〈ニの剣〉その2
車屋に着いた〈三の剣〉。一時の時間を過ごす。
一方、宿屋で、〈シーナ〉と、謁見を果たした〈ニの剣〉は、重い…空気が、包む。
車屋に到着した〈三の剣〉。店には、数頭の合いの子ノートしかいない。ノートは、額に三本の大きな角を持っている。左右の角は、細く…外側に…丸みを持った曲線。真ん中の角は、太く…大きい。また…背中に、鋭い…三枚のひれを持っており、〈魔獣〉の攻撃に対抗している。細く長い尻尾も特徴である。また…皮膚は、硬く…分厚い。体長は、八空から十空程。がっしりとした体躯の為、それ程…早くは、走れない。乗り合い車をよく…引いている。
「へい!!。いっらしゃあい!!。」店の店主が、番台から現れた。がっしりとした体躯の三十代の男性。「車は、もう…無いよ!。」「〈レリー〉殿が、頼んだのは、あるか?!。」男の声に驚く店主。「えっ!。………。」「父さん!御無礼だろう!。」店の奥からリューンと同じ位の年の青年が、現れると、「御無礼致しました。〈剣〉様!。」「えぇぇ!!!。」店主が、驚きすぎて、腰を抜かす。布を外し、頭巾を後ろにずらす〈三の剣〉。「よく…判ったな!。」片膝をつき、頭を下げている青年と、土下座をしている店主。「〈調べ〉か?。」「はい。〈錨〉の〈調べ〉です。」〈調べ〉とは、〈感知能力者〉のことである。〈騎士〉に〈魔獣〉の位置を教える仕事をしている。数が、少ない為、どの街でも重宝されている。特に〈錨〉の〈調べ〉は、数日から十日近く…船に乗る為、非常に!危険な現場となっている。
「そうか。大変だな…。」「いえ!〈コーティアン〉で、〈八の盾〉している姉や〈ヒラブ〉で、〈調べ〉をしている妹に比べたら…。」「ほーお…。それは、すごいですね。」「ありがとうございます。父さん!早く…車を!」「あぁ!!。」慌てて…店の奥に消える店主。「〈レリー〉様には、代々…お世話になっております。」「……。」「お待たせ致しました…。」若い雄のノートの引いた車を引いてくる店主。車の横に…幼体の雌を連れている。「〈ユラ〉で、雄と交換します。」「……。」手を顔に当て、少し…考える振りをする〈三の剣〉。「雌を…もう一頭…。」「!!。」驚く店主。青年が、「法取引により…一金貨…多く…いただきます。」「構わない。」「〈ユラ〉で、五千銀貨と交換になります。」「あぁ…。」懐から四金貨を取り出し、渡す。「では…。宿屋に…三十分後にお連れいたします。」「頼む!。」布と頭巾をを被る〈三の剣〉。「ありがとう御座います。」青年と店主が、頭を垂れる。無言で、店を後にする〈三の剣〉。
宿屋に入って来る〈ニの剣〉。接客をしていた女将が、「いらしゃいませ!。」「〈ニの剣〉だ!。風呂場を借りるぞ!!。」「畏まりました。」ずた袋を女将に…押し付けるように…預けると、ずかずかと…風呂場に向かう〈ニの剣〉。女将は、慣れた手つきで、ずた袋から替えの服を取り出すと、すたすたと店の奥に消える。
三階の特別室。長椅子に座っているカーン。〈シーナ〉は、窓辺に立ち、外の景色を…眺めている。
「こんこん!。」戸を叩く音。「入れ!。」カーンが、言う。「失礼します!。」ぼさぼさの髪を首元で、一つに束ね、無償髭を綺麗に剃り…皺一つない薄水色の上下服を着た〈ニの剣〉が、現れた。「〈ニの剣〉…。ただ今…帰還致しました。」片膝を付き、頭を下げる〈ニの剣〉。振り返ると、和やかな笑顔を見せる〈シーナ〉。「お帰り!。〈ニの剣〉。」「〈シーナ〉様!わしは、失礼させていただきます!。」立ち上がり、頭を下げるカーン。立ち上がった〈ニの剣〉と無言のまま…すれ違うと、部屋を後にする。〈シーナ〉の近くに寄ると、再び…片膝を付き、頭を下げる〈ニの剣〉。
「〈ニの剣〉。また…この姿で、会えましたね。」「はい。」「百年前の約束通り…事を成就させます。」「………。陛下!。私をお連れ下さい!!。」「あの子が、います。」「…………。」思い詰めた顔をする〈ニの剣〉。「あれを…壊してでも…事を…成す…おつもりで、ございますか?!。」「あの子は、その為の…〈三の剣〉です。」「………。」「其方達は、私の成就の為の…駒。」「その通りに…ございます。」踵を返すと、窓の外…行き交う人々を見る〈シーナ〉。「すべては、未来の為!。人間が、独り立ちする為…。」強い口調で、言う〈シーナ〉。「……………。」ただ…押し黙るしかない〈ニの剣〉は、苦悩の表情を隠しきれない。複雑な顔をする〈シーナ〉は、遠くを見る。