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僕が知られていたこと (3)

 永井さんと田口さんと別れて、三上さんと一緒に移動中、三上さんと約束していたことがあったのを思い出した。


「三上さん。あの約束は無理になっちゃって、ごめん」

「約束?」

「僕が男に戻ったら、一緒に服を買いに行こうって」


 最初、不思議そうな顔をした三上さんだったけど、僕が服って言ったらすぐに思い出したみたいだった。

「そういえば、そんな約束もしたね。……もしかして、それで悩んだりした?」

「ううん、そんなことなかったけど」


 あの後すぐに英人に避けられるようになって、英人のことで頭がいっぱいで、今まで忘れていたぐらいだし。

 約束した時はすごく楽しみだったのに、すっかり忘れるなんて不思議だな。思い出した今も、やっぱり戻りたいって思わないし。


「よかった。私が気の早いこと言っちゃったせいで、井原さんの人生なのに悩ませていたならどうしようって」

「ううん、平気だよ。……でもよかったら、また服買いに行くの付き合ってくれる?」

「うん。また一緒に遊びに行こうね」

 三上さんはほんわか笑った。


 よかった。約束が無理になって、三上さんをがっかりさせちゃったらって思ったけど、気にしてないみたい。それに、また一緒に遊びに行こうだって……嬉しいな。


 自分で思っていたより、みんなに言えずにいたのが苦しかったみたい。気になってる映画の話をする三上さんを見ながら、胸が軽くなっているのが自分でもわかる。


 どうしてあの時、決めたことをみんなに言えなかったのかな。なんだかこわくて言い出せなくて、そのままだまっていたけど、きっとあの時に言っても、今日みたいに受け入れてくれたよね。

 遅くなったけど、大事なことを大事な友達に伝えられて、本当によかった。





 その日の帰り道、英人は僕と一緒に歩きながら、なんだかずっと不機嫌そうにしていた。


「……大地」

 どうしたのかなって思いながらむっとしてる顔を横目で見ていたら、英人が僕を呼んだ。


「声、大きすぎ」

「僕、声大きい?」

「今じゃなくて。……昼間の」

「昼間?」

「田口さんの話」

 昼間に田口さんの話って、僕、なに話してたっけ?


「だから、田口さんの好きな人がどうのって」

 どの話か僕がわからないでいたら、英人がもうちょっとヒントを出してきた。


 田口さんの好きな人って、英人だったんだよね。……もしかして、昼間に僕が大きな声出したのって、食堂で田口さんの好きだった人を聞いた時のあれ?


「そっちのテーブルまで聞こえてたの?」

「聞こえた。おかげで小島達にいろいろ言われたよ」


「……英人は知ってた?」

「知ってたもなにも……」

 英人は言いかけて、渋い顔ですぐにだまっちゃった。


 そっか、僕は知らなかったけど、遊びに誘われたりしていたんだっけ。田口さんは僕が見ていないところで英人を誘っていたんだ。……やっぱり、田口さんっていじわるかも。


「……だから、彼女がいるって言ったから」

「えっ?」

 僕のことだよね? か、彼女だなんて……。

「大地だとは言ってない」

「……そうなんだ」

 なんか残念。


「……言えるもんなら言いたいけどさ……」

 がっかりしていたら、僕より残念そうな顔で英人が呟いた。


 そっか。僕と英人が付き合ってるってわかってても、いつか僕が戻ると思っていた永井さん達が心配していたぐらいなんだから、僕と別に仲良いわけじゃない人にまで僕との話はできないよね。


「ねえ、英人。僕のこと今度、小島くん達に紹介してくれる?」

「大地? でも」

「今日ね、永井さん達にみんな、……僕が薬を待たないで女性としてこのまま生きていくって決めたことも、あと……英人と付き合ってることも話したから。もう平気だよ」

「そっか。話したんだ」

「うん。だから……」


 ただ話していただけなのに、急に僕の目から涙がこぼれた。


「あ、あれ……?」

 目元をこすってもとまらなくて困っていたら、英人が僕の頭を抱えて顔を隠してくれた。


「なにか言われたの?」

「ううん。……やっと言えて、安心したからだと思う」

「そっか」

「言ってもね、みんなの態度、なにも変わらなかったよ」

「そっか」


 変わらなかったってことは、僕と永井さん達との関係って、とっくに女の子同士になってたのかな。もしかして、僕が英人の妹みたいって言ってたの、みんな、とっくに僕のことを女の子だって思っていたからだったのかな。


「好きだよ、大地」

 耳元でぼそっと言われて、顔が熱くなった。


 英人ってば、どうして今そんなこと言い出したのかな。もしかして、僕をなぐさめようとして?

 びっくりして涙は一瞬とまったけど、嬉しくてもっと出てきちゃったんだけど。どうしよう、とまらないよ。


「……僕も、英人が好き」

 涙声で小さくつぶやいたら、頭を抱える腕の力が強くなった。

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