きょうだいという荷物
妹とか弟とか、とにかくきょうだいと言う存在は、同居中の兄・姉の立場からしたら非常に厄介であると言う他ない。そしてそれはまた、我が家とて例外ではない。
昼間だと言うのに部屋の中は不気味なほどに薄暗かった。本来日当たりがいいはずの南向きの窓は固く雨戸で閉じられていて、光が入ってくる余地はまるでない。部屋で唯一目立つ机が、そうした薄暗さの中にぼんやりと存在感を持って浮かび上がっている。その前の椅子に座る妹は、明かりもつけずに、机に突っ伏していた。
机の上では文房具や教科書が塵紙やら食べかすやらにまみれて重なり合っている。汗を吸って茶色く変色した靴下が足元に脱ぎ散らかしてあり、その隣に用途不明のスーパーのビニール袋や、使いもしない青色のリュックサックが、だらしなく口を開いたまま放置されていた。まともに取り替えていないであろうゴミ袋の中身は既に溢れかえって部屋中にすえた臭いが漂っている。何度来てみても、この部屋が女の子の部屋とは思えない。しかしそれを今更妹に言ったところで何の効力もない。
六畳の狭い部屋なので闇に目が慣れると放置されているものには自然と目が行くが、あれば一番目立つであろう布団が敷かれていなかった。たぶん、妹は机の上でそのまま眠りこんでしまったのだろう。時刻は午前十時。普通の中学生は今頃二時間目の授業を受けていることだろうが、妹が起床するにはまだ早い。昨夜、いや、今日未明の一体何時に寝たのだろうか。
「おい」
私は部屋に踏み入って、机に全身を預けている妹の肩を揺すった。数回力を入れて揺すると妹は不機嫌そうに唸って、顔を納めていた腕から頭を上げた。だが顔をこちらに向けただけで、一向に瞼を開けようとはしない。それどころか、少し反応を示せば睡眠を妨げられずにすむと考えているのか、再び組んだ腕の中に顔を戻そうとしている。
「おい、起きろ。起きろってば」
もう一度肩を叩くと、うぅ、と声を上げるがやはり起きようとする意志は感じられない。仕舞いには肩においていた私の手を虫か何かのように払い除けて、頭を腕の中へと戻しにかかる。仕方がないので伸びるだけ伸びて整えられていない長髪を軽く引っ張ってみると、激しく痛んだ毛先が指に絡まって、私が意図しない形で妹の頭皮を刺激した。
「いッ……たいな、もう!」
「わ」
妹は突然頭を上げると私の肩を突き飛ばしてきた。押された衝撃で壁に思いっきり背中を打ちつけてしまい、骨と皮の間から鈍い痛みが生じた。皮下に直接鋭いものをねじ込んだようにびりびりと響くその痛みに背中をさすっていると、完全に暗くはない闇の中で、胡乱な瞳が私を見下ろしていた。相手が妹であるから恐怖こそないものの、露骨に顔をしかめられたら、やはりいい気はしない。
「ご飯は」
「いらない」
このタイミングで言われて肯定的な反応は返ってこないであろうとは予想していたものの、即答されるとこちらも「ああ、そう」と府抜けた返事をせざるを得ない。キッチンに作り置きしておいたビーフシチューがあるが、本人がいらないというのだからこれ以上勧めても仕方がないだろう。
「部屋に入ってくるな、バカ」
尻もちをついてほとんど壁に背を預けている状態の私を、妹がありったけの力で数回蹴飛ばした。小さな足の指の骨が一・二回脇腹に直撃して生々しい感触を残したが、大して痛くはなかった。私は座ったままの状態で後ずさりで移動し、開け放した状態だったドアから部屋を出た。