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おまけ:「お義父さん」 (3)

 戻ったリビングにはおばさんがいて、ソファに横になっているおじさんに毛布をかけているところだった。

 おばさんは一緒に飲んでいなかったのに、なんでここにいるんだろう。


「おじさん、寝ちゃったんですか?」

「ああ、英人くん、戻ってきたのね。この人、お酒飲むとすぐ寝ちゃうのよ。今日は英人くんと話していたから、なかなか寝なかったみたいだけど」

 つまり、僕が千里を寝かせに行った後、タイミングを見計らって毛布をかけに来たと。


 おじさんも飲んですぐ寝ちゃうなら、千里が初めてだからじゃなくても、今日は家飲みになっていたんだろうね。


「一度寝ると一時間は起きないんだけど、英人くんはどうする? まだ飲む? 泊まって行くならここに布団を敷くけど」

「おじさんが寝たなら帰ります。千里も寝ちゃったし」

「そう? わざわざ来てもらったのに、悪いわね」


 おばさんは僕を見送るために玄関まで出てきた。

「英人くん。これからも千里のこと、よろしくね」

 靴を履く僕に、おばさんはそう声をかけてきた。


 おじさんのお酒に付き合ったのに、千里の方をよろしくですか。

「おばさんは、僕が千里と付き合っているのは知っているんですね」

「もちろん。千里から聞いてないけど、見ていればわかるわ」

 苦笑されてる。だまって付き合っていたんだから、親としてはそりゃあ引っかかりもするよね。


「成人式の写真は本当に仲よさそうだったわよね。あれ、スマホの待ち受けにしてるのよ」

 あれがくっつきすぎていてバレた……わけじゃないか。わかっていたから、僕達を並ばせて写真を撮ったんだろうね。


「正式にあいさつに来なくてすみません」

「やあね。以前から仲よくしてくれていたんだし、別にいいのよ。いつまでも千里がめんどうかけていて、ごめんなさいね」

 ふふって笑うおばさんの言い方が軽い。


 なんか……誤解されているような。


「おばさん。彼女には僕の方から交際を申し込んで、真剣にお付き合いをさせていただいています」

「あ……あら、そうなの……?」

「気の早い話なのは承知ですが、将来は彼女と結婚できればと考えています」

「——結婚っ……!?」

 おばさんは驚いて声がひっくり返っていた。


 友達付き合いの延長程度だって誤解されたままでいるのもシャクだから、ストレートに言ってみたけど、さすがに気が早すぎたかな。


「突然こんなこと言ってすみません。でも、僕は本気です」

「い……いえ、おばさんの方こそごめんなさいね。英人くんが千里のことをそこまで考えてくれていたなんて思ってなかったから、ちょっとびっくりしちゃって。……そうね、千里のことをよく知っている英人くんなら、誰より安心よね」

 驚いた顔のままだけど、僕の本気はわかってくれたみたいだ。


 誰より安心って言われたのはちょっと誇らしい。昔からの付き合いの中で、おばさん達にも信頼されるだけの行動はしてきた自信があるからね。

 だから、千里さえその気なら、結婚までの障害はないと思っていたんだけどな。


「おじさんは……知らないんですよね」

「そうねえ、はっきり言わないと気がつかないところがある人だから。ツーショットも見せたんだけど、ただの成人式の写真としか思わなかったみたいで」

 意図的にスルーしてる……わけじゃないよね。


「そういえばね、夫は振り袖の写真より、英人くんから借りた袴姿の方が気に入ってよく見てるの」

 借りた、か。袴を着た写真をおじさん達に見せるって言われた時は冷や汗を掻いたけど、僕が着せたとはさすがに千里も言わなかったみたいだね。


「内心では今の千里を受け入れられていないのかしらって心配していたけど、あれかしらね、父親特有の照れみたいなものかしら。そのうち、千里は嫁にやれん! ——とか言い出したりしてね」

 おばさんは笑っているけど、僕は笑えないです。さっき、その片鱗が見えていたし。


 本当に冗談じゃないって。本人は結婚まで意識してくれているのに、気分とやらで反対されたんじゃたまらないから。


 僕は家に帰るまでずっと、おじさんの攻略方法に頭を悩ませていた。





 後日、あの時のことは夢じゃないと明かして、千里におじさんのことを相談してみた。

 そうしたら、付き合っていることを両親にちゃんと伝えたいって、感極まってボロ泣きされながら頼まれた。


 で、おじさんが酔っていない時にあいさつに行ったら、あっさり交際を認められて、男泣きしながら両手を握られて、千里をよろしくされた。


 これで僕達の交際は公認になった。千里との未来はきっと安泰だ。


 でも、千里と歩む人生も大事だけど、まだ叶えられていない夢がある。——あの人を超えるという夢が。

 僕はいつかきっと、あの人を超えるような研究成果を残すんだ。

 同じ人を目標にこの道を目指している、千里と一緒に。

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