変化した僕達と、変化する関係 (3)
食事会は、理衣おばさんと英人のお母さんと杉崎さんがいろいろ話していた。おじさんは、向かいの杉崎さんに注いでもらいながらビールをずいぶん飲んでて。
僕は横で聞きながら英人と話してた。
時間をかけて出てきた料理があとデザートだけってところになって、僕はトイレに行くために部屋を出た。
ふう、お腹いっぱい。ぜんぜん食べきれなかったけど、おいしかった。
「ちーちゃん、待って」
後ろからスリッパのぱたぱたした音が聞こえてきたと思ったら、理衣おばさんだった。
「一緒に行きましょ」
追いついてきたところで僕の腕に腕を絡めてくると、内緒話みたいにささやいてきた。
「ついでに、少しお話ししましょうか」
「……うん!」
嬉しいな。結婚とか今後の話をずっとしてて、僕が理衣おばさんと話すのはもう無理だと思っていたから。
トイレ横のパウダールームに椅子があったから、理衣おばさんと並んで座った。
「ずっとほったらかしにしててごめんね」
「ううん。結婚の話の方が大事だし」
「やだもう、今日も招待したのにほったらかしになってごめんね。……じゃなくて、私からぜんぜん連絡してなかったことね。私が健康そのものだし、英くんの話からもちーちゃんも問題なさそうとは感じていたけど、責任持って直接確認しないといけないのに、反響が思っていたよりもすごくて忙しくて」
「忙しいのは聞いてたから大丈夫だよ」
「まあね」
理衣おばさんはなんだか苦笑しながら、小さい子をあやすみたいに僕の頭をなでた。
「私の番号も知ってるんだし、気軽にメッセージでも送ってね。すぐには返事できないかもしれないけど、相談でもなんでも乗るから。性別が変わって悩んでいることでも、勉強や将来のことでもいいし、研究の進捗状況も」
「僕はもう戻らないって決めたから、研究は無理しなくてもいいよ」
「言わなかった? 成果が認められて正式なプロジェクトとして研究していくことになったから、よほどのことがない限りもう中止はないの。だからもし気になることがあったら、遠慮なく訊いてくれていいからね」
「部外者に話していいの?」
「ちーちゃんは協力者だからね」
協力する同意も承諾もなかったけどね。
同意かあ。もしちゃんと書類が用意されて事前に訊かれてたら……それでも、理衣おばさんの研究に協力できるならって受けていたかも。
結果が同じでも、わかってて女性になっていたら、英人があんなにイライラしないで済んだかもね。
「やっぱり戻りたくなったら、いつでも言ってね」
「ううん。迷わないって決めたから。薬が完成してもこのままでいるよ」
「ちーちゃんはしっかりしてるわね」
また頭をなでられた。
「……僕のことそう言うの、理衣おばさんだけだよ」
昔からそうだったなあ。僕がよくうっかりするから、お父さんもお母さんも英人も僕のことは心配するばっかりなのに、理衣おばさんだけは僕をしっかりしてるって言ってた。
「そう? ちーちゃんは小さい頃からしっかりものを考えてたりしてたけどね。好きなものは好きだし、興味を持ったことはよく勉強するし」
「それはおばさんの影響があったから」
「それでも、やる気がなかったらしないでしょ? ……ふふ。やっぱり私の影響があったのね。だったらと思っていたけど、ちーちゃんから直接聞けて嬉しいわあ」
はしゃいだ理衣おばさんが僕の頭をはげしくなでる。
髪の毛がぐしゃぐしゃになるからやめてってば。
「ちーちゃんがいてくれてよかったわ。ちーちゃんが一緒に楽しんでくれたから研究もやりがいがあったし、おかげで英くんとも触れ合えてたし」
「触れ合……えてた?」
「ちーちゃんと遊んでると、英くんも混ざってきてたからね。気難しくなってから私の相手はしてくれなくなっても、ちーちゃん独り占めは嫌だったみたいで」
僕と遊びたかったんじゃなくて、おばさんへの対抗心からだったみたいだけどね……。
「去年の夏休みは毎日会えたし」
仕事場に押しかけてきて無茶言われるのも、理衣おばさんにとっては触れ合いに入るの?
「英人がきつく当たってたって」
「ぜんぜん。楽しかったわよ、かわいい甥っ子と触れ合える時間がいっぱい持てて」
そうなんだ……。理衣おばさんが楽しかったならいいや。
もっといろいろ話したかったけど、ここでずっとのんびりしているわけにもいかないから理衣おばさんと一緒に戻ったら、デザートはとっくに運ばれてきていて、一緒に用意された締めのお茶でみんなまったりしていた。
最後のデザートは、食べやすいように切り口が入った果物とひと口サイズのケーキ。
英人が食べないで待っていてくれたから、僕は約束どおりにケーキをもらって、僕の分の果物は英人に食べてもらった。