟だよ! 叔父さんの息子だ、俺よか二歳年上のレニーだ。そうかヤマトの世界のオークってのは鼻があんなに上がってて太ってるのか。ちょっと太ってるのは恰幅がいいから悪いことじゃないぞ。あそこまで鼻が上がってるのはこっちではそんなにいないけど、別に不細工にはならんぞ。こっちでは男で牙がないやつがいたらヤバイ、色んな意味でヤパイ。あとどっちかと言うとお前の世界で好まれてる細面? ってやつは好かれないだろうな。こっちの男はどっちかと言うと牙とがっちりした顎が重視されるな。そうそう縄文人みたいに顎が、って俺たちは蛮族じゃないぞ。


「ボウアとノックスの結婚おめでとう! 神々の祝福があらんことを! そしてこれからも良く食べ、良く寝て、良く戦って、良く生きてくれ! カンパーイ!」


 夕焼けになったところで村長が結婚式の定型句を述べる。そんでみんなも一気にグイグイ飲む。庭にじかに座ったり。丸太に座ったり、いろんなとこで本当にガンガン飲んでる。みんな酒が好きだなあ。まあ、俺もだけど。もっとも、俺たち二人だけはテーブルに椅子で挨拶の繰り返しだからあまり飲めないけど。


 ああこれは祝いのときに食べるモチモチとしたコメだ。そう、モチゴメだよ。なにがっくりしてんだ。いいじゃん美味しいんだから。おー、うれしい、エビの辛いスープだ、結婚式だからこそだな。へー、トムヤムクンか。うん、こっちはオクラのカレーだな。ああ、そうだな。いつものカレーはちょっとサラサラしすぎてるからあんまり結婚式では出ないな。ねばねばとした食べ物をたくさん出すのは結婚式の基本だろ。なんでって、そりゃこれから末永くくっつくようにだろ。いいじゃないか、それにこれらがなかったら肉が多すぎて年寄り連中が嫌がるんだよ。


 そうか、こいつはどぶろくってやつに似てるのか。えっ、これならもっといいのが簡単にできるだと? 本当かヤマト? よしわかった、結婚が終わってからそれを絶対にする。


「兄貴、改めておめでとうな」


「おうありがとうな、アヴィン」


 ちょっと酔ってんな。まあこいつはこっちの世界の基準ではハンサムだし女の子にはもてるし、すぐ新しい彼女も見つかるだろう。牙も顎もしっかりと大きいし、俺の弟なのに俺より背高いし、鼻もでかい。おれは牙がそこまで大きくはないし、鼻もあまり大きくはない。猪人社会では男で鼻がでかいやつはアソコもでかいと言われてる。でもそれはただの迷信だ、俺がその証拠だ。ヤマトも頷いてら。


「おめでとうな、このやろう」


 弟の遊び仲間のブロガンは完全に出来上がってるな。ああ、チャラ男か。ハハ、言い得て妙だな。


「ハハハ、うらやましいだろうお前たち」


「かあ~まったくだぜ、お前ももっと飲めよ」


「ああ、ありがとうな」


 ブロガンから酒を注いでもらい、それを一気飲みする。


 なんでだって? そりゃ俺が俺たちの世代では比較的普通に結婚できたからだよ。だから、何年か前に俺らが子供だったころ流行り病があってそのとき村の子供達が結構死んだの。半分以上な、しかもなんの因果が女の子たちが多かったんだよ。ウチの妹達もだよ。だからこいつらは村の女の子たちが大きくなるまで待つか村の外で嫁さんを見つけなきゃならないんだよ。この話はもう終わり。


「ボウアちゃん、俺にもだれかいないかね~」


「いい人がいるか探してみるわね」


 にっこり。あ、これお前のいう営業スマイルだ。でもキレイだな。いつもしないイヤリングと髪の組み合わせがいい。


「ありがとーう、もう本当にこの兄弟は使えなくてさあ。特にこいつなんかモテるくせに興味ないとかいいやがって、だったらなんで俺に紹介しねえんだ」


 あ、矛先がアヴィンに向かった。ひとしきりこの酔っ払いと喋った後、アヴィンと一緒に千鳥足で離れていくブロガンを見てたらボウアが小声で諫めてきた。


「煽らないでよ」


「ああ」


 俺よか大人だな。反省は、うん、そんなにしてないな。ブロガンの野郎ふらふらとあちこちで遊んでばっかりいて堅実な子に好かれるわけないだろ。


「おめでとうボウアちゃん、ノックス」


「あ、親方ありがとうございます」


「ありがとうございます、ティルガンさん」


 マンガ肉持ってるって?なんだそりゃ。


「いいか、今回俺はケチ臭いことは言わん。この結婚のあと半年は頼み事を聞いてやるからな」


「本当ですか!?」


「え、いいんですか?」


 俺とボウアがほぼ同時に返事をした。


「ああ、問題ないぞ、あのロウ板とアラ数字は本当に役に立っているし、板ぶきに雨どい、そしてため池ってのも面白い。今回の仕事は俺もいろいろ勉強になってる。それにな、お前たちの頼み事はどうせサヒットにやらせるから実際に手を動かすのは俺じゃない。せいぜいお兄ちゃんをこき使って、鍛えてやりな」


 ガハハと笑って、マンガ肉食いながら行ったわ。


 新婚の夫婦は結婚のあと一か月くらいは村人に色々な頼み事ができるんだよ。まあ、常識の範囲内だけどな。だからたとえば、鍬にはめる鉄製の刃が必要になったら鍛冶のコーラさんに言えばタダで作ってくれる。まあ、そうだなこっちの世界のご祝儀だな。そうだよ村では基本的に現物支給と物々交換だな。お金は金貨とか銀貨があるけど、あれは王子港とかから来た商人と取引するときに使うもんだ。


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