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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蝉と1週間。

作者: 数野 衣千

夏っぽいの書きたかった厨二の夏……に書きました


せみと1週間。


数野 衣千



あなたは気になった人に声をかけることができますか?

声をかけられた時その人とお話しできますか?

あなたに届いたその声をあなたはどうしますか?



新緑が眩しくなってくる季節

色々な生き物がざわめき出す暑い暑い夏がもう少しでやってくる

やがて聞こえてくるであろう蝉の声が今から待ち遠しい

私達にとってあの夏は特別なもの

私にとって夏は彼女の存在を思い出させてくれる

甘くて苦しくて暑くて煩くて大切な季節

肺の中がザワザワと痒くなる……



中学二年の夏休みを私は病室のベットで過ごしていた

昨日の晩久々の喘息の発作を起こした私は、慌ててしまい吸入器をベットの隙間に落としてしまった。

どんどん狭くなっていく呼吸にザワザワムズムズする肺に身を縮ませていた。

ゴホゴホと咳き込む音とヒューヒューという呼吸の音が一人きりの静かな家の中ではとても大きく感じた

頭に回る酸素が薄くなったのか狭くなっていく視界

真っ暗な世界の中に居たが目を覚ますと

見慣れた可愛らしい天井と嗅ぎなれた消毒液と薬の香り


あぁ、また病院か……

パパとママは……居ない……仕事に行ったか……

また迷惑かけちゃったなぁ……


共働きの両親は仕事が大好きで私は、仕事で疲れているであろう両親に手間をかけさせたことに申し訳なく思った。


コンコン


先生が入ってきた。

しばらく話して先生は入院するようにと微笑んだ、そして入院が決まった。


私はその日、壁に飾られている画用紙のひまわりをボーっと眺めていた。


「おーはーよ!」


とても元気な声が後ろから聞こえた。

振り返ると私より小さい女の子が居た。

声の主は元気な挨拶に対して不釣り合いな、陽の光をあまり浴びていない真っ白な肌、少し茶色がかった長い髪はサラサラとしている。何となく儚げな雰囲気の少女だった。

彼女に見惚れていると、じっと私の顔を見てニッコリと笑った。


「またね!」


元気よく言うと少女は早足で去って行った。

私の周りには他に人が居ないので、もしかしたら私に投げかけた言葉だったのかもしれない。

壁を眺めるのにも飽きてきたので少し外を散歩する事にした。

エレベーターで降りて、エントランスを通り抜け。

自動ドアをくぐった瞬間もわっと熱い空気が肌を包む。蝉の声が聞こえた、日差しが眩しい。

割と人が歩いていて何となくゆったりできない。花壇の花を眺めながら人の少ない方へと向かって行って、病院の裏手の気が生い茂ってるところに来た。

そこに来ると沢山の蝉の声が声に包まれ何だか振動で、肌が震えているような感覚だ。

沢山集まった声、こんな無数の声の中、蝉は番を見つけるのか……

どれも一緒に聞こえる声でも、声の届いた蝉には特別な声なんだろうなぁ。

フラフラ進んだ木々の間、緑と土の匂いが熱い風とともに香ってくる。

蝉の声に包まれて独りを感じる。

ふと見た木に蝉の幼虫が居るのをみつけた。

抜け殻でなく中身の入った幼虫が珍しかったのでしばらく眺めていたが、特に動くことの無い幼虫。

……腕に痒みを覚えたらどうやら蚊に刺されていたようだ。

戻るか……

病室への道を戻っていく途中気の隙間から誰か歩いていくきがした。

そちらを見ると誰も居なかった。

気の所為なのかなと特に気にすることなく病室戻った。



朝食の後また壁のひまわりを眺めていた


「おはよう」


またあの少女だ、また周りには私しか居ない


「……お……おはよう」


少女は一瞬ビックリした顔をしたあとニッコリと笑った。


「ふふふ……またね!」


勇気を出して出した返事に少女は嬉しそうに微笑んだ後、ヒラヒラと手を振り踵を返しすたすたと軽い足取りで去って行った。


……なんだったんだろう


2回しか遭遇してない「おはよう」「またね」2回

たったそれだけだけど、元気なその声が頭の中にとても残る。

印象的なその声。

「おはよう」「またね」なんて沢山交わしてきた言葉なのに、彼女の言葉は特別な気がする。

同じに聞こえる言葉だけど同じじゃない。意味が違うわけでも無いのに。彼女から私に届いた言葉特別。



次の日の朝、またひまわりを眺めていた

ここで待ってたら彼女の声が聞こてくるきがする


「おはよう」


来た


「おはよう」


ニッコリとまた彼女は笑った、そして手を振って


「またね」


「うん、またね」


去っていく彼女の後ろ姿を眺めていた。

揺れるサラサラの髪

パタパタ遠くなっていく足音

存在を認識して浮き彫りになっていく1人の少女



次の日もまたひまわりを眺めていた

今日はなかなか来ないなぁ

壁のひまわりの花びらの数を数えて暇を潰している


「おはよう」


「もう……こんにちは、だよ」


「ふふふ〜……こんにちは」


「またね!」


「うん、またね」


手を振る彼女に私も手を振り返す

今日はこんにちはだった、昨日よりお話しした……


お昼ご飯の後散歩に出掛けた。

ウロウロしてたら、彼女に会えないかなぁ

病院内をウロウロしたけど会えなくて、外に出てきた。木の所に来た。

相変わらず蝉の声が響く

雑草と枯葉の、舗装されていない地面に踏み込み少し中へと進んだ。何となく周りの建物が隠れて見えないくらいまで進むと、木々の間から絶え間なく降り注ぐ蝉の声が飽和する


ミーンミンミンミンミン

ミーンミーン


なんとなくだけどいろんな声が混ざってこの音の波になってる。ひとつの場所を特定はできないしどこから聞こえてくるとか分からないけれど聞き取れる何個かの声があった。


「ミーンミンミンミンミン」


なんとなく他の蝉の声より耳に残る声がした

他の蝉には比べると鳴くのがへた?


「ミーンミンミンミンミンミーンミーン」


……へた?という訳では無いな、どちらかと言うと私が聞く分には心地いい声。

なんだろう、なんでこんなにこの蝉の声は耳に残るんだろう?

聞き取りやすいその声の主を探してみることにした。


「ミーン〜♪」


……?なんだろう、鳴き声が歌に聞こえてくる。あきらかにリズムを刻んでいる。


〜〜♪〜♪♪


……ん?これ、聞き覚えがある。ちょっと前に流行った曲で題名は出てこないけど内容はすごく直球なラブソングだった気がする。

大きな木、そこに近づくにつれその声はハッキ歌に聞こえる。

……というか、人間のこえだよね?すごく蝉の鳴き真似が得意な人が蝉の声で歌ってるよね?

木に近づくと

彼女だった

数回言葉を交わしただけ、でも儚げでなんとなく不思議で幻想的に思っていた綺麗な彼女の人物像。


……は?なにやってるの?ばかなのこのひと?


木にしがみつき蝉の声で歌う姿にコイツの幻想は崩れ去る。

しばらく唖然と眺めていたらフルコーラス分歌を聞いていた。

歌が止まると木に抱きついていた彼女はひょいとこちらを向いて綺麗な笑顔を浮かべ手を振ってきた。

手を振り返す木から離れ、パタパタと私のもとへとやってきた。


「ねーねー!」


「あっ、はい。」


「あの木の樹液すごく甘くて良いの!」


「えっ?」


「メープルシロップみたいな匂いで甘い匂いでね〜」


しばらく樹液について語る彼女の話を聞いている。

意味わからない事を語るけどその笑顔がキラキラしてて目に焼き付く。


読んで下さりありがとうございます

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