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12)7歳 11月25日 ため池造り

 あのあと村長に頼んで人手を増やして若衆四十人で三日間かけて二十メートル×二十メートルのため池を作った。池の周りを深さ一メートル分掘りだした土で固めたら上から下まで二メートルを軽く越える容量約千トンのため池ができた。正直に言って、始める前はこんなに盛り上がるとは思わなかった。また改めて親方のすごさがわかった。あの人掘った土の分量まで見越して、色々と設計してくれた。周りの地形と盛り土を利用して、あの辺りの雨水をため池に誘導して、さらに大雨のときにため池の水があふれても大丈夫なように排水溝と、農水用の取水口まで作ってくれた。ため池のためだけに牛を一頭を潰すはめになったけど、正直、十分得したと思う。千トンの水があれば雨が少なくでも一町の田んぼに余裕で水を入れられる。親父、悪い、まだ家の建設と結婚式が残ってるのに。これは俺のところで牛か馬を四頭育てて親父にあとで渡さないとな。


 あと途中でヤマトがなんで魔法がないんだよとか言ってたが、んなもんあるわけないだろ。というかアイツの世界の物事の単位のほうが魔法みたいに便利だよ。水を容積と重さの基準とか単位にするとか発想の方がすごいわ。だってそれなら袋とかの容積も正確に測れるからな。こっちでは王国のお金の重さが単位になってるから重さに関しては結構適当だ。あと一角と日本の昔の一町がほぼ一緒だとさ。今になって思いだしたらしい。それで俺も思い出したが、一歩ってのは俺みたいな普通の猪人が歩いて、右足から右足までの距離がちょうど一歩くらいだから一歩だと親父に教わったんだっけ。日本だとこの距離が半間だとさ。なんで半分?そんでなんでその半間が三尺になるんだ? メートルもあるしわけわからん。まあいいや、でもこういう単位って人の生活に密着してんだな。


 ため池を作ってすぐにいいこともあった。男四十人、三日で、容量千トン、と聞いて村長もこれなら丘の向こうのほかの土地も農地としてなんとかなるかもしれないとか言ってた。だからこれからあの辺も人が少しずつ増えるかもしれない。俺とボウア二人だけのため池ではなくて、これからの開拓の指針となれたならちょっと嬉しい。


 家の方は当初の計画とは違って、敷地の西の端の方にあるちょっと高いところに作ることにした。このあたりなら西の丘が一旦下がったあと、ちょっとまた上がってもいるので、自然に高くなる。どうせ雨水で飲料水を確保するならため池は関係ないし、大雨の時のことを考えるとこっちのほうがいい。と言うことで決まった。まあ、親方の意見に従っただけだな。


 建設は順調で、さすがは親方としかいいようがない。高床式建築にはヤマトが感心してた。俺はそこはあんまりよくわからなかった、だってある意味普通だろ。ただ今回切った木は実は保管されていて、現在建築に使っている木材は去年か一昨年切りだされた木材を使ってると聞いたときは驚いた。じゃあ、なんで選んでたんだと思ってたら、後でサヒットが切った木と同等の価値の木材と交換してるんだと教えてくれた。頭の中で在庫管理もしてるのかってヤマトが驚いてたよ。


 そして板ぶきの屋根に竹の雨どいを付けたあと、雨降ったときには感動したよ。雨水が一か所に集まって樽に流れるんだぞ。これからこの家では井戸から水をくみ上げる必要がないんだぞ。これ絶対にボウアも喜ぶぞ。ヤマトのほうがふーん、で済ませてたわ。なんだアイツ、自分の発想なのになんで感動しないんだよ。


 そしてその雨の時一緒に見てたサヒットから教えてもらったが親方は土木や大工仕事以外にも木工全般もこなす人だった。ティルガン親方は本当にすごい。ていうかサヒットがなぜあの人に弟子入りしていながらも、大工仕事に消極的なのか聞いたら、計算が難しかったからだとさ。まあ、そうだよな、アラビア数字を知る前だったら計算間違えも簡単にしちまうよな。木工とか家具とかだったら作りながら、見て、触って、体感的にわかるから問題はない。が、土木工事や家の建築みたいに大掛かりなものになったら絶対に計算しないといけないよな。


 だからまあ、折を見てアラビア数字を教えたら、そりゃあ感動したよ。下手したら俺の時よりも感動してたかもしれん。これを知ったあとサヒットは修行をもうちょっと延長させてくれって、親方に頼んでたよ。今は土木と大工の仕事のほうも本気で勉強してる。


 そして親方には村では普通しない板ぶきの屋根にしてもらったので、そのお礼もちゃんとした。サヒットと一緒にロウ板をヤマトの指導の下作ってそれを渡した。もっとも古代ローマのロウ板は後々改良されていたので、その改良版を渡した。蝶番で板を二つ繋いであるので閉じれば持ち運びやすいし、鉄筆も中にしまえるし、ロウの表面が傷つかない。確かにいいわ。豪華なのは象牙で出来て装飾とかも凄かったらしい。俺たちが作ったのは木製の素朴なものだったので親方の仕事に見合ったお礼になったかどうかはわからないが、サヒットによると重宝してくれてるとさ。実際俺もノートとしてよく使ってる。これで紙は清書用として取って置けるからな。これボウアと家族にも作るか。


 ヤマトはまだ生活に慣れないらしく未だに文句を言ってるが、俺はアイツが来てからのこの一か月でかなり色々と変わってきていると思う。


挿絵(By みてみん)

『みてみん』様にまたアップロードしました。家が西の丘の方にあります。

https://33111.mitemin.net/i466823/

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