コンビニアルバイト
「あと10分か…」
コンビニバイトもあと僅か。
仕事終わりというのはやる気が出る。もうそろそろ終わりだと思うと何故か元気が湧いてくる。矛盾している気がするが、気のせいだろう。ま、今日のアルバイトはこれで終わりだし、帰ったらゲームができるからそれが嬉しくて楽しみなんだよ。
「いらっしゃいませー」
「お弁当は温めますか?…はい了解しました」
「計580円となります。お支払いは?…スイカで、かしこまりました」
「ポイントカードお返しします。ここにタッチをお願いします」
「レシートは…不要ですね。ありがとうございましたー。次の方どうぞー」
後輩のアルバイトとレジを回し、並んでいた列がひと段落したところで声を掛けた。
「んじゃ、俺上がるから。あとお願いね」
「は、はい。お疲れ様でした」
「ん、お疲れ」
この時間帯は人少ないし、しばらくすれば違う先輩も来る。それまでなら1人でも大丈夫だろう。
制服から私服に着替えて、レジ横の扉から外に出ようとする…と、レジ周りに妙な男3人衆がいた。
「ねぇーかわいいじゃん君」
「バイトの後、俺らと遊びに行かない?」
「え、ええと、その…いま金欠で…」
「大丈夫大丈夫、俺たちが全部奢るからさ」
「あ、あの…」
…なんと古風な。店員にナンパなぞ。
後輩の子に話かけているのは3人のチャラ男…いやこれはチャラ男に失礼か、3人の下品な男だった。大学生のようで、明らかに高校生な後輩を遊びに誘っている。今時いるんだな不良って…と、どこか感心してしまう程だった。
傍から見たら普通にヤバい絵面だし、仕事の妨害は通報ものである。俺が介入するまでもなく解決するだろうが…その男3人衆はレジ横に寄りかかって後輩の子に話しかけていた。ただでさえ狭いレジ横の通路が、男の無駄にでかい図体によって塞がれていた。
…これでは帰れないではないか。
仕方ない…男達を押し退けて出口に向かおうとすると…
「そこ邪魔、どいて」
「ああん?誰だテメェ」
「あ、この人は…」
「あれ?もしかしてこの娘の彼氏?」
「い、いえ…」
「は?なんだ彼氏持ちかよ。ツマンネ」
「はぁ…帰るか」
「え…えぇ?」
男3人衆は俺の姿を確認した途端、興ざめしたような顔をしてコンビニを出ていった。
「…何だったんだ?」
「あ、あの…ありがとうございます。助かりました」
「俺は何もしてない、ただ横を通ろうとしただけ。それに、あの手の類いは直ぐGMコー…じゃないや店長コールしなよ」
「あ…はい。ごめんなさい…」
「気をつけてね。…ってかあの手の輩って結構いんの?コンビニ以外でもさ」
「あ、はい。たまに『遊ばないか?』って声をかけられます」
「ふーん…ま、美形だし可愛いから男は放っとけないんだろうね」
「かわっ…!?」
「あ…ごめん。今のセクハラだった。忘れて欲しい」
俺の迂闊な発言のせいで後輩は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
…これではナンパ野郎と同類では無いか。
「…じゃ、また明日ね」
「…は、はい。また明日…」
まだ頰がほんのり赤い。俺の軽口に怒っているのだろうか。
俺は手先は器用だと自負しているが、話術の方は下手くそである。ここから会話を立て直す方法を知らない俺は、とりあえず戦略的撤退することにした。
コンビニを出る間際、後輩の呟きが聞こえてきた。
「『可愛い』だなんて…忘れるわけ無いじゃないですか…」
…強請りのネタにする気かな?
少し怖くなって、その日は若干早足で駅に歩く俺だった。




